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030 辻堂刑事の来訪②

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 会議室の中が音がなくなったように静まり返った。空調の音がよく聞こえる。ひやりと汗が流れたのだが、クーラーはしっかり仕事をしているらしい。

「リシンって何ですか? すぐ手に入るものなんてすか?」

 山森が咄嗟に質問をした。そこで西村課長が山森を紹介し、今後のこともあるから同席している旨を説明すると、辻堂刑事がメモを取りながら先程の質問に答えてくれる。
 
「リシンというはトウゴマという木から採れる種子から抽出される天然の毒物で、――とても猛毒です。ただトウゴマから採れるもう一つのものがひまし油なんですよ。こちらは聞いたことはないですか?」
「ひまし油って『トム・ソーヤの冒険』とかでイタズラすると飲まされるあれですよね?」

 私もつい合いの手を入れると、辻堂刑事が大きく頷いた。
 
「古くは下剤として使われたりしていたようですよね。私は試したことがありませんけど。
 とにかくひまし油は現在でも多くの加工品や美容にも使われていますので、木も普通にそこらに存在しますし、なんならネットでトウゴマの種子も売られています。まあもっとも致死量のリシンを抽出するのは大変な量を使うことになるのですが、有名な毒物ということで時々これを使った事件というのは起きますね」
 
 そう言って、辻堂刑事は頭を下げながら持参したペットボトルを一口飲み、また続きを話していく。

「比江島さんにはリシンが注射されていたようです。その場合経口摂取よりもはるかに強い症状が出ますから、致死量に満たなくとも体調によっても亡くなることはありますし、当然嘔吐などがあったと思います。が、胃の中はほとんど空なのに倒れていた地下室は出血痕のみ。ですので殺害されたのは別の場所で、そのすぐ後に地下室に運ばれ、遺体の損壊を行ったのではないかと推定しています」

 殺害場所が地下室ではなかった。それは現場が私達が見た邸のどこかかもしれないということだ。死亡してから時間を置くとあそこまで血が流れることはないだろうし。邸の内はどこも清潔に保たれていたので、違和感など何もなかった。それよりも初めてのことに緊張していて、観察するなどということまで出来ていなかったと言った方が正しいか。

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