映画をむさぼり、しゃぶる獣達――カルト映画と幻のコレクション

来住野つかさ

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053 カルト映画と殺人④

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「どうしたんですか、日比野さん」
「辻堂さん······」

 そう言って私の肩を辻堂刑事が軽く叩く。なんと言ったらいいか分からないが、とにかく涙が出てしまうのが止められない。死んでいる八頭女史は何とも無惨な姿だったのだ。

 八頭女史の使用人達が警察に連絡すると言った時、私はまず辻堂刑事に連絡したのだ。

「今日こちらにお見えになったのは、日比野様と、だいぶ遅れて川真田様と門木様。川真田様と門木様はすぐにお帰りになりました。
 日比野様は酔ってしまわれたのか、こちらにお泊まりになるからと奥の部屋にお通しし、私どもは別棟で休んでおりました。
 ここは私ども夫婦でお嬢様のお世話をしておりまして、夜はお風呂のお支度を終えますと下がらせていただきます。何かあればお嬢様から内線が入りますが、お嬢様は基本的にご自身で対応することが多いので、来客がある時もお嬢様が出迎えることが大半です。私達が老齢だから気を遣って下さっていたのかもしれません」

 それだから住み込みだけど、実はさほど仕事をしているわけでもないため、あの時何が起こっていたか知らないのです。そう八頭女史の使用人――清水夫妻の妻・依子は話した。
 彼女の夫・清水将義も同様の答えだったので、次は私が聴取を受けた。

 私はここに半ば強制的に連れて来られたこと、ご飯を食べたあとから尋常ではなく眠たくなり、意識をなくしたこと。
 その前に太った男と猿のマスクをつけた男が来たので、姿は見たこと。二人の名前が川真田と門木だというのは知らないこと。
 気付いたら洋館のコレクションルームから和風平屋に移されていて、帰るために依子とカバンを取りに戻ったらその部屋で八頭女史が殺されていたこと。

 言えることはそのくらいしかない。

 私が見た八頭女史の姿は異様なものだった。クーラーが驚くほど低く設定されており、あの黒ミサのような祭壇にはレンガのような大きさの氷がピラミッド状に積み上げられて、その一番上の氷レンガの中に何かが凍って入っている。

 このコレクションルームの天井からは金属の太い梁が何本も走り、上からはピクチャーレールらしきループワイヤーが垂れ下がっている。
 美術館によくある吊り下げ式の展示形態がここには出来ているのだが、八頭女史の死体はまるで操り人形のようにピクチャーレールによって今まさに悪魔が降り立つのを待ちわびるように祭壇の前で両手を広げているのだ。
 そしてその前にある氷の中、大きな赤いザリガニ――レッド・ロブスターが比江島の性器を襲っているようにハサミで掴んでいる。まるで八頭女史が比江島氏を切ったとでもいうように。吐き気のするような弄びぶりだ。

 八頭女史の死因は首を絞められたことによる窒息死。凶器となったものはピクチャーレールのようだ。比江島氏の切り取られた性器は見つかったが、切除したナイフは見つからない。

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