映画をむさぼり、しゃぶる獣達――カルト映画と幻のコレクション

来住野つかさ

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034 映画獣? クラファン詐欺?①

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 それはごく自然に出た質問だったので、井ノ口も自然に答えていた。

「牧田くんという佐山氏の義息子さんに一報もらったのですよ。彼も私家本校正の時にはよくここに来ていましたしね」
「ああ、彼ですか。前にここでアルバイトもしていたとか?」
「そうなんです。彼はまだ大学生でしたが、仕事もとても熱心で、映画もよく観ていました。そんな彼だから佐山さんともここで知り合って意気投合したんですよ」

 少し口が軽くなってきた井ノ口が当時を思い出すように目を細めている。井ノ口の方が牧田より年上かと思うが、青春時代の思い出とリンクするところがあるのかもしれない。

「佐山さんとだとずいぶん歳が離れていますが、映画という共通項があるから親しくなったと?」
「そうだと思いますよ。あんまり映画ファンって年齢のこととか気にしないんです。面白い映画が観たいっていう情熱で、結構なお歳の方でも夜行バスに乗って来る人もいますし、祖父と孫くらいの年齢差でも西部劇が好きってことで友達になる人だって。そういうのは何人も見ています。
 『映画獣』と呼ばれる人々は別ですけど」

 たしかに映画の話なら、好みの違いがあっても年齢性差関係なく話は出来るかもしれない。私にそこまで年上の方の友人はいないが、そんなこともありそうだと、うんうんと頷いて聞いていた。

「『映画獣』とは何です?」
「ああ、我々の中での隠語です。年間1000本以上観る人のことを、隠れてそう呼んでます。それだけ観ているとまともな人間らしい生活が出来なくなるので、もうケモノだね、と。まあシネフィル――映画狂の一種ですかね。眼精疲労対策の頭痛薬を噛み砕きながら、中には本数を重ねることだけに情熱を注ぐ人もいるのですよ。人が観たことのない作品を自分だけが知っていると悦に入る人なんかもね」

 私は学生時代、多くても年間700本くらいだったので、まだ人間だっただろうか。なかなかの駄目人間っぷりだったかもしれないが、そういう人は半獣と呼ばれていたらしい。シネフィルの世界は恐ろしい。

「そうでしたか! いやあ面白いものですね。井ノ口さんは佐山さん牧田さんともに親しい関係を築いていらっしゃったと。仕事で出会う人に信頼を寄せられるとは流石なものですね。
 それでしたらもしご存知なら教えてほしいのですが、佐山さんが他に親しくしていた方ってご存知ないですか? 比江島さんの方でもいいですが、もしかして他の映画コレクターさん達は二人と親しかったでしょうかね?」

 ここでようやく確信めいた質問が出た。

「うーん。比江島さんはよくここにも作品を観に来られる古書店の店主さんと親しくされていたように思いますよ。あと、他のコレクターさんは、上映会場ではよく挨拶を交わしているようでしたが、その後食事に行くほど親しかったのかまでは分りませんね」
「充分なお話をありがとうございます。あと、もう一つ。その古書店さんって何ていうところですか?」
「映画関連専門のヨシイ古書店さんです」

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