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それは小さな幼女
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「レイン君、今日一緒に帰ろうよ」
「え?寮はすぐそこだよ?」
「いいじゃん、寮に向かう途中まで一緒の道なんだから」
「ごめん、今日予定が……」
「えー?」
授業終わりに話しかけてきたリシルがほっぺを膨らませてレインをつつく。
「本当に~?」
「ほ、本当だけど?」
「えー、なんか嘘くさいなー」
「っ!そんなわけないじゃん!」
リシルはたまに鋭い時があるから困る。
「アルフレッド君に勉強を教えにいくの?」
「うーん、今日は違う人と会う予定なんだ。なんで、一緒に勉強してるって知ってるの?」
「ふぇ!?あ、えっと~……なんでもいいじゃない?」
レインは知っている。リシルがこっそりと図書館でレインたちの様子を伺っていたことを。知り合いですらなかった二人がいきなり図書館に通い詰めたら不自然にも思うか。
「じゃあ、私は帰るね」
「うん、じゃあまた明日……」
♦️
その日の夜のことだ。レインは寮の門限をとっくに過ぎながらも学校の中で廊下を巡回していた。待ち合わせていたシエラが現れるのを待ちながら……。
「おかしいなぁ」
だが、シエラは集合時間になっても現れなかった。何か問題でもあったのだろうか?シエラのような几帳面な人が時間を間違えるわけもない。
「探しに行ったほうがいいかな」
夜の校舎というものはとても不気味だった。明かりも灯っていない廊下は猫の夜目がなければ見通すことはできなかっただろう。どんよりとして雰囲気に呑まれそうになる。だが、レインも随分と慣れたもので常に警戒を怠らずに身体をほぐしておくことができていた。
「すれ違っちゃったかなー?」
そんなわけないか。
レインはそのまま廊下を歩く続けている。景色は一向に変わらない。この廊下の部分だけ時間が止まったかのように、なんの変化もなくその空間に静止しているようだ。
いや、待て?
周囲をもう一度見渡す。変わった様子もない、いつも通りの教室と廊下の壁。壁にはポスターが何枚か貼られていて、その横には夜の景色を写した窓があった。
おかしいのだ。
さっきからここの廊下をずっと歩き続けている。それも、何十メートル分も。そんなに長い廊下ではなかったはずだ。いや、それよりも先ほどから景色が変わっていない。横に見える教室のクラスも、貼ってあるポスターの内容も全部が全部さっき通った場所で見た景色だ。
なんで気づかなかった……夜に実験を行うためにシエラを呼んだのだが、シエラが遅れたわけではない。レインが、『異常空間』にいるから出会えないのだ。
「どこだ!」
声は無駄に大きく反響し、誰もいないその空間で何度もこだました。やまびこのように響くはずのない廊下に何度も何度もレインの声が繰り返し響き続けている。
その瞬間、レインは身体に衝撃を食らった。
「ぐお!?」
背中に受けた衝撃は決して生易しいものなんかではなく、人の身体が簡単に吹き飛ぶほどの威力であった。レインはすんでのところで踏ん張って、耐える。本来、痛覚があればきっと押された衝撃と背中を切られた感触で痛みを感じていた頃だろう。
だが、レインは冷静に周囲を見まわし続けた。
「どこから?いや、ここのどこからでも攻撃できるのか!」
「ここからなの」
「っ!?」
耳元から声がした。幼く、抑揚のない声。すぐさま振り向いたが、声の主はどこにも見当たらず笑い声が響いている。嘲笑うかのような……それでいて面白がっているような笑い声だ。
「お前が『異常現象』の正体か」
「知らないの、なにそれなの?」
声がする。だが、それは廊下全体に響いていて、声の発生源はなぜか特定できなかった。
「僕をここから解放しろ。さもなくば、攻撃を開始する」
「それは無理なの。あなたを出すと、いずれ私バレちゃうの」
「存在がバレたくない?なぜ?」
