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008 佐山氏のコレクションハウス④

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「······一度帰られるそうだ。退屈だからとおっしゃられて」

 疲れたような顔の西村課長にギョッとするが、この短期間に奥様からの愚痴を聞いて疲弊したようだ。一体どんな話をしたのだろう。

「来る時に何もなかったな? じゃあ十分後に尾崎も呼ぼう。田代は見回り後に来てもらおうかな」
「あ、じゃあ俺、尾崎さんに連絡しておきます」
「よろしくな」

 池上が尾崎係長に連絡をしている間、私は西村課長とともに一階奥の階段近くにあるリビングに移動し、ノートパソコンを立ち上げておく。応接間の高級テーブルでは傷をつけそうで怖かったし、何となく部屋全体が立派すぎて落ち着かないからだ。
 ここで館と同様にデータベースが使えればいいのだが、館外での利用は難しいので、必要になりそうな邦画の紙関係のデータの簡略版をcsvに落としておいたのだ。あっさり目録のデータがあればUSBメモリに入れてしまえるのだが。

 初めにお邪魔した応接室はいかにも洋風だったが、ここのリビングは一転して昭和風というか純和風になっている。残暑厳しい時期だが何故コタツが出しっぱなしなのだろう。テレビやレコード、茶箪笥も置かれているので、ここでよくお茶を飲みながら寛がれていたらしい形跡が見える。リビングというか茶の間なのか。

「日比野さんはここにパソコンを置いておいて、まずは蔵書コーナーに行って佐山氏の所蔵目録があるか調べてくれる? 佐山氏がパソコンで管理していたら楽なのだけど、あの御歳だからPCの類を使っていたのか知らないんだ。USBメモリとかそういうものもあれば集めて」
「はい」

 私は白手袋をはめてマスクを付けた。紙資料を扱う時の基本装備だ。アレルギー体質な訳では無いが紙に住む虫達を見ていると痒くなりそうで辛いのだ。

 準備を済ませてから失礼して書斎へとお邪魔することにした。
 
 佐山邸は外からでは分からなかったが、建物の中心に中庭が据えられたロの字型の造りになっている。庭を回廊が取り囲み、各部屋への光はここから採られていて、建物の外側に窓は殆ど無い。そして自宅では珍しいと思うのが、全ての部屋に鍵が付いていて、来た時にはどこも施錠がされていたらしい。玄関からだと回廊を進み、突き当りの先に階段があり、書斎はその二階に据えられているようだ。その不思議な造りに、玄関から階段を隠すように作られているのかなと思ってしまった。

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