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023 佐山氏のご家族と事情聴取④

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 暫くして中に入ってきた男性が牧田さんなのだろう。
 美千代さんよりも10歳近く若いのではないかという印象の人だ。尾崎係長と同じくらいの年齢に見える。有能そうではあるが、江藤弁護士は鋭い感じで牧田さんは寡黙に仕事をこなすような口数の少ないタイプではないか。
 いかにもお嬢様でサバサバと話す美千代さんの旦那さんとしては随分地味というか、似てない夫婦と思ってしまった。

「お待たせしてすみません。佐山道佳さやまみちよし、旧姓牧田まきたでございます。駐車スペースが空いていなかったので、外で見張っておりまして」
「牧田ったら! 駐車違反で切符切られるっていっても、私達、今この警察の方達に呼ばれているんだから平気よ!」

 頭を下げる牧田さんを見て、華子さんがおかしそうに笑う。彼はこの二人と居る限り、こうして旧姓込みで自己紹介をしなければならない人生なのだな、と妙に悲しく思ってしまった。 
 と、そこに、「あれ、牧田君?」と西村課長が声をかける。

「牧田道佳君って、前にうちで入力のアルバイトに来てたことなかった? ほら日比野さん、データベースにも彼の登録あったでしょう?」
「······あ! 道路の道に佳人の佳の道佳さん?」
「そ、そうです。学生時代に少しお世話になりました」

 年上の人に再び頭を下げさせてしまったが、私はつい興奮して話しかけてしまった。
 当館のデータベースには必ず登録者の名前をフルネームで入力する。それなので過去のデータを検索していたりすると、この資料群はまとめて〇〇さんが入れたんだなとかそういう感じで先人の労を心の中で労ったりしていたのだ。『牧野道佳さん』は今は無き映画会社のスチル写真を大量に入力しておられたので、その会社のスチルを探す時にはいつも彼の名前込みでデータを見ていた。

「そうだったのですね。では卒業後に佐山氏のところで?」
「······はい。覚えられていると思いませんでしたので、ご挨拶せず失礼しました」

 とても腰の低い方のようだ。だがあれだけの入力をした方ならば、やはり黙々と仕事をこなすタイプなのだろう。私は勝手に結論付けた。

「牧田さん、その節はありがとうございました。あなたがアルバイトしてくれた時はちょうどこのシステムをYAGI社に作ってもらったばかりで、試行錯誤の入力の頃でしょう? そのデータは今も活用していますよ」
「こちらこそとても貴重な経験でした」

 
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