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人体
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水の魔術の扱いには次第に慣れてきた。はじめの一歩こそ過酷なものであったが、一度水を操る感覚を覚えればあとは一瞬であった。魔力で水を再現し、それを操る……一連の流れができるようになれば、あとは『魔術』を覚えるのみである。
剣術で言えば、剣の振り方はマスターしたから『技』を覚えるという段階だ。
初級魔術『水球ル・メア』を初めに習ったが、正直水中生活のほうが大変であった。そのことを『師匠』に言えば、
「では、初球を飛ばして応用からやりましょう」
そう言って、いつか目にした猫を水で作り出してみせた。
「水を魔力で変質させなさい」
これが課題です、と目の前に赤々としたりんごの実を置いた『師匠』は、ロザリーに研究資料がどこにあるか尋ねながら別の部屋へと言ってしまった。ロザリーも渋々ながらに『師匠』についていく。
誰もいなくなった部屋には、やり方さえ教えてもらえなかった猫がただ一匹いるだけとなった。
「まずは、触ってみよう」
触った感じは若干硬く、だが木よりも柔い。感覚的には噛み砕けるが、この丸い形のどこに歯を入れられるのかはよくわからない。
「そして目で見る」
赤々としたりんごであったが、近くで見れば茶色に近い点々がついている。これがなんなのかはよくわからないが、りんご自体がそういう模様なのだろうと思い、それを頭の中に刻み込む。
そして最後に、一口思いっきり齧る。齧った感触はやはり噛み砕けはするが、やっぱり少し硬い。皮の厚さを口で感じ、実の味を舌で感じる。瑞々しさえも身体に刻み込み、そしていざ目を閉じた。
再現するは齧る前のりんご。見た目から触り心地、味まで全て完璧に一致した完全に同一のものである。
幸いなことにして、レインには才能があった。試行回数を重ねるまでもなく、レインにはすぐさま再現することができた。即興ではあったが、頭の中でイメージした通りに魔力を変質かさせることで、水を変化させてみせたのである。
水球を元にして生まれたりんごが目の前に一つ。それに近づき一口齧ると中から瑞々しくほのかに甘い味がした。だが、実際に栄養素は取り込めていない気がする。まだ改善の余地はありそうだ。
「これができるなら、きっと……」
レインは部屋を飛び出して、すぐさま『師匠』を呼びつけに行った。
♦️
「身体が欲しいと?人間の?」
「うん」
「なるほど、それは面白い。是非とも私も協力しますよ」
「やた!」
「それをいうなら、『ありがとうございます』……って、どこへ行くんですか」
「紙とペン取ってくる」
「下書きする必要あります?」
猫の小さな口に加えて持ってきた紙とペンを『師匠』に渡す。
「これで、『師匠』がイメージする人間の僕を描いてよ!」
「私がイメージする……でいいのですか?魔術なのだから、自分のなりたい姿になっていいんですよ?例えば超絶ないイケメンとか」
「『師匠』のがいい」
その言葉に少し気をよくしたのか、『師匠』は鼻を擦りながら、鼻息を荒くする。
「どんな見た目になっても文句言わないでくださいね。まあ、別に一生そのままってわけでもないんですし、気楽に行きましょう」
そう言って、『師匠』は椅子に座ると早速ペンを取って書き始めた。
書き始めてからいくら時間が経とうとも、レインのワクワクは収まらなかった。人間の身体が手に入るかもしれないしかも尊敬する『師匠』が考えてくれた肉体だ。弟子としては嬉しくないはずがない。
そして、一時間ほどが経過した。
「こんな感じですね」
「上手い!」
「もちろん。魔術には絵心も必要なのですよ。魔術陣を描く時とかにもペンの正確さは大事ですから」
紙の中に描かれていたのは少年であった。身長は紙の中であるから、正確には言えないが大体十歳前後といったところだろうか?顔は全体的に整っているが、全てが黄金比と呼べるほどのものではない。
「整いすぎてても目立つだけですからね」
一理ある。
気怠げに垂れている目と人懐っこそうな瞳を持ちながら、素朴でありながらもどこか人に好かれそうな顔立ちをしている。平均的な体型で、紙の中からでもほっぺをぷにっとしたい欲求に駆られた。
「『師匠』がイメージする僕って、なんだか変だね」
「どこかですか?私はもしレインが人間であればこういう顔をしていると思っています」
「でもおかしいですよ。だって、こんなに人懐っこい顔をしているのに、水中で溺れさせようとするわけないもん」
「それはそれ、これはこれです」
少しばかり納得のいかない気もするが……。
「とにかく、これを再現して見せなさい。身体に纏って動いている姿を私に見せてみてください。新たな研究……じゃなくて、弟子の成長を見せてくださいな」
「本音出てます『師匠』」
いい意味でも悪い意味でも根っからの魔術師なんだなと、嫌でも伝わってくる。
そして、僕はその紙を見ながら早速再現しようとするのだが……
「どうしたのですか?」
「……感触がわからないです」
「いつも触れているのに?」
「うぅ……」
そして、『師匠』の葛藤タイムが始まり、また何かに負ける。
「こちらにきなさい」
