上 下
478 / 504

将軍の目的

しおりを挟む
 火事場の馬鹿力というかなんというか……今まで試せなかっただけで実際は最初からできていたのだろう。

 力の出し方。もしかして、そもそも私は魔力の放出の仕方からすでに間違っていたのかもしれない。

 《体の中枢に余剰分の魔力が検出されました……が、これは正常な人間と同じです》

 魔力欠乏症というものはみなさんご存知であろう。魔力欠乏症になれば、最悪の場合死ぬ可能性すらある。

 死ぬ可能性というところに疑問を覚える人はもしかしたらいたのかもしれない、残念ながら私は疑いもしなかったが……。

 魔力がなくなれば人は確実に死に至る……なのにも関わらず、生き残る人がいるというのはおかしいじゃないか。その原因であるのが、奥底に溜まっている『力』だろう。

 《私の予想が正しければ、その力は体を動かすために必要なエネルギーだと思われます。それを使い切ったが最後……》

 そりゃあ当然死ぬよね。今まであの不気味な声に体を預けてパワーアップしたように見えていたけど、実際は私の生命を使って強くしてただけだったということだ。

 体を乗っ取った挙句、私の生命を使って騙していたなんて正直腹が立つ。

 《主の魔力総量から考えて余剰魔力も相当な量ですが、それすらも攻撃に回しては早死にします》

 早死にするって言ったって私の寿命千年もあるからね。

 友達が全員いなくなった後に孤独死するくらいだったら寿命縮めて戦った方がマシだよ。

 そんなことを考えていると、将軍の大鎌での攻撃がくる。速度はさっきと同じ……だけど、今回はちゃんと視界に全てを捉えることができた。

 魔力に覆われた目が将軍の指、関節の一つ一つの動きを捉える。やっぱり将軍の戦闘センスは半端じゃないようだ。

 単純な上段攻撃かと思わせておいて、小指に若干力が加わっている。これは、上段で振り下ろすとみせかけて大鎌を回転させ、足元を狙うつもりのようだ。

 私の読みは正しく、小指で弾かれた大鎌が180度回転し私の足元を狙ってきた。それをマナブレード止め、もう一本を召喚する。

「くっ……」

 横凪に振るい、将軍がバックステップで避けたことを確認してから手を離す。そして瞬時に逆手に持ち替えて胸を狙い打った。

 それは将軍の腕によるガードで阻まれたが、流石に無傷では今度は済まなかったようだ。

「あなた……この場で燃え尽きる気ですか?」

「ふん、だったら何?その前に将軍、あんたを倒すよ!」

「いけませんね……」

 将軍が歯をギリっと鳴らす。何が不満なのだろうか?将軍の攻撃は通じにくくなったものの、将軍は防御に徹して時間を稼げば勝ちなのだ。

 なのにも関わらずどうしてこうも積極的に攻撃を仕掛けてくるのだ?どうして先ほどと同じように短期決戦で決めようとしてくる?

 《将軍が無策で突っ込むのは有り得ません。何かしらの目的があるのは明白です》

 そして、目を魔力で強化する余裕が生まれて初めてわかった。将軍は隙だらけなのだ。

 一体どういうことなのか……完璧な動きのように見えて将軍の体にはところどころ隙がある。多分、本人はかなり隙を出しているつもりのようだが、普通の人にとってはほぼ完璧な動きなのが腹たつが。

 《わざと隙を晒しているあたり、カウンター目的でしょうか?》

 おそらくそう言ったスキルなのだろう。

 試しにそれに乗ってやろうじゃないか。

 大鎌とマナブレードで撃ち合う最中、ところどころに見える一瞬の隙……私はそれを魔法で射抜いてみた。もちろん軽くだ。

 これで倍返しがきたらたまったもんじゃないからね。

 だが、それは杞憂に終わったようだ。

「あなた、舐めているのですか?」

「え……」

「こんな攻撃効きもしません。もっとまともに!もっと攻撃的になれないのですか?」

「な、何よ……別にわざと手を抜いただけなんだけど?」

 将軍の雰囲気が少し変わった。淡々とした将軍が初めて怒ったような声を上げた。

 それも、まるで私に指導しているかのように……。

(カウンター目的ではない?それなのに、攻撃を受けたがっている?なんで?攻撃を喰らうことで将軍の何かが達成されるの?)

