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過去の大罪
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目が覚めた時には、そこはすでに見覚えのない森の中であった。
「確か……悪魔に連れられて……」
特に怪我をさせられた形式はない。てっきり森の上からそのまま落とすくらいのことはされると思っていたが、丁寧に落とされたようだ。
周りを見渡してみるが、そこは見たこともない木々で溢れていた。
「なんだこの木は?文献にもみたことないぞ」
公爵家当主たるもの、さまざまな人と会話をする機会があり、外交も行う関係上、他国の名産品から民の人数、なんなら生えている木の種類まで把握している。だが、そんなアグナムでさえ、こんな木は見たことがなかった。
高さはおよそ百メートルにまでのぼり、まるで世界樹を思わせるかのように太い幹であった。太い幹は年輪を重ねた証を表しているかのようで、何百年以上も生きてきた木であることを感じさせる。
「はは、まるで世界樹の『森』だな」
本物を見たことがないため、あくまで見た感想を一人呟いたまでであったが、
「それは違います」
「っ!」
返答を期待していなかったアグナムは驚きながらも、声の主の方へと目線を動かす。
「……誰だ?エルフ……にしては、耳が」
耳はエルフと人間の中間程度の長さであり、特徴的な緑色の髪をしている女性がそこにはいた。そして、その髪の毛は淡く発光している。
「人間ではない……貴殿は誰……っ!?」
「侵入者がいると来てみれば、まさか人間だとは」
身の危険を感じて咄嗟に身体を横へ動かす。自分でも無意識の行動であったが、それは正解であったようで、何かが通過し背後に生えていた木には一部が削られた跡がついていた。それはまさしく風の魔法であった。
「い、いきなりなにをする!」
「なにをするって?そっちこそ、私たちにしたことを忘れたというの?」
「はっ?なにを……」
女性は何かを思い出したかのように頭を抱えた。
「……そうね、忘れていた。人間は寿命がとても短いから、もう何代も世代が変わっているのね。……そう、私たちのことはもう過去のことにされたと」
「一体なんの話をしているんだ?」
そう聞くと、女性は睨んできた。
「私たちの祖先が君たちに何かをしてしまったのか?だとすれば聞かせてほしい。ここはどこで、君たちはなにで……なにがあったのか」
「……いいでしょう、知らないのでは知りなさい。あなたたちの犯した大罪を」
♦️
ドライアドは、木に宿る。
ドライアドは森の中で生まれて、一本の木を自ら選びその木に宿る。木から生命のエネルギーを吸い、それを生きる糧としているのだ。
そして、木から一定以上の距離を離れることはできない。何故なら、宿った木との接続が切れてしまう可能性があるからだ。切れてしまえばどうなるか、単純に生命線が切れる。そのままでいるとすぐに死んでしまう。代わりの木を見つけて宿ったとしても、かなり衰弱することは間違いない。
いわばドライアドは、木の精霊である。木に宿ることで精霊に近しい力を行使できるが、行動制限がある。
ただし、ドライアドの王女たるアルラウネにはそんなものなかった。自身の中で有り余る力は、どれだけ離れていても木とのつながりを感じさせてくれる。
ちょうどその日はアルラウネは友人たちと共に、探検に出ていた。
ハイエルフのゴーノアともう一人、魔族の友人とだ。
いつもこの三人で遊んでいる。
探検といってもただ、近くをぷらぷらと歩いて帰ってくるだけだ。だが、アルラウネはそれだけでも楽しかった。いや、他の二人もそうだろう。
基本、領地から抜け出すことを許可されていないため、抜け出して探検に出るのはとても新鮮味があって楽しいものだった。
そして、その日はたまたま人間族の『勇者』に出会った。私たちは、その勇者についていくことにしたのだ。
その時、当時は人間と魔族の間で小競り合いが何度も起き、戦争が間近に迫っていたが魔族の友人も魔族側のエルフも特に気にした様子は見せなかった。
三人とも種族が違うのだ。今更、人間だからダメとかはない。
勇者は迷宮を攻略しに来たという。それを聞き、私たちはそこを一緒に攻略した。戦いというものは嫌いではあったが、四人で協力すること自体はとても楽しかった。
ただ、その時までは。
迷宮から出れば、あたりは燃え盛る火の中。燃え盛る炎がどんどんと木々を燃やし尽くしていく。
そう、ドライアドとエルフの住まう森をだ。
瞬時に勇者に目をやった。はめたのか、と……そう問いて、殺してやろうかと。だが、勇者の表情はあまりにも驚きと怒りと悲しみに満ちていた。そのせいで、私は殺すことを躊躇った。
すぐに、鎧をきた別の人間がやってきた。将軍を名乗るその男は同族である勇者すらも騙して、魔族領への侵攻を始めたのだと。意表をつくために森を燃やしたと述べたのだ。
それだけの理由でか?魔族との戦争は魔族と人間の領地の中でやれ。私たちを巻き込むな、同胞たちはどうなるんだ?
