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「冗談やめてよ、今はそれどころじゃないでしょ?」

「そこにいる『真獣』ちゃんが倒された時点で、士気はダダ下がりだからね……あとは消化試合だよ。私たちがいてもいなくても変わらないってもんさ」

 一体どうしたらそのような結論に至ると言うのだ。確かにきつめに煽った私が悪いのはわかっているけど、だからといって味方に攻撃してくるのは違くない。

「それに、君はそこにいる『真獣』のことを弱いと思っているでしょう?」

「急に何よ……まあ、私より弱いのは確かだけどね」

 気絶してしまっているその女性を見ながらいう。

「その子はステータス15万超えの猛者だよ。彼女が弱いんじゃない。君が強すぎただけだ」

「ああ、そうなのね」

「だからだよ。ステータスが低いと思って油断していると足元を掬われる。そのためにも私は『新人』の伸びた鼻をへし折らなくちゃいけないんだ」

 ああ、なるほど。それが本当の目的か。

 ステータスの差は絶対ではないにしろ、とてもわかりやすい指標だ。強力なスキルを持っていなかったり特別な効果のあるアイテムを持っていなかったりすると、相手にダメージを与えることが困難になってくる。

 ちなみに、ステータスには攻撃と防御と速度のステータスがあるが、攻撃力+速度のステータスがその人の出せる全力の攻撃である。

 つまり、ステータス1000の人が出せる全力攻撃の威力は2000が限界。武器や魔力を使ったりすればそれより上にいけるけど、基本はこれだ。

 故に、ステータスに倍以上の差があると、もはや攻撃でダメージすら喰らわなくなる。何が言いたいかといえばそれぐらいステータスが絶対なのだ。

「ま、君にはそんな度胸もないかなー」

「……は?」

「君には戦場はまだ早いよ。とっとと家に帰って魔法のお勉強でもしたらどうだい?」

 と、マレスティーナは私に煽り返してくる。

「上等じゃないの!受けてたつわ」

 それだけ煽られたら私だってやるしかない。

 遠くの方からやじうま……もとい、味方がこちらの方を見ている。

 私とマレスティーナのやりとりが聞こえていたのだろうか、それとも一触即発の雰囲気を感じたのだろうかは知らないが、みんながアワアワとしている。

「そうこなくちゃね!その鼻へし折ってやろう」

「やれるものならやってみなさいよ!」

 空気が激しく振動するほどの威圧がぶつかり合う。それだけでも十分な攻撃なのだが、その威圧の威力はほとんど互角。

 大賢者の攻撃手段は魔法が全般、そのパターンは数えるのが億劫になる程ある。対して防御手段はただ一つ、無効化結界である。

 無効化の結界は私の攻撃を阻んでダメージを与えさせてくれない。だが、私だって前にこぜりあった時よりもだいぶ強くなったはずだ。

 大剣を握った瞬間、マレスティーナの体がなんの予兆もなく消えた。

 《次元移動を感知しました》

 不意に後ろから気配を察知し、その大剣を盾の形へと変形させた。飛んでくる魔法の連打を全て防ぎきる。

 お返しとばかりに私は話術の力でその魔法の制御を奪った。

「『標的変更』」

 魔法の波がその動きを停止させ、回れ右でマレスティーナの方へと飛んでいく。ただし、それは防ぐ必要すらなく消滅した。

 盾を大剣に戻し、『看破』で弱点を探りながら懐に入った。

 本来なら看破で見極めることができる弱点だが、それは無効化の結界によりなくなっていた。大抵の攻撃では効果がないと言うことだ。

 そして再び次元移動が発動しその姿をかき消した。

 《捕捉、右斜め後ろ》

 その言葉を聞いて、私はすぐさま軌道を変えた。再び懐に入り込むことに成功し、今度は大剣を使った突きを放つ。

 だがしかし、無効化の結界はいまだに健在でなんの痛痒も感じさせない表情でマレスティーナは立っていた。私の大剣の方が逆に押され、弾き返されていたのは言うまでもない。

 この間、わずか五秒の出来事だった。

「先に言っておこう。私はこの結界の維持に全体の魔力の半分を割いている」

 結界は魔力の込める量によって、その質と強度が変わってくる。

 《無効化の結界とはあらゆる攻撃に耐性を持った高強度の結界のことを指します》

 少し魔力をこめるだけでも他の結界とは比べ物にならないほどの強度を付与できる。マレスティーナが魔力を半分も込めたと言うことは、強度は言うまでもない。

「あれ、まだ諦めてないようだね。先に数値を言っておこう。私の無効化結界の強度は数値にして1億だよ」

「1……億?」

 は?何それ?チートだチート!なんか不正してるだろ!

 《いえ、マレスティーナは魔力に特化したステータスをしているので、あながち嘘ではありません》

 えぇ……ドン引きなんだけど?一億とかいう訳のわからない数値の結界を私の攻撃力……一撃およそ五十万ダメージでどうやって壊せと?

「私はぬくぬくと結界の中で攻撃するとしよう。私が負ける要素など一ミリとして存在しないのだからね」

 マレスティーナの目の中にある結界が私には見えた。マレスティーナが『未来視』を行ったのだろう。

 どんな結末にいたろうとも、この戦いで私が勝つことはないそうだ。

 《ただの脅しです。聞き流しましょう》

 ツムちゃんマジで頼もしい。こんな時でもさいかわな味方である。

 《さいかわとは?》

 最高の可愛い!

 《オフラインにいたしましょうか?》

 あれ?なんで怒ったの?

「まあいいや。ツムちゃんもちょっと手伝ってもらうよ」

 私にはまだ考えがあるのだ。こう見えて、必殺の攻撃手段はいくつか持っている。

「ツムちゃん、連携して攻撃するよ!」
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