 だが、そんなことに構う暇はない。

 今度は大鎌を大きく弾き返す。

「見事」

「何よそれ!」

 私はそこで一歩踏み出すのをやめた。将軍は大鎌をゆっくりと下ろしながら聞いてきた。

「なぜそこでやめたんですか?」

「なぜ?なぜって何よ!その諦めたみたいな表情はなんなの!」

 将軍が「見事」と言った直後、目を閉じていた。明らかに手を抜いているのに……明らかに手加減されているのにも関わらず私に勝ちを譲ろうとしているのが丸わかりである。

 一体どういうことなんだ。

「お願いです、

「はあ?」

 将軍の表情にはどこか焦りが見えた。冷徹な彼女はそこにはいなく、何か待っていたチャンスを後ちょっとで掴めるといった表情をしている。

「そんなに死にたいの?」

「……私が何百年この大地に閉じこもっていると?」

「普通大地に閉じこもるっていうパワーワードは使わないんだけどね……」

「とにかく、

 聞きたいことが山ほどあったが、なぜだか私はここで彼女を刺しても彼女は死なない気がした。

 よくわからないが、直感がそう言っていた。

 しばらくの間、打ち合っていると将軍がまた隙を晒す。今度はそれを手加減することなく撃ち抜いた。

 初めて天使の体を貫いた。中身が空っぽのように、貫いたという感覚は全く伝わらなかった。

 血もない。何も入っていない空っぽな空虚な体がゆっくりと倒れた。

「ほんと、何がしたかったのかな?」

 若干の虚しさの中、私は立ち尽くしていた。その時だ。

 瓦礫が持ち上がり、何かが出てきた。

「は?」

 それは先ほど自殺したはずの大臣だった。
しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

転生王子の異世界無双

海凪
ファンタジー
 幼い頃から病弱だった俺、柊 悠馬は、ある日神様のミスで死んでしまう。  特別に転生させてもらえることになったんだけど、神様に全部お任せしたら……  魔族とエルフのハーフっていう超ハイスペック王子、エミルとして生まれていた!  それに神様の祝福が凄すぎて俺、強すぎじゃない?どうやら世界に危機が訪れるらしいけど、チートを駆使して俺が救ってみせる!

コトレットさんの不思議なお仕事~こちら異世界管理局~

胡散臭いゴゴ
ファンタジー
【ネット小説大賞一次選考通過作品】 【HJネット小説大賞2019一次選考通過作品】 異世界管理局の監視人コトレットさんは、見目麗しい少女だけど、口が悪くてどうもいけない。王都カルーシアは異世界転移者が次々にやって来る、おかしな町。トラブルが起きれば東奔西走、叱りに行ったり助けに来たり、“不思議なお仕事”は忙しい。 この物語は転移者達がそれぞれの理由で、監視人コトレットさんに出会う群像劇。異世界生活の舞台裏、ちょっと覗いてみませんか?

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

かわいいは正義(チート)でした!

孤子
ファンタジー
 ある日、親友と浜辺で遊んでからの帰り道。ついていない一日が終わりを告げようとしていたその時に、親友が海へ転落。  手を掴んで助けようとした私も一緒に溺れ、意識を失った私たち。気が付くと、そこは全く見知らぬ浜辺だった。あたりを見渡せど親友は見つからず、不意に自分の姿を見ると、それはまごうことなきスライムだった!  親友とともにスライムとなった私が異世界で生きる物語。ここに開幕!(なんつって)

二度目の転生は傍若無人に~元勇者ですが二度目『も』クズ貴族に囲まれていてイラッとしたのでチート無双します~

K1-M
ファンタジー
元日本人の俺は転生勇者として異世界で魔王との戦闘の果てに仲間の裏切りにより命を落とす。 次に目を覚ますと再び赤ちゃんになり二度目の転生をしていた。 生まれた先は下級貴族の五男坊。周りは貴族至上主義、人間族至上主義のクズばかり。 …決めた。最悪、この国をぶっ壊す覚悟で元勇者の力を使おう…と。 ※『小説家になろう』様、『カクヨム』様にも掲載しています。

転生した社畜は異世界でも無休で最強へ至る(旧題|剣は光より速い-社畜異世界転生)

丁鹿イノ
ファンタジー
【ファンタジア文庫にて1巻発売中!】 深夜の職場で人生を終えた青桐 恒(25)は、気づいたらファンタジーな異世界に転生していた。 前世の社畜人生のお陰で圧倒的な精神力を持ち、生後から持ち前の社畜精神で頑張りすぎて魔力と気力を異常に成長させてしまう。 そのうち元Sクラス冒険者である両親も自重しなくなり、魔術と剣術もとんでもないことに…… 異世界に転生しても働くのをやめられない! 剣と魔術が存在するファンタジーな異世界で持ち前の社畜精神で努力を積み重ね成り上がっていく、成長物語。 ■カクヨムでも連載中です■ 本作品をお読みいただき、また多く感想をいただき、誠にありがとうございます。 中々お返しできておりませんが、お寄せいただいたコメントは全て拝見し、執筆の糧にしています。 いつもありがとうございます。 ◆ 書籍化に伴いタイトルが変更となりました。 剣は光より速い - 社畜異世界転生 ~社畜は異世界でも無休で最強へ至る~ ↓ 転生した社畜は異世界でも無休で最強へ至る

暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~

暇人太一
ファンタジー
 仲良し3人組の高校生とともに勇者召喚に巻き込まれた、30歳の病人。  ラノベの召喚もののテンプレのごとく、おっさんで病人はお呼びでない。  結局雑魚スキルを渡され、3人組のパシリとして扱われ、最後は儀式の生贄として3人組に殺されることに……。  そんなおっさんの前に厳ついおっさんが登場。果たして病人のおっさんはどうなる!?  この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。

「残念でした~。レベル1だしチートスキルなんてありませ~ん笑」と女神に言われ異世界転生させられましたが、転移先がレベルアップの実の宝庫でした

御浦祥太
ファンタジー
どこにでもいる高校生、朝比奈結人《あさひなゆいと》は修学旅行で京都を訪れた際に、突然清水寺から落下してしまう。不思議な空間にワープした結人は女神を名乗る女性に会い、自分がこれから異世界転生することを告げられる。 異世界と聞いて結人は、何かチートのような特別なスキルがもらえるのか女神に尋ねるが、返ってきたのは「残念でした~~。レベル1だしチートスキルなんてありませ~~ん(笑)」という強烈な言葉だった。 女神の言葉に落胆しつつも異世界に転生させられる結人。 ――しかし、彼は知らなかった。 転移先がまさかの禁断のレベルアップの実の群生地であり、その実を食べることで自身のレベルが世界最高となることを――

処理中です...