上 下
92 / 131

092 雑草の中で眠る④

しおりを挟む
 西村課長には私からも電話をし、空き巣に入られたため落ち着くまで休ませて欲しい旨報告をした。気の毒がって課長の家に泊まるように勧められたが、そうは言っても何日かかるか分からないし、小さいお子さんの居るそちらに犯罪の手が伸びてしまったら困る。なので、親にも相談して引っ越そうかと思っていると言うと、何かあれば手伝うけど少し休みなさいと労ってくれた。
 忙しいところなのに申し訳ないが、池上に会わなくて済むのはホッとする。

 そして辻堂刑事に教わりつつ、空き巣に入られたことをコーポの管理会社へ連絡してから通帳とクレジットカードを止めた。そして今夜はもう遅いので、朝になったら自宅で何が盗まれたかを確認しに行くこととなった。
 連絡を受けた親は心配して上京すると言ったが、管理会社の方ですぐに入れるところを用意してくれることになったので、差し当たっては大丈夫と言って落ち着かせた。

 辻堂刑事が近くのビジネスホテルを紹介してくれ、巡回を増やすから安心して休むように言ってくれた。掴まれた腕は痣になってて痛いし、感情が高ぶって眠れないかと思ったが、シャワーで土や草の匂いを取るとすぐに寝てしまった。
 

     ◇     ◇     ◇



 翌日。実際の部屋を見てその惨憺たる様にショックを受けたが、何故か何も盗まれていないようだった。犯人のものと思われる指紋は一切出て来ないなど一見繊細なやり口なのに、過剰に色んな物がひっくり返され、引き倒されたり、ぶち撒けられていたり、ドアを開けっ放しにするところなどが、辻堂刑事曰く『何かが見つからなくてその苛立ちが感じられる』そうだ。

 空き巣の実況見分は夜の内にある程度は終わっていたらしい。不思議なのは無理にこじ開けた形跡がないこと。合鍵を持っていたか初めから開いていたと思われること。雑に室内を荒らされているが、出て行く時はドアが開け放たれたままだったこと。

 通報者は池上。あの後コンビニからいなくなった私を心配して家まで見に来たところ、全開のドアに不審に思った池上が通報したということ。彼の自作自演の可能性も考えたが、手荷物にも怪しいところはないし、私の家の両隣の人に朝からドアが開いていたかまで確認して安否を心配していたので、容疑者からは外れているということ。

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

紙の本のカバーをめくりたい話

みぅら
ミステリー
紙の本のカバーをめくろうとしたら、見ず知らずの人に「その本、カバーをめくらない方がいいですよ」と制止されて、モヤモヤしながら本を読む話。 男性向けでも女性向けでもありません。 カテゴリにその他がなかったのでミステリーにしていますが、全然ミステリーではありません。

体育教師に目を付けられ、理不尽な体罰を受ける女の子

恩知らずなわんこ
現代文学
入学したばかりの女の子が体育の先生から理不尽な体罰をされてしまうお話です。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

雨の向こう側

サツキユキオ
ミステリー
山奥の保養所で行われるヨガの断食教室に参加した亀山佑月(かめやまゆづき)。他の参加者6人と共に独自ルールに支配された中での共同生活が始まるが────。

四人の女

もちもち蟹座
ミステリー
[  ] 時代は、昭和 [  ]  場所は、お茶屋の2階、四畳半の お座敷。 [  ] 登場人物、金持ちの男•4人の女

処理中です...