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075 八頭家に起きたトラブル①

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 比江島氏のマンション訪問から数日。思ったより早くに八頭家に行くことになった。

 比江島和志氏も同伴し、伺ったのは彼女が暮らしていた邸ではなくご実家の方。八頭女史の邸からさほど離れていない場所だが邸の広さが桁違いだ。この高級住宅地にこんなに広い敷地を有しているなんて本当にお嬢様だったんだなと改めて思ってしまった。

 使用人の方に中へ通していただくと、明るくモダンな応接室では八頭女史のご両親とお兄様が揃っていた。

「この度は誠にご愁傷様でございます。私どもは······」

 と西村課長が口上を述べようとしたところ、

「だから、そんな訳はないんだ!」

 バン、とテーブルを叩いてお父様が怒鳴った。

「あり得ない、あの子は面食いだぞ! そんな訳あるもんか!」
「分かってますよ。あいつら、うちを嵌めようとしてるってことでしょう。全く舐め腐りやがって」

 お父様の激昂にあわせるようにお兄様が舌打ちをして応じる。何やら家族間で揉めているようだ。

「あの、お客様ですけど······」

 使用人さんが一際通る声を出してくれ、ようやく私達はご家族と挨拶をすることが出来た。




「いや、申し訳ない。つい腹が立ってしまって······」

 頭を掻くこの人は八頭龍司。八頭女史のお父様だ。大きな瞳を持ち、恰幅のいいお腹がいかにも美味しいものを作り出し、またその中に収めてきたのだろうと思わせる。説得力のあるお腹が不思議と格好良く見える。

「こちらは家内の景子。それとこっちは息子の龍正です」

 ふくよかだが優しげで美しいお母様と、隙のない端正な顔つきのお兄様。その華やかな目鼻立ちが八頭女史にとてもよく似ている。

「我々は国立映画資料館の西村と日比野です。早苗様には以前よりよくご来館いただいておりました。こちらは早苗様と同じ映画コレクターであった比江島直哉氏の弟さんの和志氏です」

 西村課長の挨拶にあわせて私も頭を下げる。

「ご心痛のところお邪魔して恐縮です。ところでどうなさいましたか? お差し支えなければ······」

 和志氏が水を向けると、お母様が間延びした声で答えた。

「聞いて下さる? 娘がね、結婚したって言うのよ。すごい不細工と!」
「······はい?」

 驚いて続きを伺うと、あの日八頭女史が結婚したことになっているのだという。
 あの、川真田猛と。

 
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