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026 第二のコレクター比江島氏のこと②

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 結局昨夜はお風呂に入ったらあっという間に眠ってしまった。その分、朝になるといつもより早くパチリと目が覚め、何故か心臓がどくどくと動いていることを確認してしまう。
 あまりに激動の流れだったので、あんな風に人が倒れているところも、ましてやその人が亡くなっていることや、その人ともしかしたらどこかですれ違っていたかもしれないと考えると、心が重く淀むのが止められない。

 今朝はもうお弁当を作るのは諦めよう。生きていると何かを食べ続け、排泄をし、いつか空気が吸えなくなって死ぬ。生きているのだから私はご飯を食べるのだ。だが身内以外の死に触れたのが初めてだったからか、思いの外ダメージを受けたみたいで、トーストが殆ど喉を通らなかった。





「おはようございます」

 今朝は館長が出勤されてから調査資料課メンバーが館長室に呼ばれて、昨日の報告会となった。

「昨日のことは簡単には聞いていますが、皆さん大変でしたね。精神的に辛くなったりすることがあれば、産業医の先生を呼びますから、一人で抱え込まずにいて下さい。
 山森さんは佐山邸に行っていませんが、同じ課として今後対応が必要になるかもしれませんので、ここでの話は他言無用ということで参加して下さいね」

 珍しく館長秘書がお茶を入れてくれてから下がる。――話が長くなるということか。

「さて。今朝から東原署の辻堂さんという刑事から連絡があり、少し分かったことがあるので午後にこちらに来ると言っています。差し当たっては私と西村課長で対応しますが、昨日訪問した人達は何か聞かれるかもしれない。こちらとしては特に隠すこともないので適宜答えてもらって構いませんが、情報に齟齬があると困るので、あくまでも自分が見たもの聞いたものだけを答えるように留意して下さい」

 全員で神妙に頷く。

「それから、佐山氏の顧問弁護士の江藤さんからも連絡が来ています。当面は捜査で身内以外邸宅に入れなくなるので、そちらが終わり次第また改めてお願いしたいということで。······何か必ず当館に保全して欲しいものがあるのかもしれないね」

 江藤弁護士、昨日は何も言わなかったけど、やはりあの地下室に何かあったのだろうか。

「奥様と娘さん方は、落ち着いたら一度ご挨拶に見えられるそうですよ。御主人の寄贈品をどのように収蔵するのかということも気にされていたようです。そこはお見せ出来るようになるまでに時間がかかりそうですが、出来る限りオープンに誠実に対応していきたいと思っているからね」
「ご要望がありましたらいつでも対応いたします。ただ佐山邸の資料を全て引き取るとなると、相当なものですよ」
 
 口では肯定の意を見せている西村課長だが、あの広さの邸のほとんど全てが映画資料だったことを思い返してしたのだろう、心なしか眉間にしわが出来ている。

「まあ、向こうとしては一度全て引き取るということにして欲しいらしいね。それが寄贈の条件だ、と江藤さんに言われたよ。重複品はいらないのだけど欲しいものだけ選って貰うというのじゃ駄目らしい。それなら全てをここに引き上げてから調査してもいいかな?
 そういったわけで、今後この件で調査資料課の方には通常とは違う対応を求められる電話も入るかもしれません。基本的には館長室で対応しますが、実際のことになるとそちらに確認しないと行けないし、私も不在にすることが多いからね。その手間が増えるけど、よろしく頼みます。
 あと大まかに見た感じで、どのくらい収納棚を増設しないと行けないのかも考えておいてくれますか? 量によっては一時的に分館の方の収蔵庫に入れた方がいいかもね、セキュリティ的に」
「分かりました」
「あとは佐山邸で倒れていた男性ですが」

 分かっていても胸がキュッと締め付けられる。他の人もそうなのだろう、皆一様に顔を強張らせた。

 
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