44 / 62
身体強化
しおりを挟む
レインは帝都の街にでたことはそこまで多くはなかった。レインがまだ猫の姿で暮らしていた時、その時はまだ人間の姿を手に入れてはいなかったものだから、街の中に出ようものなら自分よりも背丈の大きな人間たちに怯えていた。
どうしても食べるものがなくなった時しか街にはでず、基本的に路地裏の中を行き来していたせいか、レインは誰よりも帝都の路地裏の中を知り尽くしていた。八年間もそこで暮らしていたのだから、もはや路地はレインの庭だ。
例え優秀な護衛であったとしても全ての道を知っているレインには追いつくことはできない。曲がりくねった道の中には狭い道もあるから、大人の体では入れなかったりする。故に、逃げ切るのは簡単だった。
護衛の人には申し訳ないことをしたという自覚はあるものの、これはもともとやる予定だった『訓練』とも関係してくるのだから許してほしい。言ったとしても許されないと思うけど。
「もうすぐ抜けるよ!」
路地裏をアルフレッドの手を引っ張りながら突き進み、帝城の近くへとつながる道から出る。抜けた先に広がる世界はレインも遠目であれば見たことがあるような景色であった。
古びていながら、荘厳とした佇まいでその空間に静止しているその帝城は帝国の国旗をはためかせながら、何百メートルもある高さは雲すら突き抜けている。人類の建築技術を軽く超えてくるような外観は圧巻の一言につき、その敷地は帝都の居住区域よりも何倍も広い。
「これの横に、それぞれの皇族が住む宮が何個かあるんだ」
「広い……確かに『師匠』のは小屋だ」
「?」
『師匠』が連れてきてくれたあのそこら辺にある家を何個も繋げたような大きさをしている建物ですら小屋という表現が正しいと思えるほど巨大だ。帝城の大きさそのものがこの帝国の威厳を示している。
帝国の象徴なのだ。
「ねえねえ」
「言っておくが、中には入れないぞ?」
「むぅ、いじわる」
「さっきも言ったろ。入ったのがバレたら最悪レインは打首だぞ?」
「それは困るな。首が飛んだら、研究に支障をきたしそう……」
「いや、そこじゃないだろ?」
若干アルフレッドに引かれつつもレインはその帝城の様子を眺める。
「ねえ、あのてっぺんに登ったことある?」
「ええ?」
レインが指差す先にあるのは雲を突き抜けた帝城の最も高い場所だ。
「あるわけないだろ、あんなところ」
「登ってみたくない?」
「え、いやいやいや無理だから」
「登りたい!」
「無理だろ絶対!」
「いいの?今日この後魔術の訓練をしようと思ってたけど、あそこで」
「絶対嘘だ!」
「割とほんとだよ?」
とにかく高い場所に登りたい。そこの方がきっと『風』が強いはずだから。
「……いいと言うと思うか?」
「うん」
「後悔すんなよ?」
♦️
とは言ってもどうやって登るのかは迷いどころだ。今さっきこの国の第三皇子に許可は得たところだから、バレても打首にはならないはず……それよりもあそこまで到達する方法を探したい。
最初は魔術界の建物を使って高いところに登ろうかとも思ったが、あそこに行って仕舞えば事情を知らない人がレインの正体をアルフレッドにバラしてしまう可能性がある。かといって街の外から出ることは子供だけではだめだ。そうなってくると一番高い建物は帝城ということになる。
「そもそも敷地にどうやって入るつもりなんだ?」
「それは適当にチョチョイと?」
「適当だなおい」
「まあ見ててよ」
別にこういう時のために魔術を開発してきたわけではないのだが、活用するに越したことはない。何気に帝城の中に入るというのも初めてだから楽しみだ。やってはいけないことをしている時ってどうしてこんなに生き生きすることができるのだろうか。
レインは体全身に溜まっている魔力を巡らせていく。とはいえ、魔力体は元から魔力で満ち満ちているため、表現として適切なのは、体内の魔力を循環させたが適切だ。
魔力体の停滞した魔力の流れを動かし、それで魔術を発動させる。
レインは昔から思っていたことがあるのだ。魔術師の敗因として高い、接近戦の弱さをどうにかして補えないかと。ついこの間開発に成功したこの無属性の魔術ならば、きっと役立ってくれることだろう。
全身に巡った魔力は発動させた魔術陣に反応し、レインの魔力体にサークルを刻んだ。
「なんだそれ?」
浮き上がったなぞの魔術陣にアルフレッドがそんな疑問を投げかける。
「強化魔術を他の魔術を介さずに自分に付与してみたんだ」
そう、名付けるならば『身体強化』と言ったところだろうか。
「大丈夫、倍率はそれなりに調節し終えてる……多分」
「そっか、それならあんし……え?多分って言った今?」
どこまで身体能力が強化されたのはよくわからないけれど、きっとなんとかなるはずだ。何せまだ一回も使ったことがないのだから分かれという方が無理難題なのだ。だからこそ、今ついでに実験して仕舞えばいいのではないだろうか。
まさに一石二鳥!
