34 / 131
034 映画獣? クラファン詐欺?①
しおりを挟む
それはごく自然に出た質問だったので、井ノ口も自然に答えていた。
「牧田くんという佐山氏の義息子さんに一報もらったのですよ。彼も私家本校正の時にはよくここに来ていましたしね」
「ああ、彼ですか。前にここでアルバイトもしていたとか?」
「そうなんです。彼はまだ大学生でしたが、仕事もとても熱心で、映画もよく観ていました。そんな彼だから佐山さんともここで知り合って意気投合したんですよ」
少し口が軽くなってきた井ノ口が当時を思い出すように目を細めている。井ノ口の方が牧田より年上かと思うが、青春時代の思い出とリンクするところがあるのかもしれない。
「佐山さんとだとずいぶん歳が離れていますが、映画という共通項があるから親しくなったと?」
「そうだと思いますよ。あんまり映画ファンって年齢のこととか気にしないんです。面白い映画が観たいっていう情熱で、結構なお歳の方でも夜行バスに乗って来る人もいますし、祖父と孫くらいの年齢差でも西部劇が好きってことで友達になる人だって。そういうのは何人も見ています。
『映画獣』と呼ばれる人々は別ですけど」
たしかに映画の話なら、好みの違いがあっても年齢性差関係なく話は出来るかもしれない。私にそこまで年上の方の友人はいないが、そんなこともありそうだと、うんうんと頷いて聞いていた。
「『映画獣』とは何です?」
「ああ、我々の中での隠語です。年間1000本以上観る人のことを、隠れてそう呼んでます。それだけ観ているとまともな人間らしい生活が出来なくなるので、もうケモノだね、と。まあシネフィル――映画狂の一種ですかね。眼精疲労対策の頭痛薬を噛み砕きながら、中には本数を重ねることだけに情熱を注ぐ人もいるのですよ。人が観たことのない作品を自分だけが知っていると悦に入る人なんかもね」
私は学生時代、多くても年間700本くらいだったので、まだ人間だっただろうか。なかなかの駄目人間っぷりだったかもしれないが、そういう人は半獣と呼ばれていたらしい。シネフィルの世界は恐ろしい。
「そうでしたか! いやあ面白いものですね。井ノ口さんは佐山さん牧田さんともに親しい関係を築いていらっしゃったと。仕事で出会う人に信頼を寄せられるとは流石なものですね。
それでしたらもしご存知なら教えてほしいのですが、佐山さんが他に親しくしていた方ってご存知ないですか? 比江島さんの方でもいいですが、もしかして他の映画コレクターさん達は二人と親しかったでしょうかね?」
ここでようやく確信めいた質問が出た。
「うーん。比江島さんはよくここにも作品を観に来られる古書店の店主さんと親しくされていたように思いますよ。あと、他のコレクターさんは、上映会場ではよく挨拶を交わしているようでしたが、その後食事に行くほど親しかったのかまでは分りませんね」
「充分なお話をありがとうございます。あと、もう一つ。その古書店さんって何ていうところですか?」
「映画関連専門のヨシイ古書店さんです」
「牧田くんという佐山氏の義息子さんに一報もらったのですよ。彼も私家本校正の時にはよくここに来ていましたしね」
「ああ、彼ですか。前にここでアルバイトもしていたとか?」
「そうなんです。彼はまだ大学生でしたが、仕事もとても熱心で、映画もよく観ていました。そんな彼だから佐山さんともここで知り合って意気投合したんですよ」
少し口が軽くなってきた井ノ口が当時を思い出すように目を細めている。井ノ口の方が牧田より年上かと思うが、青春時代の思い出とリンクするところがあるのかもしれない。
「佐山さんとだとずいぶん歳が離れていますが、映画という共通項があるから親しくなったと?」
「そうだと思いますよ。あんまり映画ファンって年齢のこととか気にしないんです。面白い映画が観たいっていう情熱で、結構なお歳の方でも夜行バスに乗って来る人もいますし、祖父と孫くらいの年齢差でも西部劇が好きってことで友達になる人だって。そういうのは何人も見ています。
『映画獣』と呼ばれる人々は別ですけど」
たしかに映画の話なら、好みの違いがあっても年齢性差関係なく話は出来るかもしれない。私にそこまで年上の方の友人はいないが、そんなこともありそうだと、うんうんと頷いて聞いていた。
「『映画獣』とは何です?」
「ああ、我々の中での隠語です。年間1000本以上観る人のことを、隠れてそう呼んでます。それだけ観ているとまともな人間らしい生活が出来なくなるので、もうケモノだね、と。まあシネフィル――映画狂の一種ですかね。眼精疲労対策の頭痛薬を噛み砕きながら、中には本数を重ねることだけに情熱を注ぐ人もいるのですよ。人が観たことのない作品を自分だけが知っていると悦に入る人なんかもね」
私は学生時代、多くても年間700本くらいだったので、まだ人間だっただろうか。なかなかの駄目人間っぷりだったかもしれないが、そういう人は半獣と呼ばれていたらしい。シネフィルの世界は恐ろしい。
「そうでしたか! いやあ面白いものですね。井ノ口さんは佐山さん牧田さんともに親しい関係を築いていらっしゃったと。仕事で出会う人に信頼を寄せられるとは流石なものですね。
それでしたらもしご存知なら教えてほしいのですが、佐山さんが他に親しくしていた方ってご存知ないですか? 比江島さんの方でもいいですが、もしかして他の映画コレクターさん達は二人と親しかったでしょうかね?」
ここでようやく確信めいた質問が出た。
「うーん。比江島さんはよくここにも作品を観に来られる古書店の店主さんと親しくされていたように思いますよ。あと、他のコレクターさんは、上映会場ではよく挨拶を交わしているようでしたが、その後食事に行くほど親しかったのかまでは分りませんね」
「充分なお話をありがとうございます。あと、もう一つ。その古書店さんって何ていうところですか?」
「映画関連専門のヨシイ古書店さんです」
10
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説

