上 下
3 / 62

水の魔術を使うために

しおりを挟む
「いいですか?まず、あなたは異常者です」

「……え?」

 共通語を習得し、小屋(一般的には屋敷と呼ぶ)に引っ越してから次の授業が始まった。楽しみにしていた魔術の授業である。だったというのに、『師匠』は開口一番レインのことを異常者と呼び出したではないか。

「酷い、『師匠』。僕、こんなにも真面目でいい子なのに」

「真面目でいい子なのは関係ありません。あなたは猫なんです。わかりますか?生物学的に、あなたは魔力を持たないため、魔術は使えないはずなのです。ですが、あなたからは魔力を感じる、あなたを拾った理由がそれです」

 ちょっと悲しい現実を突きつけつつ『師匠』はレインの額に指を当てる。すると、レインの身体に形容し難い漠然とした『力』のようなものが流れてくるのを感じた。

「その額に浮かび出ている【水龍の紋章】があなたが魔術を使える証です」

 鏡の前に連れて行かれて、額を見るように促される。額には確かになにも刻まれていなかったはずなのだが、よう見ると淡い水色に発光する紋様が浮かび出ていた。

 まるで水面に立つ波のように周囲を囲む楕円と、その真ん中に胴体の長い龍が一匹いるその紋様は、レインの額だけではなく、楕円の端から線が伸び身体中に伸びている。

「これは水の魔術を扱える紋の中ではまあいい方の紋章です」

「紋章、違うのある?」

「あります。属性ごとに色が違い、そして浮かび上がる紋様は魔術の適性度を示しています。上から『神』『龍』『蛇』『無』です」

「へー」

「あんまり興味なさそうですね……まあいいです。あなたは上から2番目の紋章持ちです。適性度と言っても、これらにあまり差はありません。強いていうなら生まれながらに持つ魔力量くらいなものです」

 額に浮かび上がる紋様は時間経過とともにだんだんと薄れていく。身体を持ち上げられ、再び教室へと連れて来られる。

「『師匠』はどんな紋様を持ってますか?」

 そう聞くと『師匠』は待ってましたと言わんばかりにムカつく顔で得意げに語る。

「全属性、オール『神』です。無論、私以外にはこの世に存在しませんよ、こんな魔術師は」

「……じゃあ僕、才能ない?」

「なぜそうなるのです」

「『師匠』ってなんかしょぼそうだもん」

「なっ!?」

 『師匠』は頭を抱える。

「人を見かけで判断してはいけません。これでも私は魔術師の中でトップ……私が本気を出せば魔力解放のみであなたを殺すことだってできるのですよ?」

「やだ、死にたくない」

「よろしい、ではおとなしく話を聞くように」

 魔力を操るのはどうやらとてつもなく大変だということを延々と聞かされる。

「いいですか、つまり魔力とは自然界に溢れる目に見えない粒子的存在であり、それを操る媒介として我々は魔術というものを用いてですね……」

 という長ったらしい話を聞き流しながら、レインはふと考える。

(『師匠』、魔力は血液を動かす感覚に似てる言ってた!)

 全身に流れる血をイメージすれば魔力を動かすことができるということであろう?それなら、できるはずだ。半年程前までの生きるか死ぬかギリギリの生活をしていた頃は、よく怪我をして血を流していた。あの血がドバドバと流れてどんどん身体から力抜けていくような感覚は今でも身に染みている。

 身体中から魔力を流れ出すように……

「ということで、我々魔術師は魔力というものを体内に保管する技術というものを重点的に教育……って、ちょっと!?」

「わっ」

 身体の内部が爆発したような音……がしただけで実際はなんともないのだが……が、起きると同時に室内には一切の風が吹いていないというのに、『師匠』のローブがパタパタと揺れ、窓ガラスがガタガタと音を立てている。

「ちょっと、魔力解放はまだ教えていません!」

「ど、ど、どうやって止める!?」

「魔力穴を塞いでください!」

「なにそれー!?」

 落ち着きを取り戻すために少し深呼吸をする。さっきは傷口から魔力が流れ出すイメージをしたから、今度は逆に傷口が塞がったイメージをすればいい。

 きっと、それでいける。『師匠』にかけてもらったあの回復の魔術を思い出しながら……。

「ふう、焦らせないでください」

「止まった……」

「いいですか?人の話している間に魔力解放はしないこと……というか、まだやり方教えていないですよね?」

「ごめんね」

「ごめんなさい、です」

「ごめんなさい」

「……ですが、魔術の魔の字も教えていないような段階ですでに魔力解放を行えるとは……恐ろしい才能ですね。ここまでの者、私ですら見たことない……歴代の英雄にはいた?いや……ただの猫が数日でここまでに化けるのはあり得ない。理解の範疇が……」

 と、またよくわからない話を始める『師匠』より、レインは今自分のみに起きたことの方に興味が持っていかれた。

 身体から溢れ出したあれが魔力と呼ばれるものなのか、自分のこんな力の源が眠っていたのか、早く魔術を使ってみたい、早く学びたいなどなど。

 話も聞かずにそうウズウズしていると、聞いていないことを悟った『師匠』が話を切り上げて、雑談を持ちかける。生徒が飽きたら、話題を一旦切り替える……あぁ、教師の鏡ではないか……などと考えている『師匠』であるが、レインは最初から話を聞いていないので飽きるもなにもないのだが。

「なにをソワソワしているのですか、発情期にでもなりました?聞いたことあります、猫の生態については詳しくないのですが」

「にゃ?発情できるメスいないよ」

 いきなりの話題転換に戸惑いながら答えるレイン。

「ふん、路地裏で死にかけてた猫がよくもまあそんな軽口を叩けるようになりましたね。これも私のおかげですね、どうです?私は魅力たっぷりですよ?」

 ……?なんと答えればいいのだ?謙遜すればいいのか?

「そんなことないよ」

「失礼なやつですね、決めました……今日からあなたは通常の五倍の速度で私の授業を履修してもらいます。1日に10回は死にかける覚悟をしておくように」

「にゃに!?」

 人で言う『謙遜』と言うのを使ってみたかっただけなのに……。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...