「しっかり捕まっててね?」
「うお!?」
アルフレッドの身体を軽々と持ち上げて、レインは自分の腕の中に収める。
「お、おい!降ろせ!恥ずかしいだろ!」
「それじゃあいくよ!」
「おい、話……うぉ!?」
地面を蹴ったレインは次の瞬間には簡単に十メートルにもなる帝城の壁を超えてみせた。
どうしても食べるものがなくなった時しか街にはでず、基本的に路地裏の中を行き来していたせいか、レインは誰よりも帝都の路地裏の中を知り尽くしていた。八年間もそこで暮らしていたのだから、もはや路地はレインの庭だ。
例え優秀な護衛であったとしても全ての道を知っているレインには追いつくことはできない。曲がりくねった道の中には狭い道もあるから、大人の体では入れなかったりする。故に、逃げ切るのは簡単だった。
護衛の人には申し訳ないことをしたという自覚はあるものの、これはもともとやる予定だった『訓練』とも関係してくるのだから許してほしい。言ったとしても許されないと思うけど。
「もうすぐ抜けるよ!」
路地裏をアルフレッドの手を引っ張りながら突き進み、帝城の近くへとつながる道から出る。抜けた先に広がる世界はレインも遠目であれば見たことがあるような景色であった。
古びていながら、荘厳とした佇まいでその空間に静止しているその帝城は帝国の国旗をはためかせながら、何百メートルもある高さは雲すら突き抜けている。人類の建築技術を軽く超えてくるような外観は圧巻の一言につき、その敷地は帝都の居住区域よりも何倍も広い。
「これの横に、それぞれの皇族が住む宮が何個かあるんだ」
「広い……確かに『師匠』のは小屋だ」
「?」
『師匠』が連れてきてくれたあのそこら辺にある家を何個も繋げたような大きさをしている建物ですら小屋という表現が正しいと思えるほど巨大だ。帝城の大きさそのものがこの帝国の威厳を示している。
帝国の象徴なのだ。
「ねえねえ」
「言っておくが、中には入れないぞ?」
「むぅ、いじわる」
「さっきも言ったろ。入ったのがバレたら最悪レインは打首だぞ?」
「それは困るな。首が飛んだら、研究に支障をきたしそう……」
「いや、そこじゃないだろ?」
若干アルフレッドに引かれつつもレインはその帝城の様子を眺める。
「ねえ、あのてっぺんに登ったことある?」
「ええ?」
レインが指差す先にあるのは雲を突き抜けた帝城の最も高い場所だ。
「あるわけないだろ、あんなところ」
「登ってみたくない?」
「え、いやいやいや無理だから」
「登りたい!」
「無理だろ絶対!」
「いいの?今日この後魔術の訓練をしようと思ってたけど、あそこで」
「絶対嘘だ!」
「割とほんとだよ?」
とにかく高い場所に登りたい。そこの方がきっと『風』が強いはずだから。
「……いいと言うと思うか?」
「うん」
「後悔すんなよ?」
♦️
とは言ってもどうやって登るのかは迷いどころだ。今さっきこの国の第三皇子に許可は得たところだから、バレても打首にはならないはず……それよりもあそこまで到達する方法を探したい。
最初は魔術界の建物を使って高いところに登ろうかとも思ったが、あそこに行って仕舞えば事情を知らない人がレインの正体をアルフレッドにバラしてしまう可能性がある。かといって街の外から出ることは子供だけではだめだ。そうなってくると一番高い建物は帝城ということになる。
「そもそも敷地にどうやって入るつもりなんだ?」
「それは適当にチョチョイと?」
「適当だなおい」
「まあ見ててよ」
別にこういう時のために魔術を開発してきたわけではないのだが、活用するに越したことはない。何気に帝城の中に入るというのも初めてだから楽しみだ。やってはいけないことをしている時ってどうしてこんなに生き生きすることができるのだろうか。
