6 / 62
水中生活
しおりを挟む
呼吸すらもままならない水中生活は過酷を極めた。部屋を全て水で埋め尽くし、一応命を繋ぐために少しだけ呼吸できるスペースを作った上で、魔法で結界のようなもの『師匠』が張り、溢れてこないように徹底した水場が完成された。
そこで生活するのはとてもじゃないが、一歩間違えれば死んでしまうほど過酷なものであった。下手したら路地裏で餓死すれすれのラインを行ったり来たりしていた時と同レベルに……それ以上にきつかったかもしれない。
足のつかない部屋の中、必死に足をバタつかせながらもがき苦しみ、息をする。そして、『師匠』はどういう原理かはわからなかったが、水中で呼吸し言葉を発して師事してくる。
「ちゃんと水の感覚を掴みなさい。水はあなたの味方なのです」
そう言われても何度も思ったが、『師匠』がそう何度も同じようなことを繰り返すことに疑問を覚えたレインは、ふと考えた。
この水は魔力で操作できるのではないか、と。
『師匠』が制御している水には、大量の魔力が流れているのだが、今部屋中を埋め尽くしているこの水にはそれがあまり感じられない。ということは、魔力は今、誰からも干渉を受けていないのだ。
「やるしか、ない!」
このまま生活していたらほんとに死んじゃう。早く、ここから脱出するためには水の制御を勝ち取り、呼吸するスペースを広げて足場を作ることだ。
呼吸スペースで大きく息を吸い込み、そして潜る。そこで全身の力を抜いた。少しでも集中するために体には一切無駄な力が入らない用にギリギリまで身体を水に馴染ませる。
水の冷たさ、肌触り、浮遊感、透き通る光の感覚その全てを感じ取り、それを自分自身の身体だと頭に言い聞かせる。
この水は全て自分の身体の一部であり……故に、魔力が流れるのだと。できるだけ自然に、違和感なく……魔力を均等に薄く広げて身体から解き放ち、水に染み込ませていく。
水は次第にレインの魔力に染まっていき、そして魔力を介してその水を操作できる段階にまで至った。
(動け!)
呼吸が苦しくなってきた。そんな時でもさらなる集中に思考を落とし込み、魔力を操る。
「ぷはぁ!」
やっとの思いで水を壁際によせ、呼吸できるスペースを広げることに成功した。足をバタバタとさせながら必死に水面で呼吸する必要がなくなったのだ。なんと嬉しいことか。
「少々予想とは異なりましたが……結果的には成功ですね。おめでとうございます」
「はぁ……はぁ……ししょー」
「はい、『師匠』です・ちょうど今日で一週間ですね。別にこんなことをしなくとももうすぐに解放してあげましたのに」
いや、あのままやっていたら『師匠』の助けが入る前に死んでしまうところであった。
「指定はしていませんでしたが、物質的に存在している水を魔力を介して操作する技術を学んだのは大きな進展です。よくやりましたね」
「それだけ……?」
グテっと倒れながらレインが問うと、『師匠』は自問自答を始めて、そしていつも通り負けた。
「あなたは出来た子ですね」
そう言って身体を抱き上げる。
「今すぐ暖炉に行きましょうか。今日はもう一日中ゆっくりと休みなさい」
その言葉と共にレインは、優しく抱かれたことと温もりを感じたことで心から安堵し、すぐに眠ってしまった。
そんな様子を見ていた『師匠』は、
「このまま水に沈めたらどうなるのか……」
と、なんとも恐ろしいことを口走っていたが、
「流石にそれは酷すぎますよね。嫌われたくないですし」
そうにっこり微笑んで歩き出した。
そこで生活するのはとてもじゃないが、一歩間違えれば死んでしまうほど過酷なものであった。下手したら路地裏で餓死すれすれのラインを行ったり来たりしていた時と同レベルに……それ以上にきつかったかもしれない。
足のつかない部屋の中、必死に足をバタつかせながらもがき苦しみ、息をする。そして、『師匠』はどういう原理かはわからなかったが、水中で呼吸し言葉を発して師事してくる。
「ちゃんと水の感覚を掴みなさい。水はあなたの味方なのです」
そう言われても何度も思ったが、『師匠』がそう何度も同じようなことを繰り返すことに疑問を覚えたレインは、ふと考えた。
この水は魔力で操作できるのではないか、と。
『師匠』が制御している水には、大量の魔力が流れているのだが、今部屋中を埋め尽くしているこの水にはそれがあまり感じられない。ということは、魔力は今、誰からも干渉を受けていないのだ。
「やるしか、ない!」
このまま生活していたらほんとに死んじゃう。早く、ここから脱出するためには水の制御を勝ち取り、呼吸するスペースを広げて足場を作ることだ。
呼吸スペースで大きく息を吸い込み、そして潜る。そこで全身の力を抜いた。少しでも集中するために体には一切無駄な力が入らない用にギリギリまで身体を水に馴染ませる。
水の冷たさ、肌触り、浮遊感、透き通る光の感覚その全てを感じ取り、それを自分自身の身体だと頭に言い聞かせる。
この水は全て自分の身体の一部であり……故に、魔力が流れるのだと。できるだけ自然に、違和感なく……魔力を均等に薄く広げて身体から解き放ち、水に染み込ませていく。
水は次第にレインの魔力に染まっていき、そして魔力を介してその水を操作できる段階にまで至った。
(動け!)
呼吸が苦しくなってきた。そんな時でもさらなる集中に思考を落とし込み、魔力を操る。
「ぷはぁ!」
やっとの思いで水を壁際によせ、呼吸できるスペースを広げることに成功した。足をバタバタとさせながら必死に水面で呼吸する必要がなくなったのだ。なんと嬉しいことか。
「少々予想とは異なりましたが……結果的には成功ですね。おめでとうございます」
「はぁ……はぁ……ししょー」
「はい、『師匠』です・ちょうど今日で一週間ですね。別にこんなことをしなくとももうすぐに解放してあげましたのに」
いや、あのままやっていたら『師匠』の助けが入る前に死んでしまうところであった。
「指定はしていませんでしたが、物質的に存在している水を魔力を介して操作する技術を学んだのは大きな進展です。よくやりましたね」
「それだけ……?」
グテっと倒れながらレインが問うと、『師匠』は自問自答を始めて、そしていつも通り負けた。
「あなたは出来た子ですね」
そう言って身体を抱き上げる。
「今すぐ暖炉に行きましょうか。今日はもう一日中ゆっくりと休みなさい」
その言葉と共にレインは、優しく抱かれたことと温もりを感じたことで心から安堵し、すぐに眠ってしまった。
そんな様子を見ていた『師匠』は、
「このまま水に沈めたらどうなるのか……」
と、なんとも恐ろしいことを口走っていたが、
「流石にそれは酷すぎますよね。嫌われたくないですし」
そうにっこり微笑んで歩き出した。
10
お気に入りに追加
455
あなたにおすすめの小説
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので
sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。
早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。
なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。
※魔法と剣の世界です。
※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
攫われた転生王子は下町でスローライフを満喫中!?
伽羅
ファンタジー
転生したのに、どうやら捨てられたらしい。しかも気がついたら籠に入れられ川に流されている。
このままじゃ死んじゃう!っと思ったら運良く拾われて下町でスローライフを満喫中。
自分が王子と知らないまま、色々ともの作りをしながら新しい人生を楽しく生きている…。
そんな主人公や王宮を取り巻く不穏な空気とは…。
このまま下町でスローライフを送れるのか?
神に同情された転生者物語
チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。
すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情された異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。
悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる