上 下
28 / 62

生徒会

しおりを挟む
「生徒……会室?」

 そこは生徒会室と呼ばれる部屋であった。生徒会とは、主に学校行事などを取り仕切る学校の生徒のみで構成された組織である。それは、教師に代わる権力を行使できる……その例によって生徒会にはもともと格が高い貴族の子息たちが参加するのが恒例となっている。

 実際にヘイゼルは生徒会の会長であったようだ。

 3年制の魔術学校で生徒会長は二年。ヘイゼルの優秀さが伺える。

「で、なぜ私たちを連れてきたんですか?」

「ああ、そのことなんだけど……実はリシル嬢を生徒会に誘おうと思ってたんだ」

「え?」

 リシルは成績も優秀で、公爵家という高貴な血筋の生まれである。生徒会に入るになんら問題ない生徒であった。

「そ、そんな!私が生徒会だなんて烏滸がましいです!」

「そんなことはないよ。僕は昔から君の優秀さは知っているつもりだ」

「そんなことをおっしゃられたら、こっちにいるレイン君の方が優秀ですよ!」

 ヘイゼルがレインの方をみやる。

「それも知ってる。入学試験中に上級魔術師を気絶させた生徒は、レイン殿のことだろう?」

「え?なんで知ってるの?」

「知ってるさ。仮にも生徒会長で、第二王子だからね。情報はすぐに僕の元へ入ってくるよ。それに、レイン殿が市井生まれということも知ってる」

「あ……」

 ヘイゼルは近寄ってきて、優しく頭を撫でた。

「リシル嬢の友達は僕の友達でもあるって言ったろう?生まれなど関係ない。僕は優秀なものを集めたいだけだ。それに、上位貴族を生徒会に入れるという伝統なんてあくまで伝統だ。そんなもの無視して仕舞えばいいさ」

「え、あの~?」

「そういうわけだ、レイン殿。君も生徒会に入らないかい?」

「うぇ!?」

「いいじゃない、レイン君。一緒にやったらきっと楽しいわ!」

「う、うん……」

「どうしたの?」

「いや、なんでもないよ」

 生徒会に入ると、授業以外に学校で過ごす時間が多くなる。これは、レインの研究時間が減ることを意味している。正直あまり気乗りはしないのだが……。

 だが、リシルの顔を見ると満面の笑みで嬉しそうにしている。こんなの……断れるわけがないじゃないか。

「うん、やりたい、です」

「そうか、ならレイン殿もサインを書いてくれ。三年の先輩方がもうすぐ生徒会を引退するから、人数が減るのがわかってたからありがたい」

 ……ポジティブに考えよう。生徒会は生徒の情報がたくさん流れ込んでくる。それすなわち、レインが目にした『異常現象』のような情報も入ってくるかもしれない。生徒の身体を乗っ取った魔力……あれ一回きりで終わる事態とは思えない。

 調査のためにも、レインは生徒会に入った方が動きやすくなるだろう。

「それじゃあよろしく頼むよ、主席殿」

「あ、あはは……」

 なんでも知ってそうなヘイゼルに苦笑いしか浮かんでこないレイン。

「そうだ、生徒会員になったとはいえ、僕のことは親しく呼んでくれ」

「親しく?」

「ヘイゼルと呼び捨てに」

「ええ?そんな、恐れ多い……」

「いいよ、レイン殿になら……レイン君にならそう呼ばれたい」

 言葉遣いも女子を落とすためのそれにしか聞こえてこないのは僕だけだろうか……。

「へ、ヘイゼル?」

「……うん、いいね。可愛いよ。昔の弟みたいだ」

「ヘイゼル、弟いたの?」

「ん?まだ知らなかったのかい?君たちと同じ学年に僕の一つしたの弟……第三王子がいるはずなんだが……」

 少なくともSクラスにはいなかった。王子だからといって優秀なわけではないのか。この完璧な美貌を持つヘイゼルの弟なのだから、第三王子もとんでもなく整った顔をしているのだろうか?

