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新しいおうち
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帝都魔術学校では生徒に学びやすい環境を提供するために、寮というものが作られている。寮では宿泊費はかからず、おいてある棚やシャワールーム、ベッドも自由に使っていい。だから、たいていの生徒は寮の設備だけで従前に学ぶことができるだろう。
だが、レインには研究室が必要なのだ。今までは寮の中で足りない設備を言い訳にせず、自分の頭の中で式を組み立てて、考察して研究としていたのだが、それにも限度がある。
実験のために必要な部屋がいる。そしてそれも誰にも見られないような場所で。できれば、その近くに寝泊まりできる場所も欲しい。
そうだ、家を買おう。
夏休みに入る前から購入の手続きは済んでおり、なんなら契約まで終わらせていた。まあ、購入とは名ばかりの『経費』なのだが。支部長さまさまである。
帝都の高級住宅街、帝城付近の一区画をレインは購入し、そこに移住することにした。別に寮の生活に不満があったわけではない。ただ、レインの知的探究心を満たしてくれるような素晴らしい設備がなかっただけである。
「ついにこの日が来た!」
珍しく興奮しているレインを優しい微笑みで見つめるロゼリー。その隣でレインと同じく目を輝かせているグラシア。
ロゼリーには以前から家を建ててそこに研究室を作りたいということを話していた。無論、ロゼリーや、今ロゼリーと一緒に住まわせているグラシア用の部屋も用意してある。
以前からこっそりと進めていた自分の家を持つという計画がようやく見になったのだ。
「見てよロゼリー!すごいでかい!」
「そうですね、お師匠様の家ぐらいあります!」
『師匠』が借りていた家は今思えばだいぶ広かった。あれを『小屋』と呼ぶ『師匠』は頭がどうかしていたのだろう。今になれば、あの凄さがわかるというもの。
宿生活と寮生活を乗り越えたレインにはそれはとても素晴らしいものだった。
貴族的な凝った外観の屋敷、広い庭がついていて実験用にも使えるだろう。高級住宅街なだけあって、隣の家とは距離が開いている。他の家を誤って壊してしまう心配はないだろう、多分。
「中に入ってみようよ」
いつまでも屋敷の門の前にいるのもどうかと思い、思い切って足を踏み入れる。大きい屋敷の扉を開けると、そこにはキラキラと輝くシャンデリアが部屋の隅々を照らし、彫刻品や絵画などを引き立たせ、目の前にある大きな階段の先には空白になった額縁が飾られていた。
二階に上がるための階段には赤いカーペットが敷かれ、左右にその階段は分かれている。もちろん一階の階段横や、右にも左にも扉がついている。
どこから見ればいいのかよくわからない。
「ここは以前、帝国の侯爵が住んでいたお屋敷だそうで、その方が公爵に出世した際に売られたそうです」
「だからあんなに高かったのか」
金貨数千枚が一気に溶ける瞬間を目の当たりにしていたレインは冷や汗を垂らす。経費がえぐいことになりそうだ。流石にあそこまでの金額を経費で落とそうとしていることを支部長はどう思うだろうか。
罪悪感を抱きつつも、レインはいろんな部屋を見て回ることにした。
♦️
「この部屋は研究室として使おう」
屋敷の地下には本来であればワインを貯蔵しておくであろうための場所があり、その地下室に関しては他のどの部屋よりも頑丈な壁をしていた。硬い石に覆われた特に煌びやかもしていないその部屋は淡い光だけが灯っており、研究にはぴったりだ。余計な樽は後で処分して仕舞えばいい。
「いいですね、ここなら壁を貫通しても隣の部屋で掃除をしている私が死ぬことはなさそうです!」
「そ、そんなことしないよ……」
だいぶ恐ろしいことを口にするロゼリー。
「となると欲しい設備は山ほどあるな……」
魔力化状態を維持する装置や、魔力含有量を測定する装置、保管用の冷却装置にバカみたいに巨大な魔力をコントロールするための装置。そのほかにもたくさんの設備が必要になってくる。
「ただまあ、そんなのは手に入れて仕舞えば済む話だ。速攻で買ってこよう」
ひとまず、屋敷の間取りは大体把握した。三人で暮らすには少々広すぎる部屋だ。それに本格的に使えるようにするにはあと数日は欲しいところ。一週間も経てば、レインはリシルの護衛のためにここを出発しなければならない。
せめて索敵魔術だけでも完成させたいから急いで買いに行きたいところなのだが。
「私もここに住めるの?」
「もちろん」
「嬉しいなの!でも、私役に立たないの……」
「確かに『悪魔』としての力は失ったかもしれないけど、グラシアはいるだけで役に立ってるよ」
主にロゼリーのやる気という面で。
「それに、『異常現象』を解明するにあたってグラシアの証言はだいぶ役にたつ。知能を持つ異常現象、『悪魔』。僕が最初に出会った『悪魔』が友好的でよかったよ」
最初こそ、一瞬殺されかけたけれどなんとか生きてるし。
グラシアは自分のことを弱いと言っていたが、能力が使える状態のグラシアは十分脅威だった。明らかに上級魔術師じゃ何人いようと勝ち目などないほどに。特級魔術師のレインですら油断すれば負けていたかもしれない。
『鏡の世界』を作り出す力。力を継承したレインにはそこまでたいそうなことはできない。
『鏡の世界』に閉じ込めた相手は外からも中からもどれだけ攻撃しようと、破壊することはできず、もちろんそれは術者本人に有利になる空間。レインで言えば、水で満ちている空間のことを言う。
