映画をむさぼり、しゃぶる獣達――カルト映画と幻のコレクション

来住野つかさ

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009 佐山氏のコレクションハウス⑤

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 書斎は二階に上がってすぐにあった。茶の間リビングと同じ場所だ。中に入ると本棚に覆われた窓のない部屋になっていて驚く。光で資料が劣化するのを懸念してそのような設計にしたのかもしれないが、自宅でこれは本当に徹底している。電気はどこもLEDにしているのだろうし、全室しっかりと温度と湿度の調整もなされているようだ。コレクションハウスとしてよく計算されている。
 この書斎の広さは20畳程だろうか、本棚を外して考えたらもう少し広いのかもしれない。四方が作り付けの本棚に囲まれ、ドアから入って右側には仕切りのように天井までの本棚がある。左奥に作業スペースのような形でデスクがあり、何かしらの書き物をした跡が見える。

 私は一度手を合わせて拝んでから、本棚を見せてもらう。

 私家本でもそうだったが、佐山氏は邦画の紙資料コレクションをメインにしていらしたようで、洋画に関するものはとても少ない。
 1936年のコーナーが出来ているので一瞬不思議に感じたが、生まれ年なのか。その年に起きた国内外の事件や出来事がまとめられた本なども置いてある。もしかしたら生まれ年の物を集めるとかそういうところから収集が始まったのかもしれない。東京生まれ東京育ちであれば、映画館も多かったから映画チラシなら子供でも集めやすかったかもしれない。
 昭和11年というと2・26事件が起きた年――ふと歴史を感じてしまう。そして怖ろしいことにこの年に公開された558作品の邦画チラシを全てコンプリートしているらしい。日本映画が華やかだった時代を想起させる資料ばかりで、それだけでも時を忘れて眺めてしまいそうだ。いけないいけない。
 チラシ集を戻して、目録を探す。あれこれと眺めてみるが、本棚には置かれていないように思う。本棚は諦めてデスクに向かう。まずデスク上にはそのようなものはない。目録なら相当の厚みになるだろうから、一番大きな厚みのキャビネットファイルでも数冊分になるだろう。
 もう一度拝んで、躊躇いつつもデスクの引き出しに手をかける。案の定というか鍵がかかっており、少しホッとする。それ以外には目ぼしいものは見つからなかった。

 ひとまず確認を済ませたので茶の間リビングに戻ると、西村課長と池上、後からやって来た尾崎係長と田代主任までもが何やらうんうんと唸っている。

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