レインは体全身に溜まっている魔力を巡らせていく。とはいえ、魔力体は元から魔力で満ち満ちているため、表現として適切なのは、体内の魔力を循環させたが適切だ。
魔力体の停滞した魔力の流れを動かし、それで魔術を発動させる。
レインは昔から思っていたことがあるのだ。魔術師の敗因として高い、接近戦の弱さをどうにかして補えないかと。ついこの間開発に成功したこの無属性の魔術ならば、きっと役立ってくれることだろう。
全身に巡った魔力は発動させた魔術陣に反応し、レインの魔力体にサークルを刻んだ。
「なんだそれ?」
浮き上がったなぞの魔術陣にアルフレッドがそんな疑問を投げかける。
「強化魔術を他の魔術を介さずに自分に付与してみたんだ」
そう、名付けるならば『身体強化』と言ったところだろうか。
「大丈夫、倍率はそれなりに調節し終えてる……多分」
「そっか、それならあんし……え?多分って言った今?」
どこまで身体能力が強化されたのはよくわからないけれど、きっとなんとかなるはずだ。何せまだ一回も使ったことがないのだから分かれという方が無理難題なのだ。だからこそ、今ついでに実験して仕舞えばいいのではないだろうか。
まさに一石二鳥!
「しっかり捕まっててね?」
「うお!?」
アルフレッドの身体を軽々と持ち上げて、レインは自分の腕の中に収める。
「お、おい!降ろせ!恥ずかしいだろ!」
「それじゃあいくよ!」
「おい、話……うぉ!?」
地面を蹴ったレインは次の瞬間には簡単に十メートルにもなる帝城の壁を超えてみせた。
10
お気に入りに追加
454
あなたにおすすめの小説

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが……
アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。
そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。
実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。
剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。
アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。


公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

元天才貴族、今やリモートで最強冒険者!
しらかめこう
ファンタジー
魔法技術が発展した異世界。
そんな世界にあるシャルトルーズ王国という国に冒険者ギルドがあった。
強者ぞろいの冒険者が数多く所属するそのギルドで現在唯一、最高ランクであるSSランクに到達している冒険者がいた。
───彼の名は「オルタナ」
漆黒のコートに仮面をつけた謎多き冒険者である。彼の素顔を見た者は誰もおらず、どういった人物なのかも知る者は少ない。
だがしかし彼は誰もが認める圧倒的な力を有しており、冒険者になって僅か4年で勇者や英雄レベルのSSランクに到達していた。
そんな彼だが、実は・・・
『前世の知識を持っている元貴族だった?!」
とある事情で貴族の地位を失い、母親とともに命を狙われることとなった彼。そんな彼は生活費と魔法の研究開発資金を稼ぐため冒険者をしようとするが、自分の正体が周囲に知られてはいけないので自身で開発した特殊な遠隔操作が出来るゴーレムを使って自宅からリモートで冒険者をすることに!
そんな最強リモート冒険者が行く、異世界でのリモート冒険物語!!
毎日20時30分更新予定です!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる