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079 『夜を殺めた姉妹』特別観覧①
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「山森さん、すみません。今言いかけていたこと······」
「あ、えっと、そうそう。良かったらさ、明日外でランチしない?」
「いいですね。暑さも和らいで来たし、外に出る気になりますね」
「本当? じゃあそうしようよ。今日は映画観られないからさ、後で話教えてね」
「承知です。お店あんまり分からないんで決めてもらっていいですか?」
「うんうん、もちろん。明日弁当なしねー」
「はい明日ー。お疲れ様です」
いそいそと帰宅して行く山森を見送ると、今度は尾崎係長に声をかけられた。
「日比野さん、悪い! 今日の特観用にペットボトルのお茶を20本買って来てくれない? 冷えてるやつね」
「あ、はい。全部同じのでいいですか?」
「10本は先方に出すから必ず同じの。他は足りなければ適当でいいよ」
「分かりました。今から行って来ます」
「一人じゃ重たいから誰か連れてって」
「あ、えと」
こういう時、いつも付き合ってくれるのは歳も近い池上だ。だけどこの頃どうも考え過ぎてしまって、気安く声をかけにくい。どうしようかと思っていると、ちょうど本を抱えて戻って来た田代主任と目が合った。
「日比野ちゃ······」
「あの、田代主任。すみませんが、そこのコンビニまでご一緒してもらえませんか? 特観用にドリンク買うんですけど持てそうもないので」
「へ? ああ、いいけど。······今から行くの?」
「長めに冷やしたいので、お願いします」
どこかの映画祭でもらった館のお使い用トートバッグを二つ用意して戻ると、何故か大笑いをしている田代主任の横を池上が大股で去っていった。
閉館後。守衛さんに確認をお願いしておいた方々が大ホールに参集したとのことで、私達もお客様と館長のお話を邪魔しないように目礼だけして席に着いた。館内向け特観なので、資料課以外の人もちらほら来ているようだ。『神の位置』を見上げると、映写技師のおじさん達が嬉しそうに手を振って来る。お客様にバレますよ。
「これから冨樫甲児監督の『夜を殺めた姉妹』を上映いたします。この作品は同監督の『黄昏を纏いし姉妹』の続編と言われておりますが、その様相はまるで違うものです。『黄昏』では裕福な家に生まれた姉妹の柔らかな日々に迫りくる斜陽、そして世の荒波に立ち向かおうとする姿を描き、続く『夜』では結局荒波に飲まれてしまう姉妹が、ふとした事で怒りを知り、その怒りが様々な感情を芽生えさせていく······。いや、話し過ぎるのはやめておきましょう。
『映画はどのように見ても感じても自由なものです』。――それでは始めさせていただきます」
田代主任の口上終わりにあわせて緩やかにホールが消灯し、カタカタと映写機が動き出す。
スクリーンに白い光が灯り、その中にモノクロのタイトルが映し出される。カルト映画と呼ばれた『夜を殺めた姉妹』が始まった。
「あ、えっと、そうそう。良かったらさ、明日外でランチしない?」
「いいですね。暑さも和らいで来たし、外に出る気になりますね」
「本当? じゃあそうしようよ。今日は映画観られないからさ、後で話教えてね」
「承知です。お店あんまり分からないんで決めてもらっていいですか?」
「うんうん、もちろん。明日弁当なしねー」
「はい明日ー。お疲れ様です」
いそいそと帰宅して行く山森を見送ると、今度は尾崎係長に声をかけられた。
「日比野さん、悪い! 今日の特観用にペットボトルのお茶を20本買って来てくれない? 冷えてるやつね」
「あ、はい。全部同じのでいいですか?」
「10本は先方に出すから必ず同じの。他は足りなければ適当でいいよ」
「分かりました。今から行って来ます」
「一人じゃ重たいから誰か連れてって」
「あ、えと」
こういう時、いつも付き合ってくれるのは歳も近い池上だ。だけどこの頃どうも考え過ぎてしまって、気安く声をかけにくい。どうしようかと思っていると、ちょうど本を抱えて戻って来た田代主任と目が合った。
「日比野ちゃ······」
「あの、田代主任。すみませんが、そこのコンビニまでご一緒してもらえませんか? 特観用にドリンク買うんですけど持てそうもないので」
「へ? ああ、いいけど。······今から行くの?」
「長めに冷やしたいので、お願いします」
どこかの映画祭でもらった館のお使い用トートバッグを二つ用意して戻ると、何故か大笑いをしている田代主任の横を池上が大股で去っていった。
閉館後。守衛さんに確認をお願いしておいた方々が大ホールに参集したとのことで、私達もお客様と館長のお話を邪魔しないように目礼だけして席に着いた。館内向け特観なので、資料課以外の人もちらほら来ているようだ。『神の位置』を見上げると、映写技師のおじさん達が嬉しそうに手を振って来る。お客様にバレますよ。
「これから冨樫甲児監督の『夜を殺めた姉妹』を上映いたします。この作品は同監督の『黄昏を纏いし姉妹』の続編と言われておりますが、その様相はまるで違うものです。『黄昏』では裕福な家に生まれた姉妹の柔らかな日々に迫りくる斜陽、そして世の荒波に立ち向かおうとする姿を描き、続く『夜』では結局荒波に飲まれてしまう姉妹が、ふとした事で怒りを知り、その怒りが様々な感情を芽生えさせていく······。いや、話し過ぎるのはやめておきましょう。
『映画はどのように見ても感じても自由なものです』。――それでは始めさせていただきます」
田代主任の口上終わりにあわせて緩やかにホールが消灯し、カタカタと映写機が動き出す。
スクリーンに白い光が灯り、その中にモノクロのタイトルが映し出される。カルト映画と呼ばれた『夜を殺めた姉妹』が始まった。
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