幼馴染をお休みして犬になります!?いや侯爵家令息を犬扱いは無理ですって!

来住野つかさ

文字の大きさ
上 下
5 / 13

第05話 お茶会実習にトラプルの予感

しおりを挟む
 今日は放課後にテーブルセッティングのグループ練習をするため、アーロンとの訓練はお休みになった。
 
 テーブルセッティング発表会では、マナーの先生にご指導いただきながら中規模のお茶会を想定したセットを組むことになる。
 これは将来夫人として立つ場合には当然知っておくべき知識であるし、また職業婦人として女官などを目指す人にとっては大切なスキルとなるので、淑女科では必須科目になっている。
 
 私達のクラスが実際に会場として使用する予定の部屋は、若草色を主とした温かみのあるお部屋だ。
 使用する部屋の雰囲気や季節などを鑑みて、それぞれに趣向を凝らして飾り付けて行くことになる。
 他のクラスの方達もあれこれ動いていらっしゃるようなので、可能であればそちらのセッティングも見せていただきたいのだが、イマジネーションの項目の採点に影響しかねないので不可と決められているのだそうだ。
 とても残念である。
 
 


「そういえば次の実習発表会では、いよいよ実際に生徒を入れて行うのですって」
 
 各自で出したセッティングのアイディアをまとめ、試しに選んだ茶器などを置いてみている時に、噂好きの一人がうきうきと話題を持ち出した。 
 
「やはり今年も行うのね。より実践に即した勉強ってことでしょうけど」
「それでも皆さん、うちのクラスに参加される方の中に意中の殿方がいらっしゃったらどうします?」 
 
 元気なエイダはおどけて手を挙げる。
 
「私は絶対にサーブを担当するわ! チャンスですもの。その時はクローディアも協力して下さいね」
「え、ええ、もちろんよ······」
 
 すっかり忘れていたが、淑女科は男性との接点が少ないので、卒業パーティの前に設けられているテーブルセッティングの実習発表会では必ず殿方を含めた生徒を招待し、実際に私達にお茶会を開催させるのだ。
 
 先輩方の中には、この発表会で素敵なご縁を見つけた方が多くいるので、淑女科内でも上位人気の授業である。
 
 私は出会いに元々興味がなかったのと、このところの個人的事件の連発で頭がいっぱいで、すっぽり抜けていたが、よく考えたら一大事だ。
 
 私は、自身の男性恐怖症のことをキャサリンとエイダ以外の人に話していない。
 淑女科に限っては教師も全て女性なので、さほど親しくないクラスメイトにまで言う必要性はなかったのだ。
 実習当日には必ず何かしらの役割を担当しなくてはならない。
 だが、将来の目標を侍女や女官にしていない私では、裏方仕事は希望出来ないだろう。
 
 ――おそらく私は着席でのお客様対応をテストされるわ。
 その時に男性の隣になるのは苦しいわね······。 
 
 招待される生徒は騎士科、魔術科、普通科、経営科それぞれの成績優秀者の中から、招待者の希望を聞いたのち参加クラスや席次を割り振る。
 要するに同学年の頭のいい方たちに招待状を出し、三クラスある淑女科のどこに参加したいか希望を募る。
 それを先生が取りまとめて、招待者の参加クラスと席次とを割り振っていく。
 この時、成績優秀者の婚約者が淑女科に在席している場合は、優先的にそのクラスへ参加となる。
 婚約者がいるのに『運命の出会い』など学院で生まれたら困るからだ。
 
 
 
 きゃあと声を上げながらクラスメイト達は最前よりこの話題で大いに盛り上がっている。
 それぞれに好きな方、婚約者様などがおられて、このような交流を心から楽しみにしているのがよく分かる。
 クラスメイトの浮足立つ気持ちを微笑ましく思いながら作業をしていると、そこへ婚約者と無事に仲直りをしたキャサリンがやって来て、私に耳打ちをして来た。
 
「クローディアはどなたか来ていただきたい方はいらっしゃるの?」
「いえ······、私は特に」
 
 とそこに、先生から声がかかった。
 
「クローディア・ガスターさん、ちょっとよろしいかしら?」
  
 
   ◇   ◇   ◇
 
  
 先生に誘導され、隣の控室に通された。
 彼女はお茶会の割り振りを担当なさっている先生だ。
 その業務内容から、生徒の家の派閥のことや、縁組のことなどよくご存じの方でもある。
 
「ごめんなさいね、練習中に。実はね、ソーンダイク公爵家のザカライヤさんが、あなたの茶会に参加したいとおっしゃってるの」
 
 ――えっ? ザカライヤ様ってあの?
 そんな訳ない、そんな訳ないと自身を鼓舞しながら先生のお話の続きを伺う。
 
「ええと、すみません、それって」 
「ええ。婚約者候補だからと。それでプライベートなことをうかがって申し訳ないのだけど、先方のおっしゃることは本当なのかしら? もちろんそれならば配慮いたしますけれども、聞いていないお話だったものだから」
 