強制憑依アプリを使ってみた。
本田 壱好
ミステリー
十八年間モテた試しが無かった俺こと童定春はある日、幼馴染の藍良舞に告白される。
校内一の人気を誇る藍良が俺に告白⁈
これは何かのドッキリか?突然のことに俺は返事が出来なかった。
不幸は続くと言うが、その日は不幸の始まりとなるキッカケが多くあったのだと今となっては思う。
その日の夜、小学生の頃の友人、鴨居常叶から当然連絡が掛かってきたのも、そのキッカケの一つだ。
話の内容は、強制憑依アプリという怪しげなアプリの話であり、それをインストールして欲しいと言われる。
頼まれたら断れない性格の俺は、送られてきたサイトに飛んで、その強制憑依アプリをインストールした。
まさかそれが、運命を大きく変える出来事に発展するなんて‥。当時の俺は、まだ知る由もなかった。

若月骨董店若旦那の事件簿~満開の櫻の下に立つ~
七瀬京
ミステリー
梅も終わりに近付いたある日、若月骨董店に一人の客が訪れた。
彼女は香住真理。
東京で一人暮らしをして居た娘が遺したアンティークを引き取って欲しいという。
その中の美しい小箱には、謎の物体があり、若月骨董店の若旦那、春宵は調査をすることに。
その夜、春宵の母校、聖ウルスラ女学館の同級生が春宵を訪ねてくる。
「君の悪いノートを手に入れたんだけど、なんだかわかる……?」
同時期に持ち込まれた二件の品物。
その背後におぞましい物語があることなど、この時、誰も知るものはいなかった……。

言霊の手記
かざみはら まなか
ミステリー
探偵は、中学一年生女子。
依頼人は、こっそりひっそりとSOSを出した女子中学生。
『ある公立中学校の校門前から中学一年生女子が消息をたった。
その中学校では、校門前に監視カメラをつける要望が生徒と保護者から相次いでいたが、周辺住民の反対で頓挫した。』
という旨が書いてある手記は。
私立中学校に通う中学一年生女子の大蔵奈美の手に渡った。
中学一年生の奈美は、同じく中学一年生の少女萃(すい)と透雲(とおも)と一緒に手記の謎を解き明かす。
人目を忍んで発信された、知らない中学校に通う女子中学生からのSOSだ。
奈美、萃、透雲は、助けを求めるSOSを出した女子中学生を助けると決めた。
奈美:私立中学校
萃:私立中学校
透雲:公立中学校
依頼人の女子中学生:公立中学校
中学一年生女子は、依頼人も探偵も、全員、別々の中学校に通っている。
それぞれ、家族関係で問題を抱えている。
手記にまつわる問題と中学一年生女子の家族の問題を軸に展開。

カフェ・ノクターンの吸血鬼探偵 ~夜を統べる者は紅茶を嗜む~
メイナ
ミステリー
——夜の帳が降りるとき、静かに目を覚ます探偵がいる。
その男、ノア・アルカード。
彼は 吸血鬼(ヴァンパイア)にして、カフェ『ノクターン』のオーナー兼探偵。
深夜のカフェに訪れるのは、悩みを抱えた者たち——そして、時には「異形の者たち」。
「あなたの望みは? 夜の探偵が叶えてさしあげましょう」
神秘の紅茶を嗜みながら、闇の事件を解き明かす。
無邪気な黒猫獣人の少女 ラム を助手に、今日もまた、静かに事件の幕が上がる——。
🦇 「吸血鬼×探偵×カフェ」ミステリアスで少しビターな物語、開幕!

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる