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『師匠』の行方
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今日は休日である。
一週間の中でのたった二回のうちの片方だ。帝都魔術学校の生徒が外出するためには外出届なるものを出さなくてはいけなく、たいていの場合はそれを出すだけで許可は降りる。当然、レインも申請したが降りた。
問題児など、謹慎中の生徒は外出届が使えないのだが、流石に夜中の門限を過ぎても校舎にいたことはまだバレていないようだった。唯一の懸念点であったが、結果は上々だ
。
レインは意気揚々と外出をすることにしたのだが、もちろんレインが一人で外出しようなんて思うはずもない。一緒に行く相手は、アルフレッドだ。
そもそも、今回の外出はアルフレッドの魔術訓練の一環でもあった。まあ、レインが遊びたいというのもあるのだが、今回やりたい訓練がどうしても外出しないとできないものなのだ。
それもあるが……やはり外出するなら外の街を色々と巡りたい。
気分はとても良い。るんるんで学校の門で待ち合わせていたアルフレッドの元へと向かうと、アルフレッドは先にそこに着いていた。
「お、お待たせ……待った?」
「待ってないぞ、っていうかどうした?」
先に着いていたアルフレッドの横にいたのは平民が着るような質素な服に袖を通した一人の若い男性だった。その人はアルフレッドの側、その後ろに控えるかのように背中に手を回して姿勢を伸ばしている。
「あの、その人は?」
「……レイン、忘れてるかもしれないけど、俺も皇族だぞ?」
「あ、いや……忘れてはないんだけどね、アル君?」
どうしよう、やりたい訓練があったのだが……絶対にやろうとしたら止められる未来が見える。それだけ危険な訓練をやるつもりなのか聞かれて仕舞えば、はいそうですと頷くしかないのだが……どうやって説得しようか……。
「とりあえず、こっちにいる護衛は俺たちの視界に入らないようにこっそりと護衛してくれるから気にしなくていいぞ」
「あ、うん」
めちゃくちゃ気になるんだけど?
「とりあえず、行こうか」
♦️
「うわー!すごい!広いよ、ここ!」
レインは帝都の噴水の広場の前まで来るとぴょんぴょん飛び跳ねてはしゃいでしまっていた。アルフレッドの暖かい目で我に帰り、咳払いをする。
「お前、平民のくせにこんな街並みではしゃいでるのか?」
「う……ぼ、僕は田舎出身だから帝都に来たことなんてほとんどないんだよ!」
「ああ、だからイントネーションがたまに変なのか」
「え!?うそ、まだそうなってる?」
以前リシルに指摘されたから、できる限り改善しようと試みたつもりだったのだが、どうやらまだ修正した方がいいらしい。とはいえ、レインからしたらどこが違うのかよくわからないため、修正のしようもないのだが。
「俺はその田舎っぽいイントネーションも好きだぞ?レインが俺より年下だって思い出させてくれるし」
さっき噴水の前ではしゃいでいたレインは急に自分の行動が恥ずかしくなる。アルフレッドの身長は普通の十二歳の男の子と比べるとやや低めであるものの、レインの身長はそれよりさらに低く、アルフレッドのあごより少し高いくらいしかなかった。
アルフレッドも学年では低身長と言われる部類であるのに、それより低いレインはおそらく学年トップで背が低いだろう。
「ほら、早くいくぞ?どこに行きたい?」
「皇族なのに、案内できるの?」
あんまり城下町……帝都に降りてくることはないと思っていたのだが?