膝をポンポンと叩く『師匠』。レインはありがたく膝の上で丸くなった。上に乗っかっているだけでも意外と感触はわかるものである。
そして、レインは持ち前の集中力を発揮し、魔力を練り始めた。
剣術で言えば、剣の振り方はマスターしたから『技』を覚えるという段階だ。
初級魔術『水球ル・メア』を初めに習ったが、正直水中生活のほうが大変であった。そのことを『師匠』に言えば、
「では、初球を飛ばして応用からやりましょう」
そう言って、いつか目にした猫を水で作り出してみせた。
「水を魔力で変質させなさい」
これが課題です、と目の前に赤々としたりんごの実を置いた『師匠』は、ロザリーに研究資料がどこにあるか尋ねながら別の部屋へと言ってしまった。ロザリーも渋々ながらに『師匠』についていく。
誰もいなくなった部屋には、やり方さえ教えてもらえなかった猫がただ一匹いるだけとなった。
「まずは、触ってみよう」
触った感じは若干硬く、だが木よりも柔い。感覚的には噛み砕けるが、この丸い形のどこに歯を入れられるのかはよくわからない。
「そして目で見る」
赤々としたりんごであったが、近くで見れば茶色に近い点々がついている。これがなんなのかはよくわからないが、りんご自体がそういう模様なのだろうと思い、それを頭の中に刻み込む。
そして最後に、一口思いっきり齧る。齧った感触はやはり噛み砕けはするが、やっぱり少し硬い。皮の厚さを口で感じ、実の味を舌で感じる。瑞々しさえも身体に刻み込み、そしていざ目を閉じた。
再現するは齧る前のりんご。見た目から触り心地、味まで全て完璧に一致した完全に同一のものである。
幸いなことにして、レインには才能があった。試行回数を重ねるまでもなく、レインにはすぐさま再現することができた。即興ではあったが、頭の中でイメージした通りに魔力を変質かさせることで、水を変化させてみせたのである。
水球を元にして生まれたりんごが目の前に一つ。それに近づき一口齧ると中から瑞々しくほのかに甘い味がした。だが、実際に栄養素は取り込めていない気がする。まだ改善の余地はありそうだ。
「これができるなら、きっと……」
レインは部屋を飛び出して、すぐさま『師匠』を呼びつけに行った。
♦️
「身体が欲しいと?人間の?」
「うん」
「なるほど、それは面白い。是非とも私も協力しますよ」
「やた!」
「それをいうなら、『ありがとうございます』……って、どこへ行くんですか」
「紙とペン取ってくる」
「下書きする必要あります?」
猫の小さな口に加えて持ってきた紙とペンを『師匠』に渡す。
「これで、『師匠』がイメージする人間の僕を描いてよ!」
「私がイメージする……でいいのですか?魔術なのだから、自分のなりたい姿になっていいんですよ?例えば超絶ないイケメンとか」
「『師匠』のがいい」
その言葉に少し気をよくしたのか、『師匠』は鼻を擦りながら、鼻息を荒くする。
「どんな見た目になっても文句言わないでくださいね。まあ、別に一生そのままってわけでもないんですし、気楽に行きましょう」
そう言って、『師匠』は椅子に座ると早速ペンを取って書き始めた。
書き始めてからいくら時間が経とうとも、レインのワクワクは収まらなかった。人間の身体が手に入るかもしれないしかも尊敬する『師匠』が考えてくれた肉体だ。弟子としては嬉しくないはずがない。
そして、一時間ほどが経過した。
「こんな感じですね」
「上手い!」
「もちろん。魔術には絵心も必要なのですよ。魔術陣を描く時とかにもペンの正確さは大事ですから」
紙の中に描かれていたのは少年であった。身長は紙の中であるから、正確には言えないが大体十歳前後といったところだろうか?顔は全体的に整っているが、全てが黄金比と呼べるほどのものではない。
「整いすぎてても目立つだけですからね」
一理ある。
気怠げに垂れている目と人懐っこそうな瞳を持ちながら、素朴でありながらもどこか人に好かれそうな顔立ちをしている。平均的な体型で、紙の中からでもほっぺをぷにっとしたい欲求に駆られた。
「『師匠』がイメージする僕って、なんだか変だね」
「どこかですか?私はもしレインが人間であればこういう顔をしていると思っています」
「でもおかしいですよ。だって、こんなに人懐っこい顔をしているのに、水中で溺れさせようとするわけないもん」
「それはそれ、これはこれです」
少しばかり納得のいかない気もするが……。
「とにかく、これを再現して見せなさい。身体に纏って動いている姿を私に見せてみてください。新たな研究……じゃなくて、弟子の成長を見せてくださいな」
「本音出てます『師匠』」
いい意味でも悪い意味でも根っからの魔術師なんだなと、嫌でも伝わってくる。
そして、僕はその紙を見ながら早速再現しようとするのだが……
「どうしたのですか?」
「……感触がわからないです」
「いつも触れているのに?」
「うぅ……」
そして、『師匠』の葛藤タイムが始まり、また何かに負ける。
「こちらにきなさい」
膝をポンポンと叩く『師匠』。レインはありがたく膝の上で丸くなった。上に乗っかっているだけでも意外と感触はわかるものである。
そして、レインは持ち前の集中力を発揮し、魔力を練り始めた。
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