バレたくない理由がある。多くの人を傷つけるような目的ではなさそうだ、無差別に暴れたほうが効率がいいのは明らかだし、ここまでバレないように慎重になるのだからそれなりの理由があるはずだ。
「埋め尽くせ」
レインの身体から滲み出るようにしながらレインの魔力を含んだ水が廊下を満たしていく。これによって、この空間の切れ目の確認と優位性を少しだけ取り戻せた気がする。
「その身体はなんなの?攻撃が通らないの」
「それは前に飛んできたガラスの攻撃について話しているのか?」
レインの身体は魔力体であり、傷つけようとも実際のダメージはゼロに等しい。ただ、本体の存在がバレて仕舞えばその立場も崩れ去ることになってしまう。
「消し飛べなの!」
どこからともなく飛来してくるのは以前レインが受けたガラスの貫徹攻撃の何倍も大きなものだった。身体の全身を抉り取るかの如くやってきたそれを水の膜を張って防ごうとするも、それは効果がなかった。
身体に貫通し、胴体は真っ二つになる。レインだからこそ軽く話せることではあるが、人であればこの時点で即死であった。
「不思議なの。まだ生きてるの」
「そうかい、僕は君の姿を消している方法の方が面白いと思うけど?」
削られ、真っ二つにされた胴体を魔力で修復しながらレインはそうぼやく。どうにかして、姿を現せさせることができなければ、レインはこのまま脱出できないかもしれない。一度脱出できればそのままシエラと合流できるのに……。
「面白いと思う……だけど、すぐ攻略させてもらおう」
レインは手に魔力を込める。それを空中に放してから圧縮し始めた。魔力の濃度限界まで……その先までを目指して圧縮された魔力の塊は限界を迎えて音と若干の明かりを伴いながら爆発した。その小さな爆発だけで十分だった。
レインはその一瞬を見逃さず、ガラスで反射する『世界』のなかで一人の少女の影を見つけたのだ。
「そこ!」
「っ!」
『水球』は幼女にぶつかって飛散した。なにもない空間に、滴る水が浮かび上がった。
「これじゃあ隠れている意味がないの」
そう言いながら、次第になにもない空間から滴り落ちる水は、実体を伴う幼女の姿形を見せてくれる。そして、滴る水に隠れても意味がないと悟ったのか、向こうからその能力を解除してくれた。
現れたるは小さな幼女。まだまだ、幼い子供である。
「え?寮はすぐそこだよ?」
「いいじゃん、寮に向かう途中まで一緒の道なんだから」
「ごめん、今日予定が……」
「えー?」
授業終わりに話しかけてきたリシルがほっぺを膨らませてレインをつつく。
「本当に~?」
「ほ、本当だけど?」
「えー、なんか嘘くさいなー」
「っ!そんなわけないじゃん!」
リシルはたまに鋭い時があるから困る。
「アルフレッド君に勉強を教えにいくの?」
「うーん、今日は違う人と会う予定なんだ。なんで、一緒に勉強してるって知ってるの?」
「ふぇ!?あ、えっと~……なんでもいいじゃない?」
レインは知っている。リシルがこっそりと図書館でレインたちの様子を伺っていたことを。知り合いですらなかった二人がいきなり図書館に通い詰めたら不自然にも思うか。
「じゃあ、私は帰るね」
「うん、じゃあまた明日……」
♦️
その日の夜のことだ。レインは寮の門限をとっくに過ぎながらも学校の中で廊下を巡回していた。待ち合わせていたシエラが現れるのを待ちながら……。
「おかしいなぁ」
だが、シエラは集合時間になっても現れなかった。何か問題でもあったのだろうか?シエラのような几帳面な人が時間を間違えるわけもない。
「探しに行ったほうがいいかな」
夜の校舎というものはとても不気味だった。明かりも灯っていない廊下は猫の夜目がなければ見通すことはできなかっただろう。どんよりとして雰囲気に呑まれそうになる。だが、レインも随分と慣れたもので常に警戒を怠らずに身体をほぐしておくことができていた。
「すれ違っちゃったかなー?」
そんなわけないか。
レインはそのまま廊下を歩く続けている。景色は一向に変わらない。この廊下の部分だけ時間が止まったかのように、なんの変化もなくその空間に静止しているようだ。
いや、待て?
