上 下
48 / 62

夢のような場所

しおりを挟む
 その後、預金残高を確認してみたが、そこにはみたこともないような大金が入っていた。

 金貨にして約5000枚だ。これがどれだけの数字なのかと問われれば、国家予算がおおよそこれの倍程度。そう言われて仕舞えば、すごそうに聞こえないかもしれない。ただ、わかる人はわかってくれるはずだ。国家予算の半分を超える金額がただ一人、個人の残高の中に収まっているという事実にしかもこれを稼いでからまだ一年も立っていない。一年も無休で働けば多分国家予算を超えることができるかもしれない。

 魔術界は一体どこからこんなお金を引っ張り出して来れたのか。個人に与える額ではないのはこの際置いておくとして、これほどまでの金額をポンと出せることがまずすごい。

 金貨1000枚は白金貨1枚と交換できる。まあ、まだ全部下ろして使い倒すつもりないが、持ち運びたい時にはこっちの方が便利かもしれない。

 確かにこれだけのお金があれば帝都の一等地に高級な家を建てることなどわけないだろう。案外ヴァージの適当計算も当てになるというもの。別に先輩を馬鹿にしているわけではない、ただあまりの金額に何を喋っていいのかわからなくなってきただけである。

 レインは寮に帰ってから考え始めた。

 グラシアはロゼリーに預けて、魔術界支部でヴァージと別れた。

「うーん……」

「どうしたんだ?そんなに唸って」

 同室のギルがそう話しかけてくる。ギルは休みの日でもほとんどこの部屋にこもっている。友達いないんじゃないかって心配したこともあったけれど、それを直接聞いたら馬鹿にするなって怒られた。

「いやーもし、国家予算の半分が貯金としてあったらギルはどうする?」

「は?そんなのあるわけないだろ?」

「もしあったとしてだよ。それをどう使う?」

「適当に豪遊するだろ。なんでも買えるしな」

「家とか?」

「家か。いいな、それ。帝都の高級住宅街に一際目立つの建てたいな」

 レインはまだ納得できていなかった。家の設備が充実していたとして、どうせ家にいる時間はごくわずかしかないのだから。普段は学校の授業を受けたり外出している。そんな中で家だけ豪華になっても意味はないのではないだろうか?




















 そんなことを思っていた時期が、僕にもありました。

「家の中に研究室とか作りたいよな」

「それだ!」

「うわっ、いきなり大声出すなよ」

 お金の使い道がようやく今示された。

 そうだ、研究室を作ろう。最新設備を揃えて、どんな実験も行えるような環境を作り、すべては魔術のためだけに活用される。魔術第一、生活第二のような環境を作るのだ。悪くない、うむ、悪くないぞそれは。

「それなら実験場も作りたいな」

 開発した魔術の試し撃ちや、研究のための実験などを行えるスペースも作りたい。大丈夫、お金なんて山ほど余っているのだからどれだけ使おうと財布の中身は常に潤い続けている。

「仮眠スペースと、ちっさなねどこをくっつけておいて……ロザリー用のスペースとグラシア用のスペースを作ってやればもう完璧なのではないか?」

 そんな夢のような環境ならきっとレインも毎日毎日こもり続けることだろう。学校なんか行っている場合ではなくなってくる。そんな夢のような環境を作れるお金がレインの手元の中で燻っていたのだ。どうしてそのことに、そんな単純なことに気がつけなかったのだろうか?

「そうと決まったら早く物件を見に行かなくちゃ」

「おい、どこ行くんだ?」

「もう一回外出する!」

「それはできないぞ?」

「……え?」

 早く向かいたいと足踏みしながらそう尋ねるレインにギルは冷静で残酷な一言を告げた。

「外出届を出して一度帰ってきちゃったら、その日はもう外出できないぞ?」

 ……………物件の見学はまた来週まで持ち越しとなるのだった。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。 だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。 女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。 途方に暮れる主人公たち。 だが、たった一つの救いがあった。 三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。 右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。 圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。 双方の利害が一致した。 ※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております

ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者

哀上
ファンタジー
チートを貰い異世界転生。何も成し遂げることなく35年……、ついに前世の年齢を超えた。

神に同情された転生者物語

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。 すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情された異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。 悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...