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刺激的な訓練 ※アルフレッド視点
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魔術とは積み重ねである。
そう言ってきたのはレインだった。まだ出会っても日は浅いがレインの性格はよくわかるようになっていた。
世話焼きで鈍感で少しだけ天然なのに、魔術のことに関すれば途端に白熱するようなやつだ。
初めて会った時のインパクトは衝撃的なものである。
変なゴーレムに襲われていたところを助けてもらったのだ。もちろん最初は自分のためではなくリシルのためであったのはわかってる。同じクラスの友達らしいから。
だが、レインが戦う姿を見て思ったのだ。
かっこいいと。
魔術は使えず、筆記試験でどうにかギリギリ通過したにすぎないような自分には魔術を使うなんて夢のまた夢といった感じであり、それこそレインのように大立ち回りなんてできることは一生ないと思っていた。
だけど、レインは言ってくれたのだ。俺を、誰もが振り向くような完璧な人にして見せると、それこそ何をやっても優秀な兄上を超えるくらいの。そうすればきっとリシルも振り向くってさ。
その完璧な自分の理想像の中にはすでに、魔術を使えるという項目が増えていた。勉強を教えてもらいながら、いつ始まるかわからない魔術の話を楽しみに待っている日々が続く。
レインはたまにからかってきたり、年下なのに生意気なところもあるけれど、教えるのは上手で一緒にいて楽しかった。だからこそ、心のどこかで焦っていた。
レインは毎日研究をし続けていてどんどんと魔術の腕前を上げていっているというのに、自分はこのまま基礎の勉強だけをやり続けているのはどうなのかと。もちろん自分に足りていないことであるのはわかっているが、順番なんてどうでもいいだろう?
どうしてもレインのようになりたかった。早く、できるだけ早く。
だからこそ、もう直ぐに迫った魔術大会に目をつけたのだ。きっとこの機会を逃せば、自分はなあなあに学び続けるだけでいつになってもレインにも兄上にも追いつけないだろうなって。
一か八かで兄上にお願いしてみれば、それはかなりいい返事であった。魔術大会に出る腕前があればいいと。
レインの魔術の訓練はそれなりに過酷であった。体の中にある魔力が操れるようになるまで永遠とやらされ、外からの魔力の完治に苦戦していたら攻撃魔術を放たれたりした。それで強くなれるなら、とどうにか食らいついてきた。
そして今も。
「落とされるのは聞いてないけどなああああああああ!?」
上から見る帝都の景色はなかなかに悪くないものである。だがしかし、自分の命の危機が迫っていない状況下であることを前提とした話ではあるが。
これで、風の魔術の感覚を掴めなかったらどうなるのか、掴めたとしてこの後どうなるのかとか、色々と考えてしまうが、そんな考えは直ぐに振り払う。
そんなことをしている間に地面は間近に迫りつつあり、そして何よりレインを信用しているから。
「集中……」
体の中にある魔力はずっと燻り続けている。外から感じる風が全身に強い衝撃を打ち付ける。ひんやりとした強風は服を貫通して伝わってくる。
「大丈夫、できるはずだ」
いきなりで驚きはしたが、これは訓練だ。きっと自分ならできる。そのために今まで魔力の感覚を磨いてきたんだ。
一生かかっても使えないと思ってた魔術に手が届くかもしれない。やるしかないだろう?
「風よ……」
術式を作り、それは魔力に包まれて軌道の合図を待つ。呼びかけのセリフが合図となってその術式は込められた力が解き放たれた。
「わっ」
非常に弱い威力の『風球』だ。だが、この手で使えたのだ、風の魔術が!