周囲をもう一度見渡す。変わった様子もない、いつも通りの教室と廊下の壁。壁にはポスターが何枚か貼られていて、その横には夜の景色を写した窓があった。
おかしいのだ。
さっきからここの廊下をずっと歩き続けている。それも、何十メートル分も。そんなに長い廊下ではなかったはずだ。いや、それよりも先ほどから景色が変わっていない。横に見える教室のクラスも、貼ってあるポスターの内容も全部が全部さっき通った場所で見た景色だ。
なんで気づかなかった……夜に実験を行うためにシエラを呼んだのだが、シエラが遅れたわけではない。レインが、『異常空間』にいるから出会えないのだ。
「どこだ!」
声は無駄に大きく反響し、誰もいないその空間で何度もこだました。やまびこのように響くはずのない廊下に何度も何度もレインの声が繰り返し響き続けている。
その瞬間、レインは身体に衝撃を食らった。
「ぐお!?」
背中に受けた衝撃は決して生易しいものなんかではなく、人の身体が簡単に吹き飛ぶほどの威力であった。レインはすんでのところで踏ん張って、耐える。本来、痛覚があればきっと押された衝撃と背中を切られた感触で痛みを感じていた頃だろう。
だが、レインは冷静に周囲を見まわし続けた。
「どこから?いや、ここのどこからでも攻撃できるのか!」
「ここからなの」
「っ!?」
耳元から声がした。幼く、抑揚のない声。すぐさま振り向いたが、声の主はどこにも見当たらず笑い声が響いている。嘲笑うかのような……それでいて面白がっているような笑い声だ。
「お前が『異常現象』の正体か」
「知らないの、なにそれなの?」
声がする。だが、それは廊下全体に響いていて、声の発生源はなぜか特定できなかった。
「僕をここから解放しろ。さもなくば、攻撃を開始する」
「それは無理なの。あなたを出すと、いずれ私バレちゃうの」
「存在がバレたくない?なぜ?」
バレたくない理由がある。多くの人を傷つけるような目的ではなさそうだ、無差別に暴れたほうが効率がいいのは明らかだし、ここまでバレないように慎重になるのだからそれなりの理由があるはずだ。
「埋め尽くせ」
レインの身体から滲み出るようにしながらレインの魔力を含んだ水が廊下を満たしていく。これによって、この空間の切れ目の確認と優位性を少しだけ取り戻せた気がする。
「その身体はなんなの?攻撃が通らないの」
「それは前に飛んできたガラスの攻撃について話しているのか?」
レインの身体は魔力体であり、傷つけようとも実際のダメージはゼロに等しい。ただ、本体の存在がバレて仕舞えばその立場も崩れ去ることになってしまう。
「消し飛べなの!」
どこからともなく飛来してくるのは以前レインが受けたガラスの貫徹攻撃の何倍も大きなものだった。身体の全身を抉り取るかの如くやってきたそれを水の膜を張って防ごうとするも、それは効果がなかった。
身体に貫通し、胴体は真っ二つになる。レインだからこそ軽く話せることではあるが、人であればこの時点で即死であった。
「不思議なの。まだ生きてるの」
「そうかい、僕は君の姿を消している方法の方が面白いと思うけど?」
削られ、真っ二つにされた胴体を魔力で修復しながらレインはそうぼやく。どうにかして、姿を現せさせることができなければ、レインはこのまま脱出できないかもしれない。一度脱出できればそのままシエラと合流できるのに……。
「面白いと思う……だけど、すぐ攻略させてもらおう」
レインは手に魔力を込める。それを空中に放してから圧縮し始めた。魔力の濃度限界まで……その先までを目指して圧縮された魔力の塊は限界を迎えて音と若干の明かりを伴いながら爆発した。その小さな爆発だけで十分だった。
レインはその一瞬を見逃さず、ガラスで反射する『世界』のなかで一人の少女の影を見つけたのだ。
「そこ!」
「っ!」
『水球』は幼女にぶつかって飛散した。なにもない空間に、滴る水が浮かび上がった。
「これじゃあ隠れている意味がないの」
そう言いながら、次第になにもない空間から滴り落ちる水は、実体を伴う幼女の姿形を見せてくれる。そして、滴る水に隠れても意味がないと悟ったのか、向こうからその能力を解除してくれた。
現れたるは小さな幼女。まだまだ、幼い子供である。
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