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ヘイゼルの周りに風が飛び交う。
「風魔術?いや……」
レインの感覚器官が、熱い熱波を肌で敏感に感じ取っていた。そして、レインの目が視界の端に赤くきらめく炎の揺らめきを捉えた後、それがレインの元まで到達するのに一秒もかからなかった。
防御壁を張りそれを相殺した時、ヘイゼルは正面に迫っていた。
「ふん!」
大きく振られた炎を纏った拳。グレンが使っていたような魔術だ。身体に魔術を纏わせる技術はそれなりの難易度を誇る技術なはずだがヘイゼルはそれが当然とでもいう等に簡単に操っていた。
大ぶりの拳はレインの身体には当たらず、大きく空振るが、もう片方の掌がこちらに向いているのをレインは見逃さない。
「『火球』」
レインは急いでそれをギリギリで回避する。
「隙あり!」
片手を軸にした蹴りがレインの頭部を狙う。腕に重たい衝撃が響く。
「これでもダメか……」
「ヘイゼルって、強かったんだね」
「僕を何だと思ってるのさ。最近はご無沙汰だったけど、僕は戦うのが大好きなんだ」
いつもの生徒会長としての優しい目線はどこへやら。今のヘイゼルは獰猛な獣を狩ろうとする狩人の目をしている。慎重でいてどこか楽しげで、負けることなど微塵も考えていない人の顔をしている。
レインも自分がそんな顔が出来たらなと思い、顔を、表情をいじってみるが、どうにもそれは真似することは出来なさそうだ。
その時、後ろから魔力を感知したレインはすぐさまそれを避ける。
「なに一対一で戦ってるの?私たちもまだいるんだけど?」
「リシル……」
ちょっとすねたような顔でいるシリル。
「俺もいるぞ!」
横から飛んでくる『風弾』を体を捻り回避する。
「くっそ!絶対見えてなかっただろ!ほぼ真後ろから撃ったんだぞ!?」
「いや、アル君。魔力の気配で分かるよ」
「なんだそれ!?」
そして、もう一人……一年生のミチカ。彼女はまだ一度も魔術を使っていない。どんな魔術なのかものすごい気になるが……まだ彼女が攻撃する意思はないようだ。
ひとまずは、他の三人を沈めなくちゃ。
「まだ余裕そうじゃないか」
「そうでもないです……ただ、ちょっと本気を出してもいいかもって」
「それが余裕というんだよ……!」
その声を皮切りに示し合わせたかのように三人が同時に魔術を放つ。渦を巻く炎、衝撃波の波を放っている風、濁流の如くうねる水。
この三人は他の大会メンバーと比べても抜きんでて強いのは目に見えていた。魔術の練度がレインが見てきた中での中級魔術師たちよりも格段に上。上級魔術師と比べたら劣るが、それでも学生でそれは異常の一言だった。
※なお、彼は自分が九歳だというのは一旦忘れ去っている。
だからこそ、レインは少しながら本気を出すことにした。
「『水波』」
レインの周りを掻くような水の薄い膜はレインの腕を振るう動きと連動して、全周囲にすさまじい速度で衝撃波として伝わっていく。その魔術は三方向から放たれた三つの魔術をいともたやすく無力化していく。
「なっ!?」
『水波』はただの衝撃波であり、アルフレッドが放った風弾と大して差はないが、違いを上げるとすればそれは水を含んでいるという点だ。
圧縮された水をほぼ均等にそろえてある『水波』はとてつもなく硬く、表面は氷のようになっている。ただ、温度が零度を超えているがために氷にはならないのだ。
だからこそ、あの『水波』を喰らえば問答無用で場外へ叩き落とせるのだ。レインだって、ずっと同じような魔術ばかり使うわけではない。ただ、お気に入りでないというだけなのである。
そして、三人が場外へ堕とされる未来を見ていたレインは次の瞬間に驚いたひょうじょうをつくっていた。
三人とも……全周囲に放ったからミチカ含め四人ともが、まだ場外に残っていた。
「え?どうして?」
そのレインの疑問はアルフレッドの理解が追い付いていない表情ですぐに理解できた。
「ミチカか」
「あ、はい……あ、あの、そうです……」
自信なさげにおどおどしているミチカだが、レインは一瞬だけ見えた魔術の痕跡を元に考えると、ミチカのおどおどした態度が理解できなかった。
「僕の放った『水波』は物理的、魔術的なものを吹き飛ばす効果がある。だから、ただの防御壁であれば防ぐことは絶対にできないんだ。だから、ミチカが防御することが出来たって言うことは……」
レインの知っている限り、魔術を無効化する魔術はない。どの属性の魔術を初級から最上級まで見ても、そんな魔術は記述にも口伝にも残っていない。だから、そんな魔術が存在するわけない。
……とも言い切れなかった。
これはレイン個人が個人的にちょっと、ちょっとだけ認めたくない事柄であったのだ。
「わ、私……魔術が苦手で、だから魔術の才能、なかったけど……お父さんに教えてもらったんです。これは、とある人が書いた、まだ発表されてない『新しい属性魔術』の魔術だよって……」
「あー、ちょっと待って。もしかしてミチカのお父さんってそこにいるグレン先生の子供かこの街の支部長か、上層部の誰かだったりする?」
「え、どういうこと?」
「あ、ごめん何でもない、続けて」
「その属性はね、私にぴったりだったの。他の、何をしても、うまくいかない私だったけど、この魔術だけは私の思い通りに動いてくれるの」
「へ、へぇ」
レインは冷や汗だらだらでそれを聞く。