「よくできました」
上から優しく包み込むように手を回される。地面まで後数十メートルと言ったところだった。
レインの手は地面に向けられ、そこから無詠唱の魔術が放たれる。地面から生まれたごく少量の水はすぐさま広がり、それに向かって飛び込んだ。衝撃はやって来ず、ただボヨンとトランポリンのように跳ねるだけだった。
「随分と刺激的な訓練だな……」
「これなら一発でしょ?」
「お前なあ……」
軽く言い放つレインに呆れながら、二人は笑い出した。
そう言ってきたのはレインだった。まだ出会っても日は浅いがレインの性格はよくわかるようになっていた。
世話焼きで鈍感で少しだけ天然なのに、魔術のことに関すれば途端に白熱するようなやつだ。
初めて会った時のインパクトは衝撃的なものである。
変なゴーレムに襲われていたところを助けてもらったのだ。もちろん最初は自分のためではなくリシルのためであったのはわかってる。同じクラスの友達らしいから。
だが、レインが戦う姿を見て思ったのだ。
かっこいいと。
魔術は使えず、筆記試験でどうにかギリギリ通過したにすぎないような自分には魔術を使うなんて夢のまた夢といった感じであり、それこそレインのように大立ち回りなんてできることは一生ないと思っていた。
だけど、レインは言ってくれたのだ。俺を、誰もが振り向くような完璧な人にして見せると、それこそ何をやっても優秀な兄上を超えるくらいの。そうすればきっとリシルも振り向くってさ。
その完璧な自分の理想像の中にはすでに、魔術を使えるという項目が増えていた。勉強を教えてもらいながら、いつ始まるかわからない魔術の話を楽しみに待っている日々が続く。
レインはたまにからかってきたり、年下なのに生意気なところもあるけれど、教えるのは上手で一緒にいて楽しかった。だからこそ、心のどこかで焦っていた。
レインは毎日研究をし続けていてどんどんと魔術の腕前を上げていっているというのに、自分はこのまま基礎の勉強だけをやり続けているのはどうなのかと。もちろん自分に足りていないことであるのはわかっているが、順番なんてどうでもいいだろう?
どうしてもレインのようになりたかった。早く、できるだけ早く。
だからこそ、もう直ぐに迫った魔術大会に目をつけたのだ。きっとこの機会を逃せば、自分はなあなあに学び続けるだけでいつになってもレインにも兄上にも追いつけないだろうなって。
一か八かで兄上にお願いしてみれば、それはかなりいい返事であった。魔術大会に出る腕前があればいいと。
レインの魔術の訓練はそれなりに過酷であった。体の中にある魔力が操れるようになるまで永遠とやらされ、外からの魔力の完治に苦戦していたら攻撃魔術を放たれたりした。それで強くなれるなら、とどうにか食らいついてきた。
そして今も。
「落とされるのは聞いてないけどなああああああああ!?」
上から見る帝都の景色はなかなかに悪くないものである。だがしかし、自分の命の危機が迫っていない状況下であることを前提とした話ではあるが。
これで、風の魔術の感覚を掴めなかったらどうなるのか、掴めたとしてこの後どうなるのかとか、色々と考えてしまうが、そんな考えは直ぐに振り払う。
そんなことをしている間に地面は間近に迫りつつあり、そして何よりレインを信用しているから。
「集中……」
体の中にある魔力はずっと燻り続けている。外から感じる風が全身に強い衝撃を打ち付ける。ひんやりとした強風は服を貫通して伝わってくる。
「大丈夫、できるはずだ」
いきなりで驚きはしたが、これは訓練だ。きっと自分ならできる。そのために今まで魔力の感覚を磨いてきたんだ。
一生かかっても使えないと思ってた魔術に手が届くかもしれない。やるしかないだろう?
「風よ……」
術式を作り、それは魔力に包まれて軌道の合図を待つ。呼びかけのセリフが合図となってその術式は込められた力が解き放たれた。
「わっ」
非常に弱い威力の『風球』だ。だが、この手で使えたのだ、風の魔術が!
「よくできました」
上から優しく包み込むように手を回される。地面まで後数十メートルと言ったところだった。
レインの手は地面に向けられ、そこから無詠唱の魔術が放たれる。地面から生まれたごく少量の水はすぐさま広がり、それに向かって飛び込んだ。衝撃はやって来ず、ただボヨンとトランポリンのように跳ねるだけだった。
「随分と刺激的な訓練だな……」
「これなら一発でしょ?」
「お前なあ……」
軽く言い放つレインに呆れながら、二人は笑い出した。
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