 私のお相手がソーンダイク公爵家だなんてお父様達も何もおっしゃってない。
 子爵家に公爵家からお話なんて普通なら来ない。
 普通なら······普通じゃない状況が起きていたら?
 いくらそう思っても、不安が募っていく。
 
「あの、私には一時保留になっている婚約者の方がおられるようなんですが、その方ではないはずです」
「ないはずって、じゃあ貴女は婚約者候補の方をご存知ないのね?」
 
 ぐっと息を詰めて黙り込んでしまった私をなだめるように、先生は話を続けて下さる。
 
「色々とご事情がおありのようだけれど、それなら一度ご家族に伺ってみていただけるかしら? あの方·······以前貴女にあたりが強かったことがあるでしょう? だからご両親もお選びにはならないでしょうけど······ただ、あちらが婚約を強く希望されているのだとしたら······」
 
 心臓がどくどくと主張を始めた。
 爪先に血が巡らないようなそんな感覚。 
 
「ご心配おかけしてすみません。確認してご報告します」
「お願いね。·····あら、·お顔真っ青になっているわ。このまま医務室にいらっしゃる?」
「大丈夫です、ありがとうございます」
 
 ザカライヤ・ソーンダイク公爵令息様。
 私の男性恐怖症のきっかけになった方――。 
 
 ふらふらしながら練習会場に戻ると、あらかた確認は終わったので今日は終了するとのことだった。
 先程から爪先だけではなく指先も冷たく感じるが、荷物をまとめて馬車寄せまで向かった。
 
 我が家の馬車に乗って帰る道すがら、自身の婚約者かもしれないザカライヤ様のことを考えて、いけないとは思いつつもどんどんと気が塞いで行ってしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】婚約破棄寸前の悪役令嬢は7年前の姿をしている

五色ひわ
恋愛
 ドラード王国の第二王女、クラウディア・ドラードは正体不明の相手に襲撃されて子供の姿に変えられてしまった。何とか逃げのびたクラウディアは、年齢を偽って孤児院に隠れて暮らしている。  初めて経験する貧しい暮らしに疲れ果てた頃、目の前に現れたのは婚約破棄寸前の婚約者アルフレートだった。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

もしも生まれ変わるなら……〜今度こそは幸せな一生を〜

こひな
恋愛
生まれ変われたら…転生できたら…。 なんて思ったりもしていました…あの頃は。 まさかこんな人生終盤で前世を思い出すなんて!

人質王女の婚約者生活(仮)〜「君を愛することはない」と言われたのでひとときの自由を満喫していたら、皇太子殿下との秘密ができました〜

清川和泉
恋愛
幼い頃に半ば騙し討ちの形で人質としてブラウ帝国に連れて来られた、隣国ユーリ王国の王女クレア。 クレアは皇女宮で毎日皇女らに下女として過ごすように強要されていたが、ある日属国で暮らしていた皇太子であるアーサーから「彼から愛されないこと」を条件に婚約を申し込まれる。 (過去に、婚約するはずの女性がいたと聞いたことはあるけれど…) そう考えたクレアは、彼らの仲が公になるまでの繋ぎの婚約者を演じることにした。 移住先では夢のような好待遇、自由な時間をもつことができ、仮初めの婚約者生活を満喫する。 また、ある出来事がきっかけでクレア自身に秘められた力が解放され、それはアーサーとクレアの二人だけの秘密に。行動を共にすることも増え徐々にアーサーとの距離も縮まっていく。 「俺は君を愛する資格を得たい」 (皇太子殿下には想い人がいたのでは。もしかして、私を愛せないのは別のことが理由だった…?) これは、不遇な人質王女のクレアが不思議な力で周囲の人々を幸せにし、クレア自身も幸せになっていく物語。

王子殿下の慕う人

夕香里
恋愛
【本編完結・番外編不定期更新】 エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。 しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──? 「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」 好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。 ※小説家になろうでも投稿してます

捨てた騎士と拾った魔術師

吉野屋
恋愛
 貴族の庶子であるミリアムは、前世持ちである。冷遇されていたが政略でおっさん貴族の後妻落ちになる事を懸念して逃げ出した。実家では隠していたが、魔力にギフトと生活能力はあるので、王都に行き暮らす。優しくて美しい夫も出来て幸せな生活をしていたが、夫の兄の死で伯爵家を継いだ夫に捨てられてしまう。その後、王都に来る前に出会った男(その時は鳥だった)に再会して国を左右する陰謀に巻き込まれていく。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

処理中です...