映画をむさぼり、しゃぶる獣達――カルト映画と幻のコレクション

来住野つかさ

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096 第四のコレクター川真田の告白③

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 私の引っ越しは滞りなく終わった。三駅ほど都心に近くなったし、おそらく今の方が家賃が高そうな造りだ。良かったといえばそうなのかもしれない。だが、急な引っ越しに伴い、役所への届け出やら演ることが多くて、疲れがどっと出てしまった。
 少し眠ってしまい、気がついたら日がだいぶ傾いていてる。カーテンは少しサイズが合わないのでこれだけは買い替えなければいけないのだけど、大体隠れればいいやと割り切り、辻堂刑事と西村課長に新住所の報告をした。

 辻堂刑事の方は、空き巣の件がまだ分かっていないため、しばらくは自宅周辺の巡回を行うようにしていること、職場への出勤も平気そうなら止めないがもし気になることがあれば連絡してくるようにと心強い言葉をくれた。

 西村課長には、諸々片付いたので明後日から出勤したい旨報告すると、無理しないなら良しと言われた。また池上のことは、現段階では任意で調査を受けているだけなので、容疑者でもないのだけど、溜まった有給を使って休んでいるそうだ。
 「私は信じていないしな」という言葉を聞いて、込み上げてくるものがあったが、とにかくまたよろしくお願いしますと言って電話を切った。


 簡単にそうめんを茹でて食べ終えると、チャイムが鳴った。恐る恐る見に行くと、先程挨拶をした隣の住人だった。騒がせるのでとお菓子を渡したのを気にしてくれたのか、ぶどうを沢山買ったからと言ってお裾分けしてもらう。まだ冷蔵庫が冷えていないので冷たいものは嬉しかった。

 無心になってぶどうを食べていると、つらつらと色々なことを思い出してくる。

 『夜を殺めた姉妹』のことが知りたくて図書室に調べに行った時、井ノ口がこの作品のことを親切に色々と教えてくれた。観た後の今にして思うと、彼の言っていた内容はちょっと穿ち過ぎという気がしないでもない。映画では悪魔の伴侶の選び方にしても、悪魔が性別を超えた存在だとか姉妹が悪魔の力を得て利用しようとしたなどという明確な説明シーンはなかった。
 もしかしたらどこかの論文にそういう考察があったのかもしれないし、井ノ口自身に記憶の改ざんがあったのかもしれない。映画は不思議なもので、私もたまに全く違うシーンやラストを観たような気になっている時がある。
 映画を観た時に感じたものや思い出した記憶が綯い交ぜになってしまうのだろうか。存在しないシーンをまた観たいと思ってしまうこともあって、脳とは厄介なものだと笑ったものだ。······池上と。

 でも――富樫甲児自身は自作の説明をほとんどしないと聞いたことがある。上映前に田代主任が言っていた「映画はどのように見ても感じても自由なものです」というのは、富樫がよく言っていたインタビュー泣かせの言葉として有名だ。たとえ的外れな批評でも感想でも、冨樫は一切反論することはなく、「撮り終えたものは観客のもの」と言い切り、次作のことばかり考えていると。
 それなら、井ノ口のあの詳細な大悪魔の説明は、何を根拠にしていたのだろう。

 

 
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