 それにしても……弟か。

「お兄ちゃん?」

「……っ!」

 ニヤニヤと笑うリシル。肘でヘイゼルをツンツンとつついている。

「何恥ずかしがってるんですかあ?」

「ひどいね……これは、耐えられないだろ」

 僕にも弟や妹がいたのだろうか?何せ、生まれた時から家族に関する記憶は一切持ち合わせていなかった。血のつながった家族というのを見たことがない、ずっと一人だった。今では、『師匠』たちが家族になってくれたから気にはしない。

 でも、こうやってお兄ちゃんと呼ぶのは憧れの一つだったのだ。

「二人とも生徒会の仕事はまた今度……その都度、随時生徒会に呼び出すから」

「わかりました」

「わかった」

 そして、しばらくヘイゼルとリシルが会話をしている間に、レインはふと窓に目をやった。外の景色は学校から街の景色を一望できるような素晴らしい景色である。薄暗い路地裏は見えない。

 その時だ。

 風の音と共に、空に舞っている一枚の手紙が見えた。それには、厳重に魔術で封印された痕跡が遠目で見え、風に運ばれながらレインの元へと飛んできていた。

「魔術界から?」

 二人が見てない間に、こっそりと窓を開けた。そのタイミングを待っていたとでもいうように一瞬で中に流れ込んできた。窓を閉じ、手紙を服のポケットに突っ込んだ。

「僕、そろそろ帰ります!」

「そうか?引き止めてしまって、悪かったな。これからよろしくね、レイン君」

「はい!」

 ヘイゼルに元気よく挨拶を返し、レインは走り出した。廊下は走ってはいけないのだが、今は緊急だし許しておくれ生徒会長。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

なんで誰も使わないの!? 史上最強のアイテム『神の結石』を使って落ちこぼれ冒険者から脱却します!!

るっち
ファンタジー
 土砂降りの雨のなか、万年Fランクの落ちこぼれ冒険者である俺は、冒険者達にコキ使われた挙句、魔物への囮にされて危うく死に掛けた……しかも、そのことを冒険者ギルドの職員に報告しても鼻で笑われただけだった。終いには恋人であるはずの幼馴染にまで捨てられる始末……悔しくて、悔しくて、悲しくて……そんな時、空から宝石のような何かが脳天を直撃! なんの石かは分からないけど綺麗だから御守りに。そしたら何故かなんでもできる気がしてきた! あとはその石のチカラを使い、今まで俺を見下し蔑んできた奴らをギャフンッと言わせて、落ちこぼれ冒険者から脱却してみせる!!

世界最強で始める異世界生活〜最強とは頼んだけど、災害レベルまでとは言ってない!〜

ワキヤク
ファンタジー
 その日、春埼暁人は死んだ。トラックに轢かれかけた子供を庇ったのが原因だった。  そんな彼の自己犠牲精神は世界を創造し、見守る『創造神』の心を動かす。  創造神の力で剣と魔法の世界へと転生を果たした暁人。本人の『願い』と創造神の『粋な計らい』の影響で凄まじい力を手にしたが、彼の力は世界を救うどころか世界を滅ぼしかねないものだった。  普通に歩いても地割れが起き、彼が戦おうものなら瞬く間にその場所は更地と化す。  魔法もスキルも無効化吸収し、自分のものにもできる。  まさしく『最強』としての力を得た暁人だが、等の本人からすれば手に余る力だった。  制御の難しいその力のせいで、文字通り『歩く災害』となった暁人。彼は平穏な異世界生活を送ることができるのか……。  これは、やがてその世界で最強の英雄と呼ばれる男の物語。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

攫われた転生王子は下町でスローライフを満喫中!?

伽羅
ファンタジー
 転生したのに、どうやら捨てられたらしい。しかも気がついたら籠に入れられ川に流されている。  このままじゃ死んじゃう!っと思ったら運良く拾われて下町でスローライフを満喫中。  自分が王子と知らないまま、色々ともの作りをしながら新しい人生を楽しく生きている…。 そんな主人公や王宮を取り巻く不穏な空気とは…。 このまま下町でスローライフを送れるのか?

起きるとそこは、森の中。可愛いトラさんが涎を垂らして、こっちをチラ見!もふもふ生活開始の気配(原題.真説・森の獣

ゆうた
ファンタジー
 起きると、そこは森の中。パニックになって、 周りを見渡すと暗くてなんも見えない。  特殊能力も付与されず、原生林でどうするの。 誰か助けて。 遠くから、獣の遠吠えが聞こえてくる。 これって、やばいんじゃない。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

処理中です...