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代役

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 その後、私は調査隊の人たちと合流する予定の地点まで向かった。

「こ、この人たちが調査隊?」

「あ、ああ……俺たちが調査隊なんだが……」

 一応私は調査隊のメンバーの隊長に会いに行き、挨拶しておこうと思ったのだが……顔を合わせた瞬間、お互い既視感に包まれた。

「お、おま……いえ、あなた様はせんに――」

「ちょっ!?」

 思わず殺気を向けそうになり、あわてて自重する。ただ、殺気を放ちかけた余波だけでその相手は少しおじけづいた様子だ。

「す、すみません……」

「いや、なんかごめん……あなた、私と山で会ったよね?」

「その通りです。あの時は私の質問ご回答いただきありがとうございました」

 そう、目の前に立っている男は以前山で修業中の私に向けて派遣された幕府軍の代表であったのだ。

「まさか……こんな形になろうとは……」

 確かにこれは私がばかだった。以前私のもとに来た調査隊と、今回の調査隊のメンバーが違う保証なんてなかったのだ……というか、隊長をわざわざ変える必要はないのだ。

 そりゃあそうだ……。

 《すみません、私のミスです》

 ツムちゃんは悪くないよ。どうせ、ツムちゃんが教えてくれなくても勝手にこの人たちは集まってきたんだろうし。

「とにかく、わかっているでしょうね?」

「はっ、何がでしょう?」

「私の正体はバラさないで」

「え?」

 正体ではないのだが、この人から見たら私は『仙人』か『仙女』……どちらにせよだけど。

「あくまで私は冒険者としてここにきているの。面倒事はごめんよ」

「では、なぜあの時私たちと対話為されたので?対話などせずに我々を消し炭にすればよかったのでは?」

「それは……あれよ!仙人として、むやみに一般人を殺すわけにはいかないもの!」

 まるっきり嘘である。

「なるほど……」

 納得しちゃったよ!?

「とにかくお願いね?」

「わ、わかりました。私もまだ死にたくないので……ですが、依頼はどうするおつもりで?私以外のメンバーはすげ変えられましたが、全員まじめに調査する気満々ですよ」

 そこが一番の問題だ。

「すでに小柄な少女であるという情報が出回ってしまっています。小柄な少女且つ、あなたほどの実力者などおりませんので代用もできませんよ?」

「代用……ね」

 確かに、私の知り合いに私ほど強い子はいなかった。強いて言うならユーリだけど、あれは人を騙せるような玉じゃない。

 絶対に私のことをご主人様呼びして速攻でバレるに決まっている。

 ではどうするか……。

 いや、まだ方法があるんじゃないか?

「調査……って言っても、仙人が移動したという可能性も考慮して長い期間の探索が許可されているのよね?」

「はい、大臣からはそう聞いております」

 大臣、そいつはまだ私たちの領内に訪れていない。できれば、そいつが領内を訪れるまでの間に終わらせたいのだが……。

「なにも今回の探索で見つかる必要はない。今日の探索を乗り切ったら、少し私に考えがあるわ」

「考えですか?私は協力できませんが……」

「いえ、もう協力してくれたじゃない?」

「はい?」

「さっきの『代用作戦』を使うわ」

「……はっ?」

 人の話を聞いていたのか?という顔をしながら首を傾げる隊長さんなのだった。


 ♦


 調査隊と共に行動するのはこの後なので、急いで私はとある場所へと向かった。

 代役としてたてるには、条件が二つ。

 小柄な女児であること……そして、私くらい強い……もしくはそう見せれればいい。

 私の知り合いで、すぐに呼び出せる人物。そんなの今のところは一人しかいない。

「ネルネ、ちょっと今から修業に行きましょう!」

「今からですか!?まだお仕事中ですよ!」

「嫌だ!仕事なんてやめて私の所へ来て!」

「なんでなんですか!?いつもよりなんか強引です!」

 私が訪れたのは都一番の人気の宿屋で働くネルネであった。

「おいおい、何してるんだ?」

「ラグさんや……ちょっとこの子をお借りしていいですかい?」

「なんだか喋り方変ですよ、ベアちゃん!?」

 となりで私に腕を掴まれたネルネがバタバタしながら何かを言っている。

 そして、ずっと黙り込んでいたラグがひとこと。

「ま、いいよ」

「ええ!?」

 ネルネはものすごい驚いた顔をしていた。

「ネルネ、別に悪いようにはしないわ。ちょっと、ちょっとだけだから」

「ベアちゃんのちょっとは信用できません!例えれば、楽しみにしていたアイスを一口だけ頂戴と言われて、全部丸ごと食べられそうな気分になるくらい信用できません!」

 どういうこと?

「お願い、国家危機なのよ」

「国家危機って、なんですか?」

 ネルネが若干の興味を示してくれたので、私はすぐに状況を説明した。

「なるほど……つまり、私がベアちゃんの代役となればいいんですね?」

「そうなの!理解が早くて助かるわ!じゃあ早速――」

「遠慮します!」

「ええ!?なんでぇ!?」

「無理です無理です!ベアちゃんくらい強くなるなんて私には絶対できません!しかも期限付きなんですか!?なおさら無理です!」

 そう言って嫌がるネルネ。

「お願いよネルネ、あなたしか頼れる人がいないの」

 そう言った瞬間、若干顔色が変わった。

「……私しか頼れない?それは本当なのです?」

「え、うん。ネルネしかいないんだよ!」

「私必要とされてます?」

「めっちゃ必要なの!」

 レイとか、オリビアという線も考えたが、レイもユーリと同じ理由で却下……オリビアは聖女として王国で頑張ってもらってるから厳しいのだ。

 そうなったら、一番まともな常識人でそれなりに強くて、条件に合致するネルネしかいないのである。

「そ、そこまで言うなら仕方ないですね……私がやってあげなくもないですよ?」

「本当!?」

「勿論です!」

 さっきまでは嫌そうにしていたのに、鼻の下を擦って誇らしそうにしている。

 一体ここまでの数秒の間に何が変化したというのだろうか?

 そんなわけで、代役はネルネに決定したのだった。
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