『鏡の世界』にはほかにもたくさんの能力があるっぽいが、レインはこの目では見れなかった。
いずれ、継承した力の使い方も学ぼう。そうすれば、僕はもっともっと強くなることができるのだ。
拳を握り、密かにそう決意した。
だが、レインには研究室が必要なのだ。今までは寮の中で足りない設備を言い訳にせず、自分の頭の中で式を組み立てて、考察して研究としていたのだが、それにも限度がある。
実験のために必要な部屋がいる。そしてそれも誰にも見られないような場所で。できれば、その近くに寝泊まりできる場所も欲しい。
そうだ、家を買おう。
夏休みに入る前から購入の手続きは済んでおり、なんなら契約まで終わらせていた。まあ、購入とは名ばかりの『経費』なのだが。支部長さまさまである。
帝都の高級住宅街、帝城付近の一区画をレインは購入し、そこに移住することにした。別に寮の生活に不満があったわけではない。ただ、レインの知的探究心を満たしてくれるような素晴らしい設備がなかっただけである。
「ついにこの日が来た!」
珍しく興奮しているレインを優しい微笑みで見つめるロゼリー。その隣でレインと同じく目を輝かせているグラシア。
ロゼリーには以前から家を建ててそこに研究室を作りたいということを話していた。無論、ロゼリーや、今ロゼリーと一緒に住まわせているグラシア用の部屋も用意してある。
以前からこっそりと進めていた自分の家を持つという計画がようやく見になったのだ。
「見てよロゼリー!すごいでかい!」
「そうですね、お師匠様の家ぐらいあります!」
『師匠』が借りていた家は今思えばだいぶ広かった。あれを『小屋』と呼ぶ『師匠』は頭がどうかしていたのだろう。今になれば、あの凄さがわかるというもの。
宿生活と寮生活を乗り越えたレインにはそれはとても素晴らしいものだった。
貴族的な凝った外観の屋敷、広い庭がついていて実験用にも使えるだろう。高級住宅街なだけあって、隣の家とは距離が開いている。他の家を誤って壊してしまう心配はないだろう、多分。
「中に入ってみようよ」
いつまでも屋敷の門の前にいるのもどうかと思い、思い切って足を踏み入れる。大きい屋敷の扉を開けると、そこにはキラキラと輝くシャンデリアが部屋の隅々を照らし、彫刻品や絵画などを引き立たせ、目の前にある大きな階段の先には空白になった額縁が飾られていた。
二階に上がるための階段には赤いカーペットが敷かれ、左右にその階段は分かれている。もちろん一階の階段横や、右にも左にも扉がついている。
どこから見ればいいのかよくわからない。
「ここは以前、帝国の侯爵が住んでいたお屋敷だそうで、その方が公爵に出世した際に売られたそうです」
「だからあんなに高かったのか」
金貨数千枚が一気に溶ける瞬間を目の当たりにしていたレインは冷や汗を垂らす。経費がえぐいことになりそうだ。流石にあそこまでの金額を経費で落とそうとしていることを支部長はどう思うだろうか。
罪悪感を抱きつつも、レインはいろんな部屋を見て回ることにした。
♦️
「この部屋は研究室として使おう」
屋敷の地下には本来であればワインを貯蔵しておくであろうための場所があり、その地下室に関しては他のどの部屋よりも頑丈な壁をしていた。硬い石に覆われた特に煌びやかもしていないその部屋は淡い光だけが灯っており、研究にはぴったりだ。余計な樽は後で処分して仕舞えばいい。
「いいですね、ここなら壁を貫通しても隣の部屋で掃除をしている私が死ぬことはなさそうです!」
「そ、そんなことしないよ……」
だいぶ恐ろしいことを口にするロゼリー。
「となると欲しい設備は山ほどあるな……」
魔力化状態を維持する装置や、魔力含有量を測定する装置、保管用の冷却装置にバカみたいに巨大な魔力をコントロールするための装置。そのほかにもたくさんの設備が必要になってくる。
「ただまあ、そんなのは手に入れて仕舞えば済む話だ。速攻で買ってこよう」
ひとまず、屋敷の間取りは大体把握した。三人で暮らすには少々広すぎる部屋だ。それに本格的に使えるようにするにはあと数日は欲しいところ。一週間も経てば、レインはリシルの護衛のためにここを出発しなければならない。
せめて索敵魔術だけでも完成させたいから急いで買いに行きたいところなのだが。
「私もここに住めるの?」
「もちろん」
「嬉しいなの!でも、私役に立たないの……」
「確かに『悪魔』としての力は失ったかもしれないけど、グラシアはいるだけで役に立ってるよ」
主にロゼリーのやる気という面で。
「それに、『異常現象』を解明するにあたってグラシアの証言はだいぶ役にたつ。知能を持つ異常現象、『悪魔』。僕が最初に出会った『悪魔』が友好的でよかったよ」
最初こそ、一瞬殺されかけたけれどなんとか生きてるし。
グラシアは自分のことを弱いと言っていたが、能力が使える状態のグラシアは十分脅威だった。明らかに上級魔術師じゃ何人いようと勝ち目などないほどに。特級魔術師のレインですら油断すれば負けていたかもしれない。
『鏡の世界』を作り出す力。力を継承したレインにはそこまでたいそうなことはできない。
『鏡の世界』に閉じ込めた相手は外からも中からもどれだけ攻撃しようと、破壊することはできず、もちろんそれは術者本人に有利になる空間。レインで言えば、水で満ちている空間のことを言う。
『鏡の世界』にはほかにもたくさんの能力があるっぽいが、レインはこの目では見れなかった。
いずれ、継承した力の使い方も学ぼう。そうすれば、僕はもっともっと強くなることができるのだ。
拳を握り、密かにそう決意した。
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