「『無属性魔術』……これが私の、ぶ、武器です……!」
「風魔術?いや……」
レインの感覚器官が、熱い熱波を肌で敏感に感じ取っていた。そして、レインの目が視界の端に赤くきらめく炎の揺らめきを捉えた後、それがレインの元まで到達するのに一秒もかからなかった。
防御壁を張りそれを相殺した時、ヘイゼルは正面に迫っていた。
「ふん!」
大きく振られた炎を纏った拳。グレンが使っていたような魔術だ。身体に魔術を纏わせる技術はそれなりの難易度を誇る技術なはずだがヘイゼルはそれが当然とでもいう等に簡単に操っていた。
大ぶりの拳はレインの身体には当たらず、大きく空振るが、もう片方の掌がこちらに向いているのをレインは見逃さない。
「『火球』」
レインは急いでそれをギリギリで回避する。
「隙あり!」
片手を軸にした蹴りがレインの頭部を狙う。腕に重たい衝撃が響く。
「これでもダメか……」
「ヘイゼルって、強かったんだね」
「僕を何だと思ってるのさ。最近はご無沙汰だったけど、僕は戦うのが大好きなんだ」
いつもの生徒会長としての優しい目線はどこへやら。今のヘイゼルは獰猛な獣を狩ろうとする狩人の目をしている。慎重でいてどこか楽しげで、負けることなど微塵も考えていない人の顔をしている。
レインも自分がそんな顔が出来たらなと思い、顔を、表情をいじってみるが、どうにもそれは真似することは出来なさそうだ。
その時、後ろから魔力を感知したレインはすぐさまそれを避ける。
「なに一対一で戦ってるの?私たちもまだいるんだけど?」
「リシル……」
ちょっとすねたような顔でいるシリル。
「俺もいるぞ!」
横から飛んでくる『風弾』を体を捻り回避する。
「くっそ!絶対見えてなかっただろ!ほぼ真後ろから撃ったんだぞ!?」
「いや、アル君。魔力の気配で分かるよ」
「なんだそれ!?」
そして、もう一人……一年生のミチカ。彼女はまだ一度も魔術を使っていない。どんな魔術なのかものすごい気になるが……まだ彼女が攻撃する意思はないようだ。
ひとまずは、他の三人を沈めなくちゃ。
「まだ余裕そうじゃないか」
「そうでもないです……ただ、ちょっと本気を出してもいいかもって」
「それが余裕というんだよ……!」
その声を皮切りに示し合わせたかのように三人が同時に魔術を放つ。渦を巻く炎、衝撃波の波を放っている風、濁流の如くうねる水。
この三人は他の大会メンバーと比べても抜きんでて強いのは目に見えていた。魔術の練度がレインが見てきた中での中級魔術師たちよりも格段に上。上級魔術師と比べたら劣るが、それでも学生でそれは異常の一言だった。
※なお、彼は自分が九歳だというのは一旦忘れ去っている。
だからこそ、レインは少しながら本気を出すことにした。
「『水波』」
レインの周りを掻くような水の薄い膜はレインの腕を振るう動きと連動して、全周囲にすさまじい速度で衝撃波として伝わっていく。その魔術は三方向から放たれた三つの魔術をいともたやすく無力化していく。
「なっ!?」
『水波』はただの衝撃波であり、アルフレッドが放った風弾と大して差はないが、違いを上げるとすればそれは水を含んでいるという点だ。
圧縮された水をほぼ均等にそろえてある『水波』はとてつもなく硬く、表面は氷のようになっている。ただ、温度が零度を超えているがために氷にはならないのだ。
だからこそ、あの『水波』を喰らえば問答無用で場外へ叩き落とせるのだ。レインだって、ずっと同じような魔術ばかり使うわけではない。ただ、お気に入りでないというだけなのである。
そして、三人が場外へ堕とされる未来を見ていたレインは次の瞬間に驚いたひょうじょうをつくっていた。
三人とも……全周囲に放ったからミチカ含め四人ともが、まだ場外に残っていた。
「え?どうして?」
そのレインの疑問はアルフレッドの理解が追い付いていない表情ですぐに理解できた。
「ミチカか」
「あ、はい……あ、あの、そうです……」
自信なさげにおどおどしているミチカだが、レインは一瞬だけ見えた魔術の痕跡を元に考えると、ミチカのおどおどした態度が理解できなかった。
「僕の放った『水波』は物理的、魔術的なものを吹き飛ばす効果がある。だから、ただの防御壁であれば防ぐことは絶対にできないんだ。だから、ミチカが防御することが出来たって言うことは……」
レインの知っている限り、魔術を無効化する魔術はない。どの属性の魔術を初級から最上級まで見ても、そんな魔術は記述にも口伝にも残っていない。だから、そんな魔術が存在するわけない。
……とも言い切れなかった。
これはレイン個人が個人的にちょっと、ちょっとだけ認めたくない事柄であったのだ。
「わ、私……魔術が苦手で、だから魔術の才能、なかったけど……お父さんに教えてもらったんです。これは、とある人が書いた、まだ発表されてない『新しい属性魔術』の魔術だよって……」
「あー、ちょっと待って。もしかしてミチカのお父さんってそこにいるグレン先生の子供かこの街の支部長か、上層部の誰かだったりする?」
「え、どういうこと?」
「あ、ごめん何でもない、続けて」
「その属性はね、私にぴったりだったの。他の、何をしても、うまくいかない私だったけど、この魔術だけは私の思い通りに動いてくれるの」
「へ、へぇ」
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