32 / 131
032 辻堂刑事の来訪④
しおりを挟む
「まずどちらに向かわれますか?」
マスターキーを預かって来た私が話を向けると、辻堂刑事は「じゃあ上からで」と言うので、私達ははじめに5階の常設展示室へ行くことになった。
ここは、当館で所蔵している映画資料を常設で展示しているスペースだ。特集上映が行われる時にはそれに関連するコーナーを作ることもあるが、展示替えはあまり頻繁には行わない。映画の成り立ちや、白黒映画からカラー映画、また無声映画からトーキーへの変遷のことや、戦争中のニュース映画、海外で評価された日本映画のこと、初めて作られた日本アニメ映画のこと、そして現在のフィルムからデジタルへ、といった風に、最初から見ると映画の歴史が簡単に理解出来るように展示されている。
当時の映画撮影カメラや活弁士体験コーナーなどはお子さんにも人気だ。またキャンパスメンバーズ契約をしている大学も多くあることから、映画好きの学生さんが学生証を手に足繁く通ったりもする。
「すごいものですねえ。こういう展示ケースに入っているものがあの邸に多くあったのでしょう?」
ざっと展示会場を眺めながら、辻堂刑事が感心したように言う。
「そうですね。でも地下室はほとんど見ていないので、多分そこに佐山氏が保全を求めたものがあったと思うのですが分からずじまいです」
「そうかそうか、でもしばらくはお待ちいただかないと、ですしね。その間は警察の目もありますから、窃盗犯の侵入などは許さないですから心配なさらないで下さい」
私達が保全出来なかった何かのために、窃盗に入る人が現れるかもしれないのか。死者の墓を荒らすようで嫌な気持ちになるが、無人の家は泥棒に目を付けられやすい。生活の気配がないのなら余計にだ。
「あ、質問なのですが、佐山氏も比江島氏もお一人住まいだったようですが、身の回りのこともご自身でやっておられたのでしょうか? 佐山氏の邸はとても綺麗で毎日プロが磨かれてるのでは、と思いましたが、お洗濯とかご飯作りとか、そういう生活感が感じられませんでしたので」
ふとした疑問を口に出すと、辻堂刑事は笑みを見せた。
「日比野さんはなかなか鋭いですね。そうです、佐山さんは全ての家事を牧田さんか本邸のお手伝いさんに任せていたようですよ。ただし佐山さんの在宅時に限って、という注釈付きで」
「不在の時には誰も邸に入れたくなかった、ということですか?」
「そうみたいです。食事はあまりこだわる方ではなかったようなので、冷凍の宅配弁当っていうんですか? ああいうのを牧田さんが定期的に冷凍庫に仕舞っておいて。ごみ捨てくらいはしていたようですけどね」
「······ごみも邸から持ち出されたくなかった、とかですかね?」
「そういう理由もあるのかもしれないです」
マスターキーを預かって来た私が話を向けると、辻堂刑事は「じゃあ上からで」と言うので、私達ははじめに5階の常設展示室へ行くことになった。
ここは、当館で所蔵している映画資料を常設で展示しているスペースだ。特集上映が行われる時にはそれに関連するコーナーを作ることもあるが、展示替えはあまり頻繁には行わない。映画の成り立ちや、白黒映画からカラー映画、また無声映画からトーキーへの変遷のことや、戦争中のニュース映画、海外で評価された日本映画のこと、初めて作られた日本アニメ映画のこと、そして現在のフィルムからデジタルへ、といった風に、最初から見ると映画の歴史が簡単に理解出来るように展示されている。
当時の映画撮影カメラや活弁士体験コーナーなどはお子さんにも人気だ。またキャンパスメンバーズ契約をしている大学も多くあることから、映画好きの学生さんが学生証を手に足繁く通ったりもする。
「すごいものですねえ。こういう展示ケースに入っているものがあの邸に多くあったのでしょう?」
ざっと展示会場を眺めながら、辻堂刑事が感心したように言う。
「そうですね。でも地下室はほとんど見ていないので、多分そこに佐山氏が保全を求めたものがあったと思うのですが分からずじまいです」
「そうかそうか、でもしばらくはお待ちいただかないと、ですしね。その間は警察の目もありますから、窃盗犯の侵入などは許さないですから心配なさらないで下さい」
私達が保全出来なかった何かのために、窃盗に入る人が現れるかもしれないのか。死者の墓を荒らすようで嫌な気持ちになるが、無人の家は泥棒に目を付けられやすい。生活の気配がないのなら余計にだ。
「あ、質問なのですが、佐山氏も比江島氏もお一人住まいだったようですが、身の回りのこともご自身でやっておられたのでしょうか? 佐山氏の邸はとても綺麗で毎日プロが磨かれてるのでは、と思いましたが、お洗濯とかご飯作りとか、そういう生活感が感じられませんでしたので」
ふとした疑問を口に出すと、辻堂刑事は笑みを見せた。
「日比野さんはなかなか鋭いですね。そうです、佐山さんは全ての家事を牧田さんか本邸のお手伝いさんに任せていたようですよ。ただし佐山さんの在宅時に限って、という注釈付きで」
「不在の時には誰も邸に入れたくなかった、ということですか?」
「そうみたいです。食事はあまりこだわる方ではなかったようなので、冷凍の宅配弁当っていうんですか? ああいうのを牧田さんが定期的に冷凍庫に仕舞っておいて。ごみ捨てくらいはしていたようですけどね」
「······ごみも邸から持ち出されたくなかった、とかですかね?」
「そういう理由もあるのかもしれないです」
10
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
白い男1人、人間4人、ギタリスト5人
正君
ミステリー
20人くらいの男と女と人間が出てきます
女性向けってのに設定してるけど偏見無く読んでくれたら嬉しく思う。
小説家になろう、カクヨム、ギャレリアでも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる