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優秀で不適任な助っ人
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「お早いお戻りで?〈変幻の魔術師〉殿」
「はい、こればっかりは僕悪くありませんが」
魔術界からレイン宛に出された手紙には支部長からの呼び出しについての内容が書かれていた。なぜ呼び出されたのかは分かりきっている。
「レイン君は運がいいのか悪いのか。なぜせっかくの休暇中に『異常現象』に出くわすのですか?」
「こっちが聞きたいです。でも、多分学校長も気づいていないと思います」
学校長はすでに魔術師として引退した身であり、『異常現象』をその目で目にしたことはないのだ。つまり、不自然な魔力を感知したとしてもそれが異常現象であると気付けないのだ。レインにはその経験があった。
魔術式を介さない魔力の流れは現状『異常現象』であると定義付けている。それが、『アノマリー隊』の見解で、レインの見解だ。
「今回はどのようなものなのだ?」
「正直よくわからないです」
今までレインが目にしたものは、何らかの物体に宿ったものか、完全な新生物として誕生しているようなものだ。最初に出会った人型の『異常現象』は核のようなものを体内に含んだ生物であった。生物……かは怪しいが。
「人の身体に宿るタイプなのか、もしくは人を何かを介して操ることができるタイプのどちらかだと思います」
「なるほど……それが君の意見か」
「魔力暴走を誘発させるようなものでもない、あの時、あの生徒は確実に意識をすげ替えられていた。無意識のうちに周りを攻撃していたように見えました。あの後、学校中を歩いてそれらしき『核』がないか調査しましたが、発見には至りませんでした」
「原因はわかっているが、発生源は不明か。現状、こちらからのアプローチで解決に導くことはできない。それに、死人を出すのは愚か、生徒を危険に晒すような行動は起こせない」
「学校を閉鎖するべきでは?」
「それはできない。学校の運営はあくまで国が行なっている。雇われている教師は魔術界出身ではあるが、こちら側に決定権はない」
最も安全で、調査がしやすいのはやはり学校を一時的に休校にすることだ。だがしかし、それは今支部長から否定された。残る解決策は、レインが単独で調査に乗り出すくらいしかない。
学校の中を歩き回っていても違和感がなく、かつレインなら突発的な魔術にも対処が可能だ。仮にも最高峰の魔術師の一角、その名に恥じぬ活躍はできると自負している。
「だけど、僕一人だと学校全体を同時にカバーすることはできません」
学校は広かった。無駄に広い。生徒寮だけでも、でかいの教師が住む寮もある。流石に監視の目をそこまで伸ばすことはできない。
「それに関しては、大丈夫だ。私にいい考えがある」
「支部長?」
「教師として、何名かの『アノマリー隊』をそちらへ入れさせる」
「ええ!?」
「レイン君は生徒側から、そして隊員には教師側から学校の様子を随時チェックするように頼んでおく。少なくとも、君一人よりも対応できる事態は増えるだろう」
「ありがとうございます!」
少ない人員の中から選ばれた『アノマリー隊』のメンバーであれば、きっとかなり有能に違いない。そうなれば、早期発見に繋げることができるだろう。
ただ、学校全体を一人で監視できないというものは少し悔しかった。レインの「できないことリスト」にまた一つ増えた。これは、また魔術を研究してどうにか克服するしかないな。
「とはいえ、他の部隊員を暇ではない。君のα隊は君と同時に休暇を取らせている。休暇中から引っ張り出してくるわけにはいかない」
「僕は引っ張り出されてんですが」
「……ともかく、今回は『アノマリー隊』から以外に優秀な助っ人も呼んだ。レイン君もよく知る人物だ。明日の学校を楽しみにしておくといい」
「え?まさか、もうそこまで話を進めてあるんですか?」
「ああ、君には事後報告という形になってしまったな」
さすが、魔術界から支部を任されるだけの男ではある。判断力を行動力はすさまじい。それと……僕の知っている人?
♦️
「ねえねえ、新しい先生が来るんだってね!」
「え、うん。そうなんだね」
「なにその反応?レイン君知ってたの?」
「ちょっとたまたま、学校長が話してたのを聞いちゃって」
「もう、立ち聞きはダメだよ!」
朝のホームルーム前にリシルとそんな会話をする。ただ、レインも気になっていないわけではない。レインがよく知る人と言ったらそれは限られてくるのだ。
そうなるとオリバーさんとかか?ヴァージさん?
どうやら事件が起きた一年Sクラスの副担任として赴任するらしい。設定上は一ヶ月だけの付き合いになるとなっているが、それまでに原因を突き止めて解決しなければならないようだ。
「あ、先生が来た」
「みなさん!静かに!今日は大事なお話があります!新しい先生がここ一年Sクラスに赴任なされました!ちゃんと挨拶をするように!」
でかく響く声で学校長はそういった。
「では、入って来てください」
学校長のその声で、生徒たち全員が前側のドアを注視する。そこから現れたのは、確かにレインのよく知る人物で、だいぶ予想外な人物であった。
「え、嘘あれって……」
「見たことあるぞ……!」
「〈凶弾〉だ!」
生徒たちは口々に盛り上がりを見せていた。外から入ってきたその新しい先生とやらは、レインのことを見つけると、いきなり話しかけてきた。
「おう、レイン。ちゃんとやってるかぁ?」
「あんの……馬鹿グレンさん……」
思わずレインは気絶しそうになった。支部長は優秀な人だが、人を見定める目はあまりないようだ。人を欺くような潜入作戦に一番向いてなさそうでいて……今現在手の空いている最も優秀な魔術師がそこに立っていた。
「今日から一ヶ月あなたたちの面倒を見てくれるグレン先生です。『七魔導』特級魔術師の一人〈凶弾の魔術師〉グレンとして有名ですね」
「おう、お前ら。よろしく頼むよ」
「はい、こればっかりは僕悪くありませんが」
魔術界からレイン宛に出された手紙には支部長からの呼び出しについての内容が書かれていた。なぜ呼び出されたのかは分かりきっている。
「レイン君は運がいいのか悪いのか。なぜせっかくの休暇中に『異常現象』に出くわすのですか?」
「こっちが聞きたいです。でも、多分学校長も気づいていないと思います」
学校長はすでに魔術師として引退した身であり、『異常現象』をその目で目にしたことはないのだ。つまり、不自然な魔力を感知したとしてもそれが異常現象であると気付けないのだ。レインにはその経験があった。
魔術式を介さない魔力の流れは現状『異常現象』であると定義付けている。それが、『アノマリー隊』の見解で、レインの見解だ。
「今回はどのようなものなのだ?」
「正直よくわからないです」
今までレインが目にしたものは、何らかの物体に宿ったものか、完全な新生物として誕生しているようなものだ。最初に出会った人型の『異常現象』は核のようなものを体内に含んだ生物であった。生物……かは怪しいが。
「人の身体に宿るタイプなのか、もしくは人を何かを介して操ることができるタイプのどちらかだと思います」
「なるほど……それが君の意見か」
「魔力暴走を誘発させるようなものでもない、あの時、あの生徒は確実に意識をすげ替えられていた。無意識のうちに周りを攻撃していたように見えました。あの後、学校中を歩いてそれらしき『核』がないか調査しましたが、発見には至りませんでした」
「原因はわかっているが、発生源は不明か。現状、こちらからのアプローチで解決に導くことはできない。それに、死人を出すのは愚か、生徒を危険に晒すような行動は起こせない」
「学校を閉鎖するべきでは?」
「それはできない。学校の運営はあくまで国が行なっている。雇われている教師は魔術界出身ではあるが、こちら側に決定権はない」
最も安全で、調査がしやすいのはやはり学校を一時的に休校にすることだ。だがしかし、それは今支部長から否定された。残る解決策は、レインが単独で調査に乗り出すくらいしかない。
学校の中を歩き回っていても違和感がなく、かつレインなら突発的な魔術にも対処が可能だ。仮にも最高峰の魔術師の一角、その名に恥じぬ活躍はできると自負している。
「だけど、僕一人だと学校全体を同時にカバーすることはできません」
学校は広かった。無駄に広い。生徒寮だけでも、でかいの教師が住む寮もある。流石に監視の目をそこまで伸ばすことはできない。
「それに関しては、大丈夫だ。私にいい考えがある」
「支部長?」
「教師として、何名かの『アノマリー隊』をそちらへ入れさせる」
「ええ!?」
「レイン君は生徒側から、そして隊員には教師側から学校の様子を随時チェックするように頼んでおく。少なくとも、君一人よりも対応できる事態は増えるだろう」
「ありがとうございます!」
少ない人員の中から選ばれた『アノマリー隊』のメンバーであれば、きっとかなり有能に違いない。そうなれば、早期発見に繋げることができるだろう。
ただ、学校全体を一人で監視できないというものは少し悔しかった。レインの「できないことリスト」にまた一つ増えた。これは、また魔術を研究してどうにか克服するしかないな。
「とはいえ、他の部隊員を暇ではない。君のα隊は君と同時に休暇を取らせている。休暇中から引っ張り出してくるわけにはいかない」
「僕は引っ張り出されてんですが」
「……ともかく、今回は『アノマリー隊』から以外に優秀な助っ人も呼んだ。レイン君もよく知る人物だ。明日の学校を楽しみにしておくといい」
「え?まさか、もうそこまで話を進めてあるんですか?」
「ああ、君には事後報告という形になってしまったな」
さすが、魔術界から支部を任されるだけの男ではある。判断力を行動力はすさまじい。それと……僕の知っている人?
♦️
「ねえねえ、新しい先生が来るんだってね!」
「え、うん。そうなんだね」
「なにその反応?レイン君知ってたの?」
「ちょっとたまたま、学校長が話してたのを聞いちゃって」
「もう、立ち聞きはダメだよ!」
朝のホームルーム前にリシルとそんな会話をする。ただ、レインも気になっていないわけではない。レインがよく知る人と言ったらそれは限られてくるのだ。
そうなるとオリバーさんとかか?ヴァージさん?
どうやら事件が起きた一年Sクラスの副担任として赴任するらしい。設定上は一ヶ月だけの付き合いになるとなっているが、それまでに原因を突き止めて解決しなければならないようだ。
「あ、先生が来た」
「みなさん!静かに!今日は大事なお話があります!新しい先生がここ一年Sクラスに赴任なされました!ちゃんと挨拶をするように!」
でかく響く声で学校長はそういった。
「では、入って来てください」
学校長のその声で、生徒たち全員が前側のドアを注視する。そこから現れたのは、確かにレインのよく知る人物で、だいぶ予想外な人物であった。
「え、嘘あれって……」
「見たことあるぞ……!」
「〈凶弾〉だ!」
生徒たちは口々に盛り上がりを見せていた。外から入ってきたその新しい先生とやらは、レインのことを見つけると、いきなり話しかけてきた。
「おう、レイン。ちゃんとやってるかぁ?」
「あんの……馬鹿グレンさん……」
思わずレインは気絶しそうになった。支部長は優秀な人だが、人を見定める目はあまりないようだ。人を欺くような潜入作戦に一番向いてなさそうでいて……今現在手の空いている最も優秀な魔術師がそこに立っていた。
「今日から一ヶ月あなたたちの面倒を見てくれるグレン先生です。『七魔導』特級魔術師の一人〈凶弾の魔術師〉グレンとして有名ですね」
「おう、お前ら。よろしく頼むよ」
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