「ああ、お忍びで何度か遊びに来ていたからな。今は、学校支給してくれる服を着ているからバレることはないだろうけど」
「行きたい場所があるんだけど……行ってもいい?」
「どこだ?言ってみろ、俺が連れてってやる」
やけに嬉しそうに胸をドンと叩いて見せるアルフレッド。
「帝都の図書館に行きたい!」
「……お前って本当に勉強バカだな」
「え?え?」
なぜだが、急に落ち込んでしまったアルフレッド。とはいえ、レインは気にせず連れて行ってもらうことにした。
♦️
帝都大図書館はかなり有名な建物であった。貴族が保有する書庫なんかよりもよっぽど広く、その本の保有量はおおよそ十万冊ほど。
保有量で言えば、公爵家と同等レベルの本が置かれている。ちなみに皇族家が保有する本はそれよりも全然多いらしい。いつか全部の本に目を通してみたいものだ。
今回、なぜレインが図書館に来たいと言ったのかといえば、一つ思いついたことがあったからだ。新しい本の内容が読みたかったわけではない。一度読んだ本をもう一度読み直したかったわけではない。
では、なぜ来たのか。それは、新聞を読みたかったからだ。
帝都大図書館においてある新聞には帝国の内容のもの以外にも諸外国の大きな出来事を記載したものが載っているのだ。ふとした時にレインは体がウズウズしてしまう。いつになったら『師匠』は帰って来れるようになるのかと。
ついつい、気になって集中できないことがあるのだ。だからこそ、せめて今の『師匠』の現状くらいは把握しておきたかった。そうすれば、少なくとも何も手につかないほどになることはないだろうと思ったからだ。
「俺は別のコーナーに行ってるから、お互い自由にな」
「あれ、護衛の人は?」
「入り口で待機。入ってくんなって言ったら従ってくれた」
「それでいいのか……」
ともかく、レインは新聞のコーナーに足を運んだ。たくさんの新聞が立てかけられ、そこから何枚でも好きなもの持って行くことができる。もちろん、新聞に借りるもくそもないのだから、購入するか、図書館内で読むの二択しかない。
レインは諸外国の情報について記載された、新聞を広げると『師匠』が記載されていそうな場所を探す。どうやら『師匠』は賢人会議に向かった先に問題に巻き込まれてしまったらしい。
魔術界のトップ、『七魔導』の中で最強の魔女が足止めを喰らったとなれば、きっと新聞にもなっているはずだ。
「えーっと……これか」
レインは唾を飲み込む。そこに記載された内容をゆっくりと読み上げた。
「『〈虹の魔女〉、謎の現象から人々を救う』か……」
……どうやら、他国にも『異常現象』が広がっていたらしい。
一週間の中でのたった二回のうちの片方だ。帝都魔術学校の生徒が外出するためには外出届なるものを出さなくてはいけなく、たいていの場合はそれを出すだけで許可は降りる。当然、レインも申請したが降りた。
問題児など、謹慎中の生徒は外出届が使えないのだが、流石に夜中の門限を過ぎても校舎にいたことはまだバレていないようだった。唯一の懸念点であったが、結果は上々だ
。
レインは意気揚々と外出をすることにしたのだが、もちろんレインが一人で外出しようなんて思うはずもない。一緒に行く相手は、アルフレッドだ。
そもそも、今回の外出はアルフレッドの魔術訓練の一環でもあった。まあ、レインが遊びたいというのもあるのだが、今回やりたい訓練がどうしても外出しないとできないものなのだ。
それもあるが……やはり外出するなら外の街を色々と巡りたい。
気分はとても良い。るんるんで学校の門で待ち合わせていたアルフレッドの元へと向かうと、アルフレッドは先にそこに着いていた。
「お、お待たせ……待った?」
「待ってないぞ、っていうかどうした?」
先に着いていたアルフレッドの横にいたのは平民が着るような質素な服に袖を通した一人の若い男性だった。その人はアルフレッドの側、その後ろに控えるかのように背中に手を回して姿勢を伸ばしている。
「あの、その人は?」
「……レイン、忘れてるかもしれないけど、俺も皇族だぞ?」
「あ、いや……忘れてはないんだけどね、アル君?」
どうしよう、やりたい訓練があったのだが……絶対にやろうとしたら止められる未来が見える。それだけ危険な訓練をやるつもりなのか聞かれて仕舞えば、はいそうですと頷くしかないのだが……どうやって説得しようか……。
「とりあえず、こっちにいる護衛は俺たちの視界に入らないようにこっそりと護衛してくれるから気にしなくていいぞ」
「あ、うん」
めちゃくちゃ気になるんだけど?
