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夢のような場所

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 その後、預金残高を確認してみたが、そこにはみたこともないような大金が入っていた。

 金貨にして約5000枚だ。これがどれだけの数字なのかと問われれば、国家予算がおおよそこれの倍程度。そう言われて仕舞えば、すごそうに聞こえないかもしれない。ただ、わかる人はわかってくれるはずだ。国家予算の半分を超える金額がただ一人、個人の残高の中に収まっているという事実にしかもこれを稼いでからまだ一年も立っていない。一年も無休で働けば多分国家予算を超えることができるかもしれない。

 魔術界は一体どこからこんなお金を引っ張り出して来れたのか。個人に与える額ではないのはこの際置いておくとして、これほどまでの金額をポンと出せることがまずすごい。

 金貨1000枚は白金貨1枚と交換できる。まあ、まだ全部下ろして使い倒すつもりないが、持ち運びたい時にはこっちの方が便利かもしれない。

 確かにこれだけのお金があれば帝都の一等地に高級な家を建てることなどわけないだろう。案外ヴァージの適当計算も当てになるというもの。別に先輩を馬鹿にしているわけではない、ただあまりの金額に何を喋っていいのかわからなくなってきただけである。

 レインは寮に帰ってから考え始めた。

 グラシアはロゼリーに預けて、魔術界支部でヴァージと別れた。

「うーん……」

「どうしたんだ?そんなに唸って」

 同室のギルがそう話しかけてくる。ギルは休みの日でもほとんどこの部屋にこもっている。友達いないんじゃないかって心配したこともあったけれど、それを直接聞いたら馬鹿にするなって怒られた。

「いやーもし、国家予算の半分が貯金としてあったらギルはどうする?」

「は?そんなのあるわけないだろ?」

「もしあったとしてだよ。それをどう使う?」

「適当に豪遊するだろ。なんでも買えるしな」

「家とか?」

「家か。いいな、それ。帝都の高級住宅街に一際目立つの建てたいな」

 レインはまだ納得できていなかった。家の設備が充実していたとして、どうせ家にいる時間はごくわずかしかないのだから。普段は学校の授業を受けたり外出している。そんな中で家だけ豪華になっても意味はないのではないだろうか?




















 そんなことを思っていた時期が、僕にもありました。

「家の中に研究室とか作りたいよな」

「それだ!」

「うわっ、いきなり大声出すなよ」

 お金の使い道がようやく今示された。

 そうだ、研究室を作ろう。最新設備を揃えて、どんな実験も行えるような環境を作り、すべては魔術のためだけに活用される。魔術第一、生活第二のような環境を作るのだ。悪くない、うむ、悪くないぞそれは。

「それなら実験場も作りたいな」

 開発した魔術の試し撃ちや、研究のための実験などを行えるスペースも作りたい。大丈夫、お金なんて山ほど余っているのだからどれだけ使おうと財布の中身は常に潤い続けている。

「仮眠スペースと、ちっさなねどこをくっつけておいて……ロザリー用のスペースとグラシア用のスペースを作ってやればもう完璧なのではないか?」

 そんな夢のような環境ならきっとレインも毎日毎日こもり続けることだろう。学校なんか行っている場合ではなくなってくる。そんな夢のような環境を作れるお金がレインの手元の中で燻っていたのだ。どうしてそのことに、そんな単純なことに気がつけなかったのだろうか?

「そうと決まったら早く物件を見に行かなくちゃ」

「おい、どこ行くんだ?」

「もう一回外出する!」

「それはできないぞ?」

「……え?」

 早く向かいたいと足踏みしながらそう尋ねるレインにギルは冷静で残酷な一言を告げた。

「外出届を出して一度帰ってきちゃったら、その日はもう外出できないぞ?」

 ……………物件の見学はまた来週まで持ち越しとなるのだった。
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