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062 佐山邸で調査再開③

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 私の疑問に西村課長がすぐさま提案をしてくれる。映画が観られれば何か気付くことがあるかもしれない。

「それと、前から思っていたんだが、比江島氏の切除は単純な『阿部定』模倣なんだろうか? その、ソレが祭壇に供えられたというのが気になるんだが。『夜を殺めた姉妹』では祭壇にそんなもの供えられてなかったように思うし」

 尾崎係長も気になっていたことを口にする。これは私も思っていた。

「······もしかして地下室殺人に関連する映画があるのかもしれないね。ちょっと思いつかないけど。
 八頭女史の件、映画見立ての殺人なんて狂ったことが本当に起きているのだから、あながち日比野さんの推測も外れてないように思うし」

 田代主任のコメントには誰も何も返答しない。地下室殺人の映画。この世は未見の映画に溢れている。映画専門館の研究員が揃っても思い至らない作品が存在するのかもしれないが、そこまでマイナーな作品をモチーフにしたのなら逆に犯人は相当の映画マニアだということだ。

「そういえば、川真田氏と門木氏がいたって?」
「はい。太った男性と猿のマスクの男性が突然入って来て、私はそのすぐ後に意識を失ってしまったのですが、後で八頭女史の使用人が彼らをそう呼んでいましたからそういうお名前なのだと」

 池上の問いかけに私が答えると、田代主任が大きく相槌を打ってくれた。 

「それならその二人かもしれない。
 ニッコー門木もんき氏は基本的に公に出て来ない人で、何かあると猿のマスクを付けてくるんだ。門木というのもモンキーの当て字で本名も素顔も分からない。覆面批評家でこの人も映画コレクターだね。集めているのは批評家だからか映画全般の本とか雑誌だと思うよ」
「門木氏は、試写会にも現れないし徹底してるよな。一般公開されてから批評を書くスタイルだ。
 もう一人の川真田氏は川真田猛かわまたたけるといって、この人もまた映画コレクターだよ。しかも生粋の映画獣。特撮映画系を専門に集めている人だが、カルト映画もオーソドックスなものも、とにかく映画獣だから何でも観るタイプで、名前の通り猪突猛進。映画のためならエンヤコラなのか、どこの特集上映に行っても見かけるよ」

 少し呆れたように尾崎係長が零すと、他の四人も頷いている。私は周りを見ていないのかな。あんな特徴的な体型の人なら分かりそうなものなのに、川真田氏を見かけた記憶がない。

「······噂だと二人もヨシイ古書店と懇意だって」
「ヨシイ古書店ねえ。井ノ口なんかは図書室の充実を図るためにあそこからも買おうとするが、あんまり縁を結びたくないよな、何となく」
「井ノ口は資料を増やすことに執念を燃やしてるからなあ」
「でも佐山氏のコレクションが寄贈されたら、ヨシイ古書店から買うこともないかもしれませんよね?」
「そうなるといいよね。まずは全て受け入れて、目録作って、書籍類を図書室に渡してみて······だね。長い道のりだなあ」
 
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