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050 カルト映画と殺人①

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 涙で顔を歪めた八頭女史に詰問される。

「殺されたってどうして? あの人は少しだらしないところもあったけど、悪い人ではなかったわ」
「······私は平然となんて出来ませんでした。血を流している比江島さんが、亡くなっているなんて思いませんでしたし」

 そう、平然となんてしていない。今でも夢に見るのだ。地下室の下で倒れる比江島氏のあの姿を。

 彼女がどこまで知っているのか分からないが、比江島氏が殺された情報は確実に漏れている。そして私達がその場にいたことも。

「なんで佐山のところに居たのかしら? あなた何か知っていて?」
「私は本当に何も知らないんです。理由も全く思い付きません」
「······まあ、あなたは入ったばかりの人だし、比江島とも佐山とも交流がなかったのなら、知らないか。
 私、過去に少しだけ佐山とも付き合ったことがあるの」

 意外な過去だった。佐山氏とでは親子ほどは歳の差があるだろうに。

「もちろん道ならぬ何とやらよ。お互い伴侶がいたし、ただの交接だったのかもしれないわね。その頃は家に反発して夫のことも煩わしく感じていたし。ただの遅れた反抗期に巻き込んで、痛い目にも遭ってしまって。夫には悪いことをしたわ」
「······そうでしたか」

 八頭女史は何かを思い出すように複製の台本を取りに行き、私に見せてくれる。たしかに冨樫甲児のものだ。それから白岩暁のもの、鳴子遊雲、汐路鷹一までもある。どうしてこんなに沢山?

 それからアメリカのビリーズ美術館内に展示された『夜を殺めた姉妹』を観に行った時のものだろうか、ミニアルバムを貸してくれた。
 今ここにある祭壇と同じ物が展示されている。その前で、あちらのお偉いさんと思しき人と握手する八頭女史の写真。ガラス越しではない冨樫甲児のデスマスクの写真。次の写真は、富樫のデスマスクを自身の顔に当てている男性のはしゃいだ風が映し出されている。

 富樫のデスマスクは八頭女史の元に一時期はあったと言っていた。だが、そのデスマスクで遊ぶ男性には不快感を持った。良い歳だろうに、そんなもので遊ぶだなんて。

 これは生きていた人が亡くなり、その死とともに消えてしまう生の痕跡を写し取ったもの。目尻のシワも鼻の通りも、唇も写し取られたそれは、もし人のように着色したら眠るその人にしか見えないのではないだろうか。
 故人を知らずともそう思えるような精巧な物。だけれどブロンズになっていることで、これは故人とは別の物である、生なるものではない、と断定できる。自分が死後もデスマスクのブロンズや、マダム・タッソーのような蝋人形になったら、と想像すると少し怖い。ミイラや氷漬けで発見された子供のマンモスを見る度に感じる漠然とした恐怖、体だけ生きた時代から置いていかれた不安のようなものを感じてしまうのだ。

 
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