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首魁
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「まあ、あれは友達というか?たまたま近所に住んでたから呼んできたのよ」
何も間違ったことは言ってないが、若干嘘を交えつつ隊長には言い訳する。この隊長が冒険者としての私を見た時点で上に仙人の正体を報告しなかった辺りを考えると、多少の嘘くらいはついても許されるはず?
というかそもそもの話、隊長たち幕府軍はあくまで仙人が敵対関係になるのかどうかという話を知りたかっただけに過ぎない。私がこうやって仲良く幕府軍につるんでいる時点で敵対疑惑はもうなくなっている。
それに加えてあとは隊長として結果を残したかっただけ。
故に、これはwinwinな取引だったのだ!
「大臣には今日見たことを伝えてきます。……確認なんですけど、『あなた』は敵対しないですよね?」
「するつもりは今のところはないよ。ただ……」
「ただ?」
「幕府って、今腐ってるわよね」
「……認めましょう。私は正直今の政治のやり方は好きではありません。民たちは年々少しずつ増税されていることに気づいていないようですが、そのほかにも徐々に民から絞り上げる法律が確立しつつあります。その手口があまりにも巧妙で……」
「それって、全部大臣の指示?」
「大臣に組する者はいますが、行動自体はすべて大臣が行っています。彼さえいなければ今の政治はもっとよかっただろうに……」
そう言って嘆く隊長の姿を見て、なんとなくこれは本気で言っているように感じた。なんだろう、勘?
「変えてあげるわ」
「はい?」
「要は大臣を辞めさせればいいんでしょ?私がやったるわ」
「で、ですが仙人ともあろう方が俗世に――」
「私は仙人なんかじゃないわ。元貴族で元教師で……今はただの成人女性よ」
「え?」
《主、そろそろ将軍に位置が割れそうです》
え、私何の気配も放ってないのに存在バレかけてる?そしたら、また次元移動ですぐ追いつかれるよね?
いきなりのことで驚いていると、隊長は不思議そうな顔をしている。
……この隊長にも一役買ってもらうかな。
「それで、隊長。あなたにお願いしたいことがあるの」
「あなたに命令される権利はないはずなんですがね……」
と、苦笑いしている。
「それで?お願いとは何ですか?」
♦
「そろそろだぞ、敵首魁のお入りだ」
転移で街に帰ってきて数日。首都からここまでには一か月はかかりそうだが、どうやら大臣は剛速球でここまで向かってきたらしい。
反乱の予兆が一番ありそうなのがここ、私のお兄様の領だとどうやら思っているらしい。
その原因は私なんだけど。
領主が一同に集まったあの集会で、お兄様の護衛として向かった私が、将軍の命に歯向かったからだろう。もちろん、そのことを後悔してはいないし、お兄様だってそう言っている。
他の領地をすっ飛ばしてここまで来るとは思わなかったけど。
「証拠づくりはどうしよう……」
今のところ、反乱軍対革命軍の構図がまだ完成しきっていない。こんなに早く敵が視察に来るとは思わなかったから準備もまともに終わっていない。
同一人物同士を戦わせる方法なんてすぐに思いつく方がおかしいからね……だが、
「大丈夫だ、私に任せてくれ」
と、お兄様が言った。頼もしい!
「でも、どうするつもりなの?」
「ふっ、そんなのあとでたっぷりと教えてやるさ」
「?」
「ほら、もうご到着だぞ?」
「あれが……」
すでに門は開かれ、行列が顔を見せていた。その先頭の馬車に乗っているであろう大臣の姿を想像しながら、私たちは片膝をついて対峙する。
正直、跪くなんて嫌だけど……まあ、こればっかりはしょうがないよね。私の横でユーリが今にも噛み殺しに行きそうな勢いで「シャーッ!」と唸っている。
それをレオ君がなだめている。
ユーリは大臣に何の恨みもないはずだけど……
※後で聞いた話によると、私が膝をついているのがいやだったからだとさ。
「大臣様のおなりー!」
馬車は門を少し入ったところで停車し、中から人が出てくる。護衛達に囲まれて顔を出したのは、いかにも税金で私腹を肥やしてそうな人だった。
丸々と太った体に、金の指輪やネックレスを大量につけ、扇子の代わりに札束を扇いでいる。
金で全身を覆っている『豚』はゆっくりとこちらに歩みを進める。
「出迎えご苦労」
「はい」
「いつ見ても君の街は貧相だね」
「いえ、決してそんなことは――」
「もっと、民のことを考えたらどうなんだい?だから、君はいつまでたっても辺境の領主なんだよ」
誰のせいで税金絞られてると思ってんだ?って、本気で思ったが、にやにやした笑いを見て、どうにか自分を堪える。
後で!後で殴れるから!
「ったく、なぜ私がこんなところに来なきゃいけないんだ」
「大臣様が自らいらっしゃると願ったのでは――」
「あんまりしゃべるな!死刑にするぞ!」
「……失礼しました」
お兄様は至って冷静にそう言った。
昔、学院に通っていた時のことを急に思い出す。豚の扱い方、やめさせるか支配するか、それとも殺すか……なんて物騒なことを書いていたな。
今、本気で実行したくなってきた。
《主、落ち着いてください》
見たところ大した力もなさそうなのに、どうしてこんな奴が大臣なんかになれるんだ?性格も終わってるじゃないか!
「さて、私は酒場にでも行くとしよう。あー、仕事は明日からだ。くれぐれも私の邪魔をしないように」
「かしこまりました」
そう言って、一団は去っていった。
大臣はどうやら今日一日この街で自由に遊ぶらしい。田舎とさげすんでいた割に、酒は飲みに行くのか……。
まあいい。
作戦開始だ。
何も間違ったことは言ってないが、若干嘘を交えつつ隊長には言い訳する。この隊長が冒険者としての私を見た時点で上に仙人の正体を報告しなかった辺りを考えると、多少の嘘くらいはついても許されるはず?
