映画をむさぼり、しゃぶる獣達――カルト映画と幻のコレクション

来住野つかさ

文字の大きさ
上 下
25 / 131

025 第二のコレクター比江島氏のこと①

しおりを挟む
 帰りの車の中では皆が一様に疲れていた。

 退出時にちらり見てみたら、あの茶の間リビングは鑑識だとかが立ち入っていてずいぶん様変わりしていた。比江島氏はどうしたのか、そしてあの地下室がどうなっているのかは窺い知れなかった。

 パトカーの停まる佐山邸を出て、パーキングまで歩き、車に乗り込んで発車するまで、誰も言葉を発しない。座席に沈み込むように体が重たく感じるので、緊張がようやく解けたようだ。

「今日は皆大変だったね。俺は申し訳ないけど一度館に戻らないと行けないんだ。君達はもう適宜解散でいいけど、どうしようか?」

 街道沿いの猫じゃらしがヘッドライトに照らされて幻のように淡く光る様をぼんやりと眺めていたら、西村課長がそう告げた。

「あ、じゃあ日比野ちゃんは大変だからこのまま送ってもらえば? 俺はもう少し都心まで行ったところで近くの駅に降ろしてもらえれば」
「そうだね、いいよ! 日比野さん、どこら辺かな?」
「えっと」

 池上と田代主任にも賛同してもらったが、少し気が引ける。でも大分疲れたからなあ。

「自宅を教えたくなければ自宅の最寄駅にしようか? パソコンはここに置いていっていいよ」
「······はい、助かります。ありがとうございます」

 尾崎係長の誘いで陥落してしまった。
 私の家はギリギリ23区といった場所で、佐山邸からそう遠くないことが分かっているので、申し訳ないが運転の田代主任にお願いして、いつも通勤に利用している駅に着けてもらった。

「日比野さん、こんな事になるとは思わなかったのだけど、本当にお疲れ様。明日はもし辛いようなら出勤しなくてもいいからね。連絡だけ頂戴ね」

 慰められるように西村課長に声をかけられ、お礼を言う。暑い時期は風呂に漬かっていなかったのだけど、今日は湯船にゆっくり入りたいなと思った。

「日比野ちゃん、これ」

 車を降りる際に、池尻からメモを渡された。電話番号の書かれたそれを見て驚いていると、

「LINEのIDもそれだから。もし何かあったら連絡してよ。何もなくてもいいけどね」

 そうおどけて言われたが、一人暮らしの自分を心強くするためだと分かったのでありがたく頂いた。

「池上、抜け駆けか?」
「そうですかね? 正攻法ですけど」
「おい、あまり長くわちゃわちゃするな! 駅前にそんなに停められないからな」
「あ、すみません。お先に失礼します! 今日はお疲れ様でした」

 ぺこりと頭を下げて下車する。バンを見送ってから、私はお風呂の後のアイスでも買おうかとコンビニへと向かった。



 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

【か】【き】【つ】【ば】【た】

ふるは ゆう
ミステリー
姉の結婚式のために帰郷したアオイは久しぶりに地元の友人たちと顔を合わせた。仲間たちのそれぞれの苦痛と現実に向き合ううちに思いがけない真実が浮かび上がってくる。恋愛ミステリー

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

リモート刑事 笹本翔

雨垂 一滴
ミステリー
 『リモート刑事 笹本翔』は、過去のトラウマと戦う一人の刑事が、リモート捜査で事件を解決していく、刑事ドラマです。  主人公の笹本翔は、かつて警察組織の中でトップクラスの捜査官でしたが、ある事件で仲間を失い、自身も重傷を負ったことで、外出恐怖症(アゴラフォビア)に陥り、現場に出ることができなくなってしまいます。  それでも、彼の卓越した分析力と冷静な判断力は衰えず、リモートで捜査指示を出しながら、次々と難事件を解決していきます。  物語の鍵を握るのは、翔の若き相棒・竹内優斗。熱血漢で行動力に満ちた優斗と、過去の傷を抱えながらも冷静に捜査を指揮する翔。二人の対照的なキャラクターが織りなすバディストーリーです。  翔は果たして過去のトラウマを克服し、再び現場に立つことができるのか?  翔と優斗が数々の難事件に挑戦します!

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

処理中です...