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032 辻堂刑事の来訪④

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「まずどちらに向かわれますか?」

 マスターキーを預かって来た私が話を向けると、辻堂刑事は「じゃあ上からで」と言うので、私達ははじめに5階の常設展示室へ行くことになった。

 ここは、当館で所蔵している映画資料を常設で展示しているスペースだ。特集上映が行われる時にはそれに関連するコーナーを作ることもあるが、展示替えはあまり頻繁には行わない。映画の成り立ちや、白黒映画からカラー映画、また無声映画からトーキーへの変遷のことや、戦争中のニュース映画、海外で評価された日本映画のこと、初めて作られた日本アニメ映画のこと、そして現在のフィルムからデジタルへ、といった風に、最初から見ると映画の歴史が簡単に理解出来るように展示されている。
 当時の映画撮影カメラや活弁士体験コーナーなどはお子さんにも人気だ。またキャンパスメンバーズ契約をしている大学も多くあることから、映画好きの学生さんが学生証を手に足繁く通ったりもする。

「すごいものですねえ。こういう展示ケースに入っているものがあの邸に多くあったのでしょう?」

 ざっと展示会場を眺めながら、辻堂刑事が感心したように言う。

「そうですね。でも地下室はほとんど見ていないので、多分そこに佐山氏が保全を求めたものがあったと思うのですが分からずじまいです」
「そうかそうか、でもしばらくはお待ちいただかないと、ですしね。その間は警察の目もありますから、窃盗犯の侵入などは許さないですから心配なさらないで下さい」

 私達が保全出来なかった何かのために、窃盗に入る人が現れるかもしれないのか。死者の墓を荒らすようで嫌な気持ちになるが、無人の家は泥棒に目を付けられやすい。生活の気配がないのなら余計にだ。

「あ、質問なのですが、佐山氏も比江島氏もお一人住まいだったようですが、身の回りのこともご自身でやっておられたのでしょうか? 佐山氏の邸はとても綺麗で毎日プロが磨かれてるのでは、と思いましたが、お洗濯とかご飯作りとか、そういう生活感が感じられませんでしたので」

 ふとした疑問を口に出すと、辻堂刑事は笑みを見せた。

「日比野さんはなかなか鋭いですね。そうです、佐山さんは全ての家事を牧田さんか本邸のお手伝いさんに任せていたようですよ。ただし佐山さんの在宅時に限って、という注釈付きで」
「不在の時には誰も邸に入れたくなかった、ということですか?」
「そうみたいです。食事はあまりこだわる方ではなかったようなので、冷凍の宅配弁当っていうんですか? ああいうのを牧田さんが定期的に冷凍庫に仕舞っておいて。ごみ捨てくらいはしていたようですけどね」
「······ごみも邸から持ち出されたくなかった、とかですかね?」
「そういう理由もあるのかもしれないです」

 
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