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いちばんの失敗

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 その瞬間、衝撃音があたりに響く。土飛沫が辺りに舞う。

「な、なに?」

 あたりには私たち以外誰もいないはずなのに起きた轟音に戸惑いつつ、魔力感知に引っかかった方向を直視する。

 その方向にいたのはたった一人だった。

「そこをどけぇ!」

「っ!」

 土煙の中から音速以上のスピードで突進してきたその女性を私は思わず受け止めた。

「どけといっただろ!」

「何者かは知らないけど、ちょっと落ち着いてくれない?」

 女性はボサボサの茶色髪を伸ばし、鋭い目つきでこちらを睨みつけている。背丈はまあまあ高く、その姿はまるでライオンのようだった。

 ライオン種だろう。

「どかないってんなら、お前ら全員殺す!」

「殺させるわけないでしょう?」

 いきなり現れたと思ったら、いきなりの殺す発言。さっきの素早い動きも考慮すると、この人は手加減しなくてよさそうだ。

「みんな、下がってて……そうだね、自陣まで後退」

「小隊長は!?」

「ここに残るよ」

「そんな!僕たちも戦えます!」

「冗談言わないで。ここに残ってたら死ぬよ?」

 人間誰しも死にたくないもの、死にたくなければさっさと逃げるべし。

「大丈夫、誰もあなた達に手出しはさせない」

「ベアさん……」

「こら、小隊長と呼びなさい」

「は、はい!」

 さて、小隊のみんなは馬に乗ったまま逃げていく。というわけで、私はしばらくこいつの相手をしよう。

「逃すか!」

 懲りずに私を無視して、小隊のみんなの方へと突進していく。私はそれを冷静に見つめる。

 そして、転移で瞬時に前方へ現れた。ライオン種の女性は急に現れた私に反応できずにそのまま蹴り飛ばされる。

「行かせるわけないでしょう?」

「このガキ!よくもあたいの顔を!」

 先ほどよりもスピードが上がる。常人には認識できないのは当然として、魔力感知……あ、そもそも獣人族って魔力ないから魔力感知意味ないじゃん!

 《位置情報を私が主の脳に直接送信しています》

 あ、あざます。

 とにかく、相手の気を察知する系統のスキルでもその動きを追いきれないほどの速さで私に迫ってくる。どこにしまっていたのか鉤爪を取り出し、私に双撃を放つ。

 間合いに入ったまま私が動かないのを見て、まるで勝ったかのような顔をしている。

 だが、それを思わず鼻で笑ってしまった。

「なっ!?」

 鉤爪の双撃は私の指一本で弾かれた。

「何をした!」

「ただ、指で弾いただけよ」

 私はデコピンする動作を女性に見せる。馬鹿にされたと感じたのか憤りながら、女性は軌道を変えながら再びこちらに詰めてきた。

「だから、無駄なのよ」

 私は大剣であたり一帯を丸ごと削り取る。大剣を薙ぐだけで、地面は抉れ凄まじい音と共に大地にその振動が伝わる。

 それにより吹っ飛ばされた女性をそれよりも早い速度で追いつき、髪を掴んで地面に叩きつける。

「ぐあっ!?」

 髪の毛を持ち上げて体を引っ張り上げる。といっても、私の方が身長が小さいので、頑張っても足を引きずらせてしまうが。

「あなた、自分より強い人と戦ったことないでしょ?」

「な、なんだと?」

「戦闘の仕方は単調もいいところ。ただ突っ込んでくるだけ……それさえわかっていればなんの脅威にもならないわ」

 実力的にはそこらへんの兵士など瞬殺できるくらいの実力はあるのだが、本物の強者にはただ単調な攻撃で勝てるなんざ甘くない。

 知恵のある魔物ですら策を弄する今の時代に、愚直に突っ込んで勝てるのは自分よりも弱い存在を相手する時だけだ。

「ん、その傷は……?」

 そして、持ち上げていた女性の横腹を見るとそこには何かで傷つけられた跡が見えた。

「なるほど、私と戦う前に誰かにやられてたのね」

「くそ!これさえなければ……この傷さえなければお前なんてすぐに殺せたんだ!」

 そんな負け惜しみを言う女性。

 その時に、私は何かがプツンといった気がした。

「あ?」

「っ!!??」

 体に残っている魔力を全て威圧に変換して前面に押し出す。

「私を殺す?私が子供の頃から努力してきて手に入れた力を馬鹿にするつもり?あなたごときに私が負けるわけないでしょ?」

 言葉の一つ一つにありとあらゆる威圧をのせて届ける。女性の目は今にも飛び出しそうなほど大きくなり、目からは涙がたれかかっていた。

「あなたに私は倒せない。そして、あなたは私に倒されたの」

「あ……あぁ……」

 ということをしたら、

「あれ?もう気絶した?」

 いやー、最近ストレス溜まってたから思わずこの人で発散しちゃった⭐︎

 悪いことをしたとは絶対に思わないけど、スッキリできた。

「ふう、この人を捕虜にして……」

 と思いながら、ふと気づいた。

「あれ、なんか地面陥没した?」

 気づけば一定の距離で、私を中心に地面が綺麗に陥没しているではないか!

「あ、あれぇ?重力魔法は使ってないよ?」

 《主の威圧が強力すぎて、物理的にも効果を発揮したのです。威圧に使用した圧力が魔力だったせいでしょう》

 そんなツムちゃんの解説を聞きながら、私は魔法でその女性を捕縛する。そして、その時変な感覚に襲われた。

「誰?」

 パッと後ろを振り向くと、まあ予想はしていた人がいた。

「マレスティーナ?」

「大正解!」

 そこにはマレスティーナが立っていた。

「激しい威圧を感じてきてみたら、君がいるとはね」

「どっかの誰かさんがこの人を取り逃したからでしょう?」

「言うねぇ」

「あまり遊んでないで、さっさと鎮圧してもらいたいのだけど?私だって暇じゃないの。痴女大賢者の尻拭いなんて真っ平ごめんよ」

 と、適当に煽る。

「はは、君に煽るのはまだ早いよ」

 そういってマレスティーナは瞬時に魔法を構築してこちらに飛ばしてきた。

「ちょっ!?何するの!?」

「そこまで言われて私もプッチンときちゃったから、ちょっと殺り合おう!」

「はあ!?」

 ベアトリス、齢15にしていちばんの失敗だった。
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