映画をむさぼり、しゃぶる獣達――カルト映画と幻のコレクション

来住野つかさ

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086 待ち伏せ③

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 メモを読み終えた山森が、何とも言えない顔で返して来る。

「観てないからっていうのもあるけど、難解。最後ってどういうこと?」
「カルト映画を舐めてました。私にもさっぱりです」
「そうかあ、冨樫ヤバいね。でもこの映画······よくアメリカで一度は受け入れられたね」

 それは本当にそう思う。宗教の知識がないけれど、隠れキリシタンが邪教集団で、悪魔呼び出して皆殺しにされるとか、キリスト教のお国柄で文句が出なかったのだろうか?
 それとも白岩監督を皮切りに国際的な映画賞をいくつか日本映画が獲ったことで、海外で日本映画ブームが起きた1950年代当時は、そういう事もあまり気にせず評価してくれていたのだろうか。

「セットとか映像とか、役者の演技も音楽もすごい良いんですよ。『黄昏』の方はどっちかと言うと終始ローアングル気味じゃないですか。『夜』は徐々に浮上していくような撮り方してたんですよね。髪を切ってカメラ位置が上がって、キリシタンのところに行って上がって、みたいな感じで。それで最後は月の夜空にカメラがパンするんですよ」
「そういう仕掛け? 女のしがらみを捨てる度に心が軽くなるみたいな?」
「あ、そう! そういう感じかもです」
「でもちょっと怖いね」

 それぞれのランチが来たので、お喋りは一時中断して食事を楽しんだ。ここはパスタが本当に美味しいが、添えられてくるバケットと手作りバターがとにかく最高で、カリカリさと軽い口当たりのハーモニーがこっちをメインにしたくなるほど好みだ。
 嬉しくてもぐもぐと食べていると、珍しく食が進まない風の山森がサラダをいじっている。

「あれ、どうしましたか?」
「うん。思ったより昨日ご飯食べ過ぎたかなぁって。ごめんね、残して」

 お腹をさすりながら申し訳無さそうな表情を見せて山森はカトラリーを置いてしまった、食べるのを諦めてしまったらしい。
 山森が手を付けなかったバケットをくれたので、ちょっと恥ずかしくなりながらも美味しく食べてしまった。アオリイカのパスタもすごく良かった。午後眠くならないように気をつけなければ。

「あの······さ、昨日の話し合いの方はどうだったの?」
「そうですね。ここでは少し言いにくいんですけど、三家が集まって······、実はけっこうお互いに色々あるおうちだったんですよ。合縁奇縁っていうか、悪縁っていうか」
「悪縁?」
「映画好きな人同士ですから、どうしてもよく劇場で会うでしょうし、なおかつコレクター同士ですから、より接触の機会が多かったんでしょうね」
「よく分からないけど」
「えと、この三家の中でも付き合ったり別れたりとか色々あったみたい、ってことです」

 
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