「とりあえず、行こうか」
♦️
「うわー!すごい!広いよ、ここ!」
レインは帝都の噴水の広場の前まで来るとぴょんぴょん飛び跳ねてはしゃいでしまっていた。アルフレッドの暖かい目で我に帰り、咳払いをする。
「お前、平民のくせにこんな街並みではしゃいでるのか?」
「う……ぼ、僕は田舎出身だから帝都に来たことなんてほとんどないんだよ!」
「ああ、だからイントネーションがたまに変なのか」
「え!?うそ、まだそうなってる?」
以前リシルに指摘されたから、できる限り改善しようと試みたつもりだったのだが、どうやらまだ修正した方がいいらしい。とはいえ、レインからしたらどこが違うのかよくわからないため、修正のしようもないのだが。
「俺はその田舎っぽいイントネーションも好きだぞ?レインが俺より年下だって思い出させてくれるし」
さっき噴水の前ではしゃいでいたレインは急に自分の行動が恥ずかしくなる。アルフレッドの身長は普通の十二歳の男の子と比べるとやや低めであるものの、レインの身長はそれよりさらに低く、アルフレッドのあごより少し高いくらいしかなかった。
アルフレッドも学年では低身長と言われる部類であるのに、それより低いレインはおそらく学年トップで背が低いだろう。
「ほら、早くいくぞ?どこに行きたい?」
「皇族なのに、案内できるの?」
あんまり城下町……帝都に降りてくることはないと思っていたのだが?
「ああ、お忍びで何度か遊びに来ていたからな。今は、学校支給してくれる服を着ているからバレることはないだろうけど」
「行きたい場所があるんだけど……行ってもいい?」
「どこだ?言ってみろ、俺が連れてってやる」
やけに嬉しそうに胸をドンと叩いて見せるアルフレッド。
「帝都の図書館に行きたい!」
「……お前って本当に勉強バカだな」
「え?え?」
なぜだが、急に落ち込んでしまったアルフレッド。とはいえ、レインは気にせず連れて行ってもらうことにした。
♦️
帝都大図書館はかなり有名な建物であった。貴族が保有する書庫なんかよりもよっぽど広く、その本の保有量はおおよそ十万冊ほど。
保有量で言えば、公爵家と同等レベルの本が置かれている。ちなみに皇族家が保有する本はそれよりも全然多いらしい。いつか全部の本に目を通してみたいものだ。
今回、なぜレインが図書館に来たいと言ったのかといえば、一つ思いついたことがあったからだ。新しい本の内容が読みたかったわけではない。一度読んだ本をもう一度読み直したかったわけではない。
では、なぜ来たのか。それは、新聞を読みたかったからだ。
帝都大図書館においてある新聞には帝国の内容のもの以外にも諸外国の大きな出来事を記載したものが載っているのだ。ふとした時にレインは体がウズウズしてしまう。いつになったら『師匠』は帰って来れるようになるのかと。
ついつい、気になって集中できないことがあるのだ。だからこそ、せめて今の『師匠』の現状くらいは把握しておきたかった。そうすれば、少なくとも何も手につかないほどになることはないだろうと思ったからだ。
「俺は別のコーナーに行ってるから、お互い自由にな」
「あれ、護衛の人は?」
「入り口で待機。入ってくんなって言ったら従ってくれた」
「それでいいのか……」
ともかく、レインは新聞のコーナーに足を運んだ。たくさんの新聞が立てかけられ、そこから何枚でも好きなもの持って行くことができる。もちろん、新聞に借りるもくそもないのだから、購入するか、図書館内で読むの二択しかない。
レインは諸外国の情報について記載された、新聞を広げると『師匠』が記載されていそうな場所を探す。どうやら『師匠』は賢人会議に向かった先に問題に巻き込まれてしまったらしい。
魔術界のトップ、『七魔導』の中で最強の魔女が足止めを喰らったとなれば、きっと新聞にもなっているはずだ。
「えーっと……これか」
レインは唾を飲み込む。そこに記載された内容をゆっくりと読み上げた。
「『〈虹の魔女〉、謎の現象から人々を救う』か……」
……どうやら、他国にも『異常現象』が広がっていたらしい。
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