上 下
26 / 131

026 第二のコレクター比江島氏のこと②

しおりを挟む
 結局昨夜はお風呂に入ったらあっという間に眠ってしまった。その分、朝になるといつもより早くパチリと目が覚め、何故か心臓がどくどくと動いていることを確認してしまう。
 あまりに激動の流れだったので、あんな風に人が倒れているところも、ましてやその人が亡くなっていることや、その人ともしかしたらどこかですれ違っていたかもしれないと考えると、心が重く淀むのが止められない。

 今朝はもうお弁当を作るのは諦めよう。生きていると何かを食べ続け、排泄をし、いつか空気が吸えなくなって死ぬ。生きているのだから私はご飯を食べるのだ。だが身内以外の死に触れたのが初めてだったからか、思いの外ダメージを受けたみたいで、トーストが殆ど喉を通らなかった。





「おはようございます」

 今朝は館長が出勤されてから調査資料課メンバーが館長室に呼ばれて、昨日の報告会となった。

「昨日のことは簡単には聞いていますが、皆さん大変でしたね。精神的に辛くなったりすることがあれば、産業医の先生を呼びますから、一人で抱え込まずにいて下さい。
 山森さんは佐山邸に行っていませんが、同じ課として今後対応が必要になるかもしれませんので、ここでの話は他言無用ということで参加して下さいね」

 珍しく館長秘書がお茶を入れてくれてから下がる。――話が長くなるということか。

「さて。今朝から東原署の辻堂さんという刑事から連絡があり、少し分かったことがあるので午後にこちらに来ると言っています。差し当たっては私と西村課長で対応しますが、昨日訪問した人達は何か聞かれるかもしれない。こちらとしては特に隠すこともないので適宜答えてもらって構いませんが、情報に齟齬があると困るので、あくまでも自分が見たもの聞いたものだけを答えるように留意して下さい」

 全員で神妙に頷く。

「それから、佐山氏の顧問弁護士の江藤さんからも連絡が来ています。当面は捜査で身内以外邸宅に入れなくなるので、そちらが終わり次第また改めてお願いしたいということで。······何か必ず当館に保全して欲しいものがあるのかもしれないね」

 江藤弁護士、昨日は何も言わなかったけど、やはりあの地下室に何かあったのだろうか。

「奥様と娘さん方は、落ち着いたら一度ご挨拶に見えられるそうですよ。御主人の寄贈品をどのように収蔵するのかということも気にされていたようです。そこはお見せ出来るようになるまでに時間がかかりそうですが、出来る限りオープンに誠実に対応していきたいと思っているからね」
「ご要望がありましたらいつでも対応いたします。ただ佐山邸の資料を全て引き取るとなると、相当なものですよ」
 
 口では肯定の意を見せている西村課長だが、あの広さの邸のほとんど全てが映画資料だったことを思い返してしたのだろう、心なしか眉間にしわが出来ている。

「まあ、向こうとしては一度全て引き取るということにして欲しいらしいね。それが寄贈の条件だ、と江藤さんに言われたよ。重複品はいらないのだけど欲しいものだけ選って貰うというのじゃ駄目らしい。それなら全てをここに引き上げてから調査してもいいかな?
 そういったわけで、今後この件で調査資料課の方には通常とは違う対応を求められる電話も入るかもしれません。基本的には館長室で対応しますが、実際のことになるとそちらに確認しないと行けないし、私も不在にすることが多いからね。その手間が増えるけど、よろしく頼みます。
 あと大まかに見た感じで、どのくらい収納棚を増設しないと行けないのかも考えておいてくれますか? 量によっては一時的に分館の方の収蔵庫に入れた方がいいかもね、セキュリティ的に」
「分かりました」
「あとは佐山邸で倒れていた男性ですが」

 分かっていても胸がキュッと締め付けられる。他の人もそうなのだろう、皆一様に顔を強張らせた。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

リモート刑事 笹本翔

雨垂 一滴
ミステリー
 『リモート刑事 笹本翔』は、過去のトラウマと戦う一人の刑事が、リモート捜査で事件を解決していく、刑事ドラマです。  主人公の笹本翔は、かつて警察組織の中でトップクラスの捜査官でしたが、ある事件で仲間を失い、自身も重傷を負ったことで、外出恐怖症(アゴラフォビア)に陥り、現場に出ることができなくなってしまいます。  それでも、彼の卓越した分析力と冷静な判断力は衰えず、リモートで捜査指示を出しながら、次々と難事件を解決していきます。  物語の鍵を握るのは、翔の若き相棒・竹内優斗。熱血漢で行動力に満ちた優斗と、過去の傷を抱えながらも冷静に捜査を指揮する翔。二人の対照的なキャラクターが織りなすバディストーリーです。  翔は果たして過去のトラウマを克服し、再び現場に立つことができるのか?  翔と優斗が数々の難事件に挑戦します!

失くした記憶

うた
ミステリー
ある事故がきっかけで記憶を失くしたトウゴ。記憶を取り戻そうと頑張ってはいるがかれこれ10年経った。 そんなある日1人の幼なじみと再会し、次第に記憶を取り戻していく。 思い出した記憶に隠された秘密を暴いていく。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

(同級生+アイドル÷未成年)×オッサン≠いちゃらぶ

まみ夜
キャラ文芸
様々な分野の専門家、様々な年齢を集め、それぞれ一芸をもっている学生が講師も務めて教え合う教育特区の学園へ出向した五十歳オッサンが、十七歳現役アイドルと同級生に。 【ご注意ください】 ※物語のキーワードとして、摂食障害が出てきます ※ヒロインの少女には、ストーカー気質があります ※主人公はいい年してるくせに、ぐちぐち悩みます 第二巻(ホラー風味)は現在、更新休止中です。 続きが気になる方は、お気に入り登録をされると再開が通知されて便利かと思います。 表紙イラストはAI作成です。 (セミロング女性アイドルが彼氏の腕を抱く 茶色ブレザー制服 アニメ)

リアル

ミステリー
俺たちが戦うものは何なのか

嘘つきカウンセラーの饒舌推理

真木ハヌイ
ミステリー
身近な心の問題をテーマにした連作短編。六章構成。狡猾で奇妙なカウンセラーの男が、カウンセリングを通じて相談者たちの心の悩みの正体を解き明かしていく。ただ、それで必ずしも相談者が満足する結果になるとは限らないようで……?(カクヨムにも掲載しています)

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

バージン・クライシス

アーケロン
ミステリー
友人たちと平穏な学園生活を送っていた女子高生が、密かに人身売買裏サイトのオークションに出展され、四千万の値がつけられてしまった。可憐な美少女バージンをめぐって繰り広げられる、熾烈で仁義なきバージン争奪戦!

処理中です...