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 次の日、初めの授業を受けた。

 授業は座学と実技の二つがあった。そのほかにもたくさんあったようだが、必修ではなかったためレインは取らなかった。

 授業のコマ数で言えば一日たったの一つか二つ。二時間ほどが授業に使われてそのほかの時間は自由時間であった。十分な研究の時間が得られたことはとても喜ばしい。

 リシルには他の授業も誘われたのだが、研究を優先させてもらった。そしてギルはどうやら違うクラスだったらしくてSクラスの中にはいなかった。

 座学の授業は基本魔術のみである。

 魔術学校であるから当然ではあるのだが……魔術学には基礎編、応用編と分かれている。レインは応用を選んだのだが、応用も内容はパッとしないものばかりであった。

 授業で習うのは、魔術の属性の性質変化についてだった。火の温度だったり水の味だったり、土の材質などなどの性質変化の術を教えてくれている。残念ながらレインはすでにマスターしていたため、大した面白味は感じなかった。

 授業を行っているのは学校長。学校長としての仕事はどうした、とツッコミを入れたいが、どうやら学校長が担任となったのはレインに原因の一部があるらしいのであまり強くは聞きに行けない。

「はい、というわけでいいですか?今のところは中間試験に出題するかもしれませんよ」

 一応この学校には試験という者は存在するらしい。正直、このくらいのレベルであれば、レインが主席の座を脅かされる心配はないようにも思えてくる。ただ、レインに対して一部対抗意識バチバチの少年たちが何名かいるので、強いて言うならそいつらが主席を狙ってくるかもしれない。

 と、その時授業の終了を知らせる鐘の音が鳴った。重々しい音は教室中に響き渡る。

「っと、次は実技授業です。全員学校指定の運動着に着替えてください」

 学校が指定しているのはシンプルで伸縮性のある生地の服だった。男子は青で女子は赤。正直レインは運動着はそんなに好きではないのだが。

 男子も女子も、それぞれ更衣室が用意されており、全員がその更衣室に移動して着替えることになる。廊下を出てすぐのところにあるため、これと言って迷うことはない。学校内をまだ案内されていない一年生たちは、道に迷うかもしれないからと、休み時間に探検に出かけるような生徒はいなかった。

 全員十二歳というまだまだ子供な年齢だ。よく教育されているのだな、とレインは驚かされる。レインはまだ九歳であるが、生きてきた環境とかも違うし生物学的にも人間とは別な存在なので、十二歳の人よりも大人な考え方を持っている、と思いたい。

 着替えている途中にも周りからは視線を感じる。実技訓練であるから、レインを蹴落とすチャンスがあるとでも思って狙っているのだろうか。別にレインは構わないのだが、だからと言ってレインが手を抜いて得をすることはそこまで多くない。

 だから全力で返り討ちにするつもりだ。

「ははは!お前、筋肉全然ねーじゃん!」

「ベリル君……」

 レインが上着を脱いでいると昨日に足を引っかけようとしていた生徒、ベリルという名の少年が声をかけてきた。少々派手ではある赤髪で、アシメトリーロングの髪型はベリルの吊り目とマッチして高圧的な貴族的雰囲気を醸し出している。

「俺たちはみんなちゃんと鍛えてきたからな、見ろ!」

「うわぁ……!」

 レインは一切の筋肉がなく、そして特段脂肪がつきすぎているわけでもない標準的な体形であった。というよりも、レインの肉体は魔力体であるため、どれだけ鍛えようと筋肉が浮き出てくることは絶対にありえないのだ。

 反対に貴族の子息たちは全員がしっかりと身体を鍛えていたようで、みんなそれぞれ個人差はありつつも腹筋が出ている。

「すごい!」

「そうだろう?」

 ……昨日はめんどくさそうなやつだと思っていたけれど、もしかしてベリルは単純なのでは?少し褒めてあげれば、嬉しそうににやけている。やっぱりまだまだ子供だ。いくら認めていない!と言っていた相手からでも、褒められれば多少は嬉しくなるらしい。

 なお、ベリルを褒めたのはレインの本心である。

「ちょっと触ってもいい?」

「は?え、ちょっ!?」

 返事を待たずに腹筋をペタペタ触るレイン。その硬い感触に軽く感動を覚える。

「おお~」

「ぎゃ、はは!やめ……ちょ、さわら、あはは!」

 そして無理やり引きはがされる。

「あ、あんまり触るな!」

「あ、ごめんつい……でも、すごいね筋肉」

「そうだろ!お前とは違うんだよ!」

「うん、とってもかっこいいね」

 下からベリルの顔を覗くと、頬が若干染まっていた。くすぐってしまったことのせいだろうか?

「っふん、早く着替えろよ。実技の授業でぶっ倒してやるから」

「うん!」

 レインは服を着始めた。


 ♦


「お互いの実力を知ることはとても大切なことの一つです。よって、今から模擬戦を行います」

 学校長はそう宣言する。

「ただし、レイン君は魔術禁止です」

「え?」

 あれ、おかしいな。今魔術禁止とか聞こえてきた気がするんだけど……。

「あの、もう一回言ってもらっても?」

「魔術禁止です。レイン君は肉弾戦のみを有効とします」

「ええ!?」

 そんなのあまりにも不公平……いや、仮にもレインは魔術師であるはずだ。なのになぜ魔術の使用が認められない!おかしいではないか!

「レイン君が魔術を使用した場合、死人が出る可能性があるので」

「ええ?手加減しますよもちろん!」

「それでもです。初級魔術で上級魔術師を失神させるような生徒は黙って従ってください」

「理不尽だ……」

 いくらなんでもあれはただの事故だった……上級魔術師の教師の方が本気を出すと言っておきながら手加減をしようとしたからである。だからレインが勝ったのだ。だが、初級魔術で気絶まで追い込んだのは事実であった。

「わかりました……」

 理不尽さ加減に打ちのめされるレイン。リシルはそんなレインを苦笑いで迎える。

「なんだか大変そうね」

「僕、肉弾戦なんて自信ないよ……」

「そうなの?でも、レイン君だってやっぱり鍛えてるんでしょ?」

「鍛えてはいるさ。でも、他のみんなみたいな筋肉がつかないんだ」

 鍛え方の問題ではない。レインは一向に悪くない。なのになぜこんなにも悔しいのだろうか。男として負けている気分であった。

「レイン君は筋肉つけなくていいのよ。そっちの方がプニプニしてて可愛いし」

「うーん……」

 男として筋肉を得たい思いと『師匠』からもらった肉体を改変したくないという思いが混同してレインの頭の中で渦を巻く。最終的には後者が勝利し、レインは一旦更衣室で見たベリルの腹筋は忘れることにした。

「えー、全員が総当たりをする時間はないので、一人一回誰かを指名して戦うこととします。最初は名前順で、先頭の……」

 名前が一番若い生徒がもう一人の相手となる生徒を指名する。そうして、学校長が何やら魔術を行使した。

「これは光魔術の結界魔術です。この結界から外へは魔術的現象は一切許さず消滅します。遠慮なく放ちなさい。ただし、この結界から踏み出した者、降参を認めた者、戦闘不能になった方を負けとします」

 そうして、実技の授業が始まった。
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