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強化訓練
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二週間後のこと。
シエラが一ヶ月間の教師としての仕事を終えて、帰還することとなった。もちろん周りの生徒たちはただただ臨時教師がいなくなることに何かを感じている様子はないが、レインからすれば意外と長い時間のように感じた。
本業である、異常の調査というものから離れるというのはシエラにとってはとても暇だっただろう。レインとてそれは同じである。
いつもの学生生活に戻ったことで、なんとなく時間が引き延ばされたような感じがする。それが本来正しい時間の感じ方なのはわかっているが。
シエラが帰ることになって時、グラシアも一緒に連れていくことになったのは大体予想通りであった。理由として、一度『異常現象』として姿を現したグラシアをそのまま魔術界が放置するわけもない。
レインに拒否する権限はないし、それを経て解放された後こそ、グラシアも自由に過ごせるというもの。
「ほんの少しの辛抱だ」
「わかったなの」
本人も納得し、シエラについていった。そうして、レインは再び休暇に戻ったのだ。
♦️
「休暇が休暇じゃない……」
「休暇?今日は平日だよ」
今日も今日とて書類整理をリシルとヘイゼルと共に行っていた。ぶっちゃけ生徒会の本来の仕事がなんなのかもうよくわからなくなってきている。
「リシル、疲れたならもう休んでていいよ」
「え、ほんと!?やったー!」
「えー、僕は?」
「レイン殿はまだまだ平気そうじゃないか」
「えー!ずるいリシル!」
笑うリシルとヘイゼル。いつもの光景だ。
そんな時、不意に生徒会の扉がノックされた。
「あ、あの……」
外から入ってきたのは、アルフレッドである。レインよりも身長は若干高かったはずなのに、なんとなくこじんまりとしているような気がする。いつもよりもオドオドしていた。
「どうしたんだ?」
「あ……」
アルフレッドはヘイゼルの前に立つとどうしても緊張してしまうらしい。いつもいつも比べられている相手……苦手意識がついてしまったのだ。だからと言って、二人は兄弟だ。切っても切れない縁があるから、どうしても会話をすることが多い。
「アルフレッド?」
「うぅ……」
ヘイゼルがアルフレッドが話し始めるのを待つ。リシルは苦笑いを浮かべながら、再び書類整理を始めていた。
レインはアルフレッドの元へと近づくと、背中を思いっきり叩いた。
「レイン殿!?」
ヘイゼルがレインらしからぬ行動に驚いている。珍しい表情だ。
「なにしてんのアル君。いつも通り行きなよ」
「っ!」
レインにそう言われたアルフレッドは思い切ったように口を開いた。
「あ、兄上。俺を、私を魔術大会に出してもらえないでしょうか?」
「え?魔術大会だって?」
魔術大会はさまざまな国の魔術師の生徒たちが集い、優勝を目指して戦う大会である。規模はとてつもなく、選手に選ばれるのはごくわずかな人だけである。
それこそ、一学年三人ずつくらいだ。何百人といる生徒の中でそんな一握りの生徒しか出場することすら叶わない。
「アルフレッド……お前が魔術大会に出たい意気込みは伝わってきたが、こればっかりは僕にもどうしようもない。僕だって、たかが一つの国の皇子……ただの生徒会長でしかないんだ。だから……」
「や、やっぱりそうだよね……」
そう落ち込むアルフレッド。なぜアルフレッドがいきなり魔術大会に出たいと言い出したのかはレインには見当もつかない。
だが、だからと言って『友人』であるアルフレッドの願いは叶えてあげたいというものだ。
「ヘイゼル、アル君が出れるようにすればいいんだよね?」
「え?」
「僕がアル君を鍛えるよ」
仮にも魔術界トップの『七魔導』の一人である。教える能力があるかはわからないが、少なくとも実力は備えているつもりである。
「レイン殿が?」
「レイン君ならできるんじゃない?だって、上級魔術師の先生をぶっ飛ばしちゃうくらいだし!」
リシルがそう言ってサポートを挟む。ヘイゼルは若干悩んだ後口を開いた。
「アルフレッド、お前が一年生の部で出場できる実力があると判断できたら、出場する許可を与えよう……まあ、僕に権限はないんだけどね。先生方に進言することはできるよ」
「ほ、本当ですか!?」
「嘘は言わないさ。可愛い弟のお願いだからね」
「あ、ありがとうございます!」
満面の笑みで会釈をするアルフレッド。チラリとこちらをみて、「へへっ」と笑ってみせる。年上であるはずなのに、どうしても年下の子供を見ているような気分になってくる。
「そういうわけで、アル君。これからビシバシ鍛えていくからね!」
「わ、わかってるよ!手加減しないでよな?」
手加減しないと一瞬で目覚めない身体になってしまうんだけれど……