というかそもそもの話、隊長たち幕府軍はあくまで仙人が敵対関係になるのかどうかという話を知りたかっただけに過ぎない。私がこうやって仲良く幕府軍につるんでいる時点で敵対疑惑はもうなくなっている。
それに加えてあとは隊長として結果を残したかっただけ。
故に、これはwinwinな取引だったのだ!
「大臣には今日見たことを伝えてきます。……確認なんですけど、『あなた』は敵対しないですよね?」
「するつもりは今のところはないよ。ただ……」
「ただ?」
「幕府って、今腐ってるわよね」
「……認めましょう。私は正直今の政治のやり方は好きではありません。民たちは年々少しずつ増税されていることに気づいていないようですが、そのほかにも徐々に民から絞り上げる法律が確立しつつあります。その手口があまりにも巧妙で……」
「それって、全部大臣の指示?」
「大臣に組する者はいますが、行動自体はすべて大臣が行っています。彼さえいなければ今の政治はもっとよかっただろうに……」
そう言って嘆く隊長の姿を見て、なんとなくこれは本気で言っているように感じた。なんだろう、勘?
「変えてあげるわ」
「はい?」
「要は大臣を辞めさせればいいんでしょ?私がやったるわ」
「で、ですが仙人ともあろう方が俗世に――」
「私は仙人なんかじゃないわ。元貴族で元教師で……今はただの成人女性よ」
「え?」
《主、そろそろ将軍に位置が割れそうです》
え、私何の気配も放ってないのに存在バレかけてる?そしたら、また次元移動ですぐ追いつかれるよね?
いきなりのことで驚いていると、隊長は不思議そうな顔をしている。
……この隊長にも一役買ってもらうかな。
「それで、隊長。あなたにお願いしたいことがあるの」
「あなたに命令される権利はないはずなんですがね……」
と、苦笑いしている。
「それで?お願いとは何ですか?」
♦
「そろそろだぞ、敵首魁のお入りだ」
転移で街に帰ってきて数日。首都からここまでには一か月はかかりそうだが、どうやら大臣は剛速球でここまで向かってきたらしい。
反乱の予兆が一番ありそうなのがここ、私のお兄様の領だとどうやら思っているらしい。
その原因は私なんだけど。
領主が一同に集まったあの集会で、お兄様の護衛として向かった私が、将軍の命に歯向かったからだろう。もちろん、そのことを後悔してはいないし、お兄様だってそう言っている。
他の領地をすっ飛ばしてここまで来るとは思わなかったけど。
「証拠づくりはどうしよう……」
今のところ、反乱軍対革命軍の構図がまだ完成しきっていない。こんなに早く敵が視察に来るとは思わなかったから準備もまともに終わっていない。
同一人物同士を戦わせる方法なんてすぐに思いつく方がおかしいからね……だが、
「大丈夫だ、私に任せてくれ」
と、お兄様が言った。頼もしい!
「でも、どうするつもりなの?」
「ふっ、そんなのあとでたっぷりと教えてやるさ」
「?」
「ほら、もうご到着だぞ?」
「あれが……」
すでに門は開かれ、行列が顔を見せていた。その先頭の馬車に乗っているであろう大臣の姿を想像しながら、私たちは片膝をついて対峙する。
正直、跪くなんて嫌だけど……まあ、こればっかりはしょうがないよね。私の横でユーリが今にも噛み殺しに行きそうな勢いで「シャーッ!」と唸っている。
それをレオ君がなだめている。
ユーリは大臣に何の恨みもないはずだけど……
※後で聞いた話によると、私が膝をついているのがいやだったからだとさ。
「大臣様のおなりー!」
馬車は門を少し入ったところで停車し、中から人が出てくる。護衛達に囲まれて顔を出したのは、いかにも税金で私腹を肥やしてそうな人だった。
丸々と太った体に、金の指輪やネックレスを大量につけ、扇子の代わりに札束を扇いでいる。
金で全身を覆っている『豚』はゆっくりとこちらに歩みを進める。
「出迎えご苦労」
「はい」
「いつ見ても君の街は貧相だね」
「いえ、決してそんなことは――」
「もっと、民のことを考えたらどうなんだい?だから、君はいつまでたっても辺境の領主なんだよ」
誰のせいで税金絞られてると思ってんだ?って、本気で思ったが、にやにやした笑いを見て、どうにか自分を堪える。
後で!後で殴れるから!
「ったく、なぜ私がこんなところに来なきゃいけないんだ」
「大臣様が自らいらっしゃると願ったのでは――」
「あんまりしゃべるな!死刑にするぞ!」
「……失礼しました」
お兄様は至って冷静にそう言った。
昔、学院に通っていた時のことを急に思い出す。豚の扱い方、やめさせるか支配するか、それとも殺すか……なんて物騒なことを書いていたな。
今、本気で実行したくなってきた。
《主、落ち着いてください》
見たところ大した力もなさそうなのに、どうしてこんな奴が大臣なんかになれるんだ?性格も終わってるじゃないか!
「さて、私は酒場にでも行くとしよう。あー、仕事は明日からだ。くれぐれも私の邪魔をしないように」
「かしこまりました」
そう言って、一団は去っていった。
大臣はどうやら今日一日この街で自由に遊ぶらしい。田舎とさげすんでいた割に、酒は飲みに行くのか……。
まあいい。
作戦開始だ。
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