頭の中には人間への怒りでいっぱいになった。
すぐに、その場を離れる。その後、勇者と将軍がどうなったのかは知らない。ただ、きっと……魔族の友人はその人間を殺してくれることだろう。
ゴーノアは臆病だ。だから、魔族のその友人にその場を任せて、私は同胞たちの元へと向かう。
エルフはまだ被害が少なかった。
何故なら、逃げることができるから。対して、ドライアドは逃げることができない……木に宿っている私たちは、木を燃やされればそれと同時に死ぬ。宿る木を変えればいいと言われたとしても、正常な木が生えている場所まで生きて辿り着くことはできないだろう。
すでに同胞たちの多くは死んでいた。
「許さない……」
アルラウネは宿木との関係を切ったものたちに目をやる。
「私たちだけでも逃げるのだ。遠くへ……誰もいない遠くの場所まで……」
「確か……悪魔に連れられて……」
特に怪我をさせられた形式はない。てっきり森の上からそのまま落とすくらいのことはされると思っていたが、丁寧に落とされたようだ。
周りを見渡してみるが、そこは見たこともない木々で溢れていた。
「なんだこの木は?文献にもみたことないぞ」
公爵家当主たるもの、さまざまな人と会話をする機会があり、外交も行う関係上、他国の名産品から民の人数、なんなら生えている木の種類まで把握している。だが、そんなアグナムでさえ、こんな木は見たことがなかった。
高さはおよそ百メートルにまでのぼり、まるで世界樹を思わせるかのように太い幹であった。太い幹は年輪を重ねた証を表しているかのようで、何百年以上も生きてきた木であることを感じさせる。
「はは、まるで世界樹の『森』だな」
本物を見たことがないため、あくまで見た感想を一人呟いたまでであったが、
「それは違います」
「っ!」
返答を期待していなかったアグナムは驚きながらも、声の主の方へと目線を動かす。
「……誰だ?エルフ……にしては、耳が」
耳はエルフと人間の中間程度の長さであり、特徴的な緑色の髪をしている女性がそこにはいた。そして、その髪の毛は淡く発光している。
「人間ではない……貴殿は誰……っ!?」
「侵入者がいると来てみれば、まさか人間だとは」
身の危険を感じて咄嗟に身体を横へ動かす。自分でも無意識の行動であったが、それは正解であったようで、何かが通過し背後に生えていた木には一部が削られた跡がついていた。それはまさしく風の魔法であった。
「い、いきなりなにをする!」
「なにをするって?そっちこそ、私たちにしたことを忘れたというの?」
「はっ?なにを……」
女性は何かを思い出したかのように頭を抱えた。
「……そうね、忘れていた。人間は寿命がとても短いから、もう何代も世代が変わっているのね。……そう、私たちのことはもう過去のことにされたと」
「一体なんの話をしているんだ?」
そう聞くと、女性は睨んできた。
「私たちの祖先が君たちに何かをしてしまったのか?だとすれば聞かせてほしい。ここはどこで、君たちはなにで……なにがあったのか」
「……いいでしょう、知らないのでは知りなさい。あなたたちの犯した大罪を」
♦️
ドライアドは、木に宿る。
ドライアドは森の中で生まれて、一本の木を自ら選びその木に宿る。木から生命のエネルギーを吸い、それを生きる糧としているのだ。
そして、木から一定以上の距離を離れることはできない。何故なら、宿った木との接続が切れてしまう可能性があるからだ。切れてしまえばどうなるか、単純に生命線が切れる。そのままでいるとすぐに死んでしまう。代わりの木を見つけて宿ったとしても、かなり衰弱することは間違いない。
いわばドライアドは、木の精霊である。木に宿ることで精霊に近しい力を行使できるが、行動制限がある。
ただし、ドライアドの王女たるアルラウネにはそんなものなかった。自身の中で有り余る力は、どれだけ離れていても木とのつながりを感じさせてくれる。
ちょうどその日はアルラウネは友人たちと共に、探検に出ていた。
ハイエルフのゴーノアともう一人、魔族の友人とだ。
いつもこの三人で遊んでいる。
探検といってもただ、近くをぷらぷらと歩いて帰ってくるだけだ。だが、アルラウネはそれだけでも楽しかった。いや、他の二人もそうだろう。
基本、領地から抜け出すことを許可されていないため、抜け出して探検に出るのはとても新鮮味があって楽しいものだった。
そして、その日はたまたま人間族の『勇者』に出会った。私たちは、その勇者についていくことにしたのだ。
その時、当時は人間と魔族の間で小競り合いが何度も起き、戦争が間近に迫っていたが魔族の友人も魔族側のエルフも特に気にした様子は見せなかった。
三人とも種族が違うのだ。今更、人間だからダメとかはない。
勇者は迷宮を攻略しに来たという。それを聞き、私たちはそこを一緒に攻略した。戦いというものは嫌いではあったが、四人で協力すること自体はとても楽しかった。
ただ、その時までは。
迷宮から出れば、あたりは燃え盛る火の中。燃え盛る炎がどんどんと木々を燃やし尽くしていく。
そう、ドライアドとエルフの住まう森をだ。
瞬時に勇者に目をやった。はめたのか、と……そう問いて、殺してやろうかと。だが、勇者の表情はあまりにも驚きと怒りと悲しみに満ちていた。そのせいで、私は殺すことを躊躇った。
すぐに、鎧をきた別の人間がやってきた。将軍を名乗るその男は同族である勇者すらも騙して、魔族領への侵攻を始めたのだと。意表をつくために森を燃やしたと述べたのだ。
それだけの理由でか?魔族との戦争は魔族と人間の領地の中でやれ。私たちを巻き込むな、同胞たちはどうなるんだ?
頭の中には人間への怒りでいっぱいになった。
すぐに、その場を離れる。その後、勇者と将軍がどうなったのかは知らない。ただ、きっと……魔族の友人はその人間を殺してくれることだろう。
ゴーノアは臆病だ。だから、魔族のその友人にその場を任せて、私は同胞たちの元へと向かう。
エルフはまだ被害が少なかった。
何故なら、逃げることができるから。対して、ドライアドは逃げることができない……木に宿っている私たちは、木を燃やされればそれと同時に死ぬ。宿る木を変えればいいと言われたとしても、正常な木が生えている場所まで生きて辿り着くことはできないだろう。
すでに同胞たちの多くは死んでいた。
「許さない……」
アルラウネは宿木との関係を切ったものたちに目をやる。
「私たちだけでも逃げるのだ。遠くへ……誰もいない遠くの場所まで……」
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