「もちろん」
「やった!」
そんなこんなで、レインによるアルフレッド強化訓練が始まった。
シエラが一ヶ月間の教師としての仕事を終えて、帰還することとなった。もちろん周りの生徒たちはただただ臨時教師がいなくなることに何かを感じている様子はないが、レインからすれば意外と長い時間のように感じた。
本業である、異常の調査というものから離れるというのはシエラにとってはとても暇だっただろう。レインとてそれは同じである。
いつもの学生生活に戻ったことで、なんとなく時間が引き延ばされたような感じがする。それが本来正しい時間の感じ方なのはわかっているが。
シエラが帰ることになって時、グラシアも一緒に連れていくことになったのは大体予想通りであった。理由として、一度『異常現象』として姿を現したグラシアをそのまま魔術界が放置するわけもない。
レインに拒否する権限はないし、それを経て解放された後こそ、グラシアも自由に過ごせるというもの。
「ほんの少しの辛抱だ」
「わかったなの」
本人も納得し、シエラについていった。そうして、レインは再び休暇に戻ったのだ。
♦️
「休暇が休暇じゃない……」
「休暇?今日は平日だよ」
今日も今日とて書類整理をリシルとヘイゼルと共に行っていた。ぶっちゃけ生徒会の本来の仕事がなんなのかもうよくわからなくなってきている。
「リシル、疲れたならもう休んでていいよ」
「え、ほんと!?やったー!」
「えー、僕は?」
「レイン殿はまだまだ平気そうじゃないか」
「えー!ずるいリシル!」
笑うリシルとヘイゼル。いつもの光景だ。
そんな時、不意に生徒会の扉がノックされた。
「あ、あの……」
外から入ってきたのは、アルフレッドである。レインよりも身長は若干高かったはずなのに、なんとなくこじんまりとしているような気がする。いつもよりもオドオドしていた。
「どうしたんだ?」
「あ……」
アルフレッドはヘイゼルの前に立つとどうしても緊張してしまうらしい。いつもいつも比べられている相手……苦手意識がついてしまったのだ。だからと言って、二人は兄弟だ。切っても切れない縁があるから、どうしても会話をすることが多い。
「アルフレッド?」
「うぅ……」
ヘイゼルがアルフレッドが話し始めるのを待つ。リシルは苦笑いを浮かべながら、再び書類整理を始めていた。
レインはアルフレッドの元へと近づくと、背中を思いっきり叩いた。
「レイン殿!?」
ヘイゼルがレインらしからぬ行動に驚いている。珍しい表情だ。
「なにしてんのアル君。いつも通り行きなよ」
「っ!」
レインにそう言われたアルフレッドは思い切ったように口を開いた。
「あ、兄上。俺を、私を魔術大会に出してもらえないでしょうか?」
「え?魔術大会だって?」
魔術大会はさまざまな国の魔術師の生徒たちが集い、優勝を目指して戦う大会である。規模はとてつもなく、選手に選ばれるのはごくわずかな人だけである。
それこそ、一学年三人ずつくらいだ。何百人といる生徒の中でそんな一握りの生徒しか出場することすら叶わない。
「アルフレッド……お前が魔術大会に出たい意気込みは伝わってきたが、こればっかりは僕にもどうしようもない。僕だって、たかが一つの国の皇子……ただの生徒会長でしかないんだ。だから……」
「や、やっぱりそうだよね……」
そう落ち込むアルフレッド。なぜアルフレッドがいきなり魔術大会に出たいと言い出したのかはレインには見当もつかない。
だが、だからと言って『友人』であるアルフレッドの願いは叶えてあげたいというものだ。
「ヘイゼル、アル君が出れるようにすればいいんだよね?」
「え?」
「僕がアル君を鍛えるよ」
仮にも魔術界トップの『七魔導』の一人である。教える能力があるかはわからないが、少なくとも実力は備えているつもりである。
「レイン殿が?」
「レイン君ならできるんじゃない?だって、上級魔術師の先生をぶっ飛ばしちゃうくらいだし!」
リシルがそう言ってサポートを挟む。ヘイゼルは若干悩んだ後口を開いた。
「アルフレッド、お前が一年生の部で出場できる実力があると判断できたら、出場する許可を与えよう……まあ、僕に権限はないんだけどね。先生方に進言することはできるよ」
「ほ、本当ですか!?」
「嘘は言わないさ。可愛い弟のお願いだからね」
「あ、ありがとうございます!」
満面の笑みで会釈をするアルフレッド。チラリとこちらをみて、「へへっ」と笑ってみせる。年上であるはずなのに、どうしても年下の子供を見ているような気分になってくる。
「そういうわけで、アル君。これからビシバシ鍛えていくからね!」
「わ、わかってるよ!手加減しないでよな?」
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「もちろん」
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