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試合はグレンが打ち上げた火花が空中で爆発したタイミングで始まった。周りを囲む十五人の生徒たち。その中に一年の知り合いもいるし、三年の見知らぬ先輩の顔もある。それぞれが、全員レインというこの中で最も小柄な少年に噛みついてやろうと燃えていた。
「はあ……やるか」
こうなってしまっては仕方がない。試合はもう始まった。すでに、攻撃はこちらに向かって飛んできていた。
正面から『火球』、背後からは『風刃』がレインめがけて飛来する。身体を最小限ひねることでその両方を避ける。周囲を囲むことの弱点と言えば、通り過ぎていった魔術の向こう側に味方がいることだろう。現に、
「うわあ!?」
最初に魔術を放った二人はお互いの魔術にぶつかりそうになりながら、避けている。
「もう、これじゃあ面白くないよ」
レインはあくまで魔術を学びにきているのだ。こんな子供騙しのようなお遊戯に付き合っているのは単に自身の学習のためであり……い、一応仮師匠のグレンに言われたからであって……。
「ぐちぐち何言ってるんだ……よっと!」
「遅い」
剣に魔力を纏わせて斬りかかってきたその腕を捻り上げて、背負い投げ。剣を拾い上げると、レインはその魔力の流れを見た。
「魔術大会メンバーでこのレベルか」
「なんだと?」
レインとて、こんなぬるい試合に付き合うつもりはない。やるからにはもっと本気で……殺しにかかってきてもらわなくては。だからこそさらに煽る。
「たかが知れてるね、先輩。その程度なんですか?」
「なっ!このクソガキ……」
怒りの表情でこちらを睨む名前も知らない生徒。
「総攻撃だ!そうすれば避けようがない!」
「でも、そしたらまた攻撃がこっちに……」
「分担しろ!二人一組で防御と攻撃をやればいい!」
なるほど、多少は頭が回るようだ。全員が二人一組を作っていく。
「いけ!」
周囲から飛んでくる無数の魔術。どれもこれも下級や中級の魔術ばかりではあるが、無論当たれば致命傷だ。レインの魔力体は死ぬことがないとはいえ、生身だったら危なかった。
「ちょうどいい。新しい魔術を試してみよう」
レインの作り上げた新しい魔術、『探知』は魔力を空気中に流し込むことでその範囲の情報を一気に脳内に流し込むことができる。
そうすることで、目を瞑っても全範囲の状況が把握することができるのだ。敵意をもつものと味方の区別もできる。もちろんそれは、魔力もだ。
識別された魔力は色分けされて脳内にシュミレートされる。ただ、一つ予想外なことがあるとすれば、あまりにも処理が大変なことくらいだ。
「痛いな……」
酷い熱に襲われた感覚がする。頭痛がズキズキとうるさく、頭の血管がドクンドクンと流れているような感覚に襲われる。ただ、レインはそんなのはもう慣れっこだ。
路上でギリギリ食い繋ぐ生活をしていた時、変なものを食べて高熱を出したり、どこかから病気をもらって死の間際を彷徨ったことも何度もある。その時の頭痛に比べたら、情報処理からくる頭痛など屁でもない。
「なんでだ?なんで当たらない!」
「右、左……後ろ」
レインはまるで舞でも踊るかのような軽やかなステップで攻撃を避ける。その洗練された動きはもはや本職のようである。
「慣れてきたな」
休む暇を与えないさまざまな魔術の連続攻撃はレインの身体ギリギリを掠めていく。正直『探知』がなければ何発も喰らっていておかしくなかった。情報を処理する感覚にも慣れてきたし、ここらで人数を減らしておこう。
「来れ、雨雲」
レインの魔力に呼応するように、黒い雲が地上を包み込む。
「『水槍』」
ぽつり、またぽつりと雨水が落ちる。それは、凄まじい速度で地面を振動させる。落下した水滴一つで地面には小さいながらも穴が生まれる。ドスンという重たい音と共に、空から降ってきた『水槍』は十五人の生徒たちを狙い始めた。
「うわあああ!」
「逃げろお!」
逃げ惑う生徒たち。
「あんなの、ただの水槍なのに……焦りすぎだよ」
水槍に殺傷能力はそこまでない。強いていうなら、皮膚を破って筋肉に突き刺さる程度だ。ただ痛いだけ。
「それに……安全には配慮してるつもりだよ」
レインは雨雲を晴らす。幸いにも死んでいる人はいなさそうだ。それでも、地面にうずくまっていたり、股の間に落ちた槍を見ながら気絶していたりするぐらい。
それに……
「うちの一年は優秀だ」
全員がいまだに立っていた。今立ち上がっているのは四人だ。レインののぞく一年生とヘイゼル。
三年がまさかの全滅する事態に驚きを隠せない。何人か背中に槍が突き刺さっているが……防御というのはどこへいったのだ?
「人間焦るといつものように思考が回らないものさ」
「じゃあヘイゼルは人じゃないね」
「なんでそうなるのかなー……」
実際、レインの目から見てもヘイゼルは異常だったからだ。
一年生たちは各々の属性の防御系魔術で防いでいるのに対し、ヘイゼルはそんなものを必要とせず、ただひたすらに避けていた。
そう、レインが先ほどやってのけた、舞を踊るかのような避け方を。
「君にできることができないと、挑む資格なんてないだろう?」
「……………」
「まあいいさ、これで少しやりやすくなった」
人数が多いというのは必ず有利に働くわけではない。味方が邪魔で思うような攻撃ができなかったりと、多すぎるとかえって味方は邪魔な存在となる。
そして、ヘイゼルは集団戦闘よりも少人数での戦闘に特化していた。
「はあ……やるか」
こうなってしまっては仕方がない。試合はもう始まった。すでに、攻撃はこちらに向かって飛んできていた。
正面から『火球』、背後からは『風刃』がレインめがけて飛来する。身体を最小限ひねることでその両方を避ける。周囲を囲むことの弱点と言えば、通り過ぎていった魔術の向こう側に味方がいることだろう。現に、
「うわあ!?」
最初に魔術を放った二人はお互いの魔術にぶつかりそうになりながら、避けている。
「もう、これじゃあ面白くないよ」
レインはあくまで魔術を学びにきているのだ。こんな子供騙しのようなお遊戯に付き合っているのは単に自身の学習のためであり……い、一応仮師匠のグレンに言われたからであって……。
「ぐちぐち何言ってるんだ……よっと!」
「遅い」
剣に魔力を纏わせて斬りかかってきたその腕を捻り上げて、背負い投げ。剣を拾い上げると、レインはその魔力の流れを見た。
「魔術大会メンバーでこのレベルか」
「なんだと?」
レインとて、こんなぬるい試合に付き合うつもりはない。やるからにはもっと本気で……殺しにかかってきてもらわなくては。だからこそさらに煽る。
「たかが知れてるね、先輩。その程度なんですか?」
「なっ!このクソガキ……」
怒りの表情でこちらを睨む名前も知らない生徒。
「総攻撃だ!そうすれば避けようがない!」
「でも、そしたらまた攻撃がこっちに……」
「分担しろ!二人一組で防御と攻撃をやればいい!」
なるほど、多少は頭が回るようだ。全員が二人一組を作っていく。
「いけ!」
周囲から飛んでくる無数の魔術。どれもこれも下級や中級の魔術ばかりではあるが、無論当たれば致命傷だ。レインの魔力体は死ぬことがないとはいえ、生身だったら危なかった。
「ちょうどいい。新しい魔術を試してみよう」
レインの作り上げた新しい魔術、『探知』は魔力を空気中に流し込むことでその範囲の情報を一気に脳内に流し込むことができる。
そうすることで、目を瞑っても全範囲の状況が把握することができるのだ。敵意をもつものと味方の区別もできる。もちろんそれは、魔力もだ。
識別された魔力は色分けされて脳内にシュミレートされる。ただ、一つ予想外なことがあるとすれば、あまりにも処理が大変なことくらいだ。
「痛いな……」
酷い熱に襲われた感覚がする。頭痛がズキズキとうるさく、頭の血管がドクンドクンと流れているような感覚に襲われる。ただ、レインはそんなのはもう慣れっこだ。
路上でギリギリ食い繋ぐ生活をしていた時、変なものを食べて高熱を出したり、どこかから病気をもらって死の間際を彷徨ったことも何度もある。その時の頭痛に比べたら、情報処理からくる頭痛など屁でもない。
「なんでだ?なんで当たらない!」
「右、左……後ろ」
レインはまるで舞でも踊るかのような軽やかなステップで攻撃を避ける。その洗練された動きはもはや本職のようである。
「慣れてきたな」
休む暇を与えないさまざまな魔術の連続攻撃はレインの身体ギリギリを掠めていく。正直『探知』がなければ何発も喰らっていておかしくなかった。情報を処理する感覚にも慣れてきたし、ここらで人数を減らしておこう。
「来れ、雨雲」
レインの魔力に呼応するように、黒い雲が地上を包み込む。
「『水槍』」
ぽつり、またぽつりと雨水が落ちる。それは、凄まじい速度で地面を振動させる。落下した水滴一つで地面には小さいながらも穴が生まれる。ドスンという重たい音と共に、空から降ってきた『水槍』は十五人の生徒たちを狙い始めた。
「うわあああ!」
「逃げろお!」
逃げ惑う生徒たち。
「あんなの、ただの水槍なのに……焦りすぎだよ」
水槍に殺傷能力はそこまでない。強いていうなら、皮膚を破って筋肉に突き刺さる程度だ。ただ痛いだけ。
「それに……安全には配慮してるつもりだよ」
レインは雨雲を晴らす。幸いにも死んでいる人はいなさそうだ。それでも、地面にうずくまっていたり、股の間に落ちた槍を見ながら気絶していたりするぐらい。
それに……
「うちの一年は優秀だ」
全員がいまだに立っていた。今立ち上がっているのは四人だ。レインののぞく一年生とヘイゼル。
三年がまさかの全滅する事態に驚きを隠せない。何人か背中に槍が突き刺さっているが……防御というのはどこへいったのだ?
「人間焦るといつものように思考が回らないものさ」
「じゃあヘイゼルは人じゃないね」
「なんでそうなるのかなー……」
実際、レインの目から見てもヘイゼルは異常だったからだ。
一年生たちは各々の属性の防御系魔術で防いでいるのに対し、ヘイゼルはそんなものを必要とせず、ただひたすらに避けていた。
そう、レインが先ほどやってのけた、舞を踊るかのような避け方を。
「君にできることができないと、挑む資格なんてないだろう?」
「……………」
「まあいいさ、これで少しやりやすくなった」
人数が多いというのは必ず有利に働くわけではない。味方が邪魔で思うような攻撃ができなかったりと、多すぎるとかえって味方は邪魔な存在となる。
そして、ヘイゼルは集団戦闘よりも少人数での戦闘に特化していた。
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