上 下
452 / 504

我慢は辛い

しおりを挟む
 さて、お兄様が街に最速で帰ってきたとしても約一か月はかかる。それまで、色々な段取りを終わらせておこう。

「予定通りに進んでいるかな?」

 みんなには色々と役割を任せてそれぞれ行動している頃合いだが、流石にまだ計画の一日目だ。

 大して進んでいるとは思わないけど、一応確認を……

「と、思ってきてみたはいいけど……レオ君?」

「ん?なに?」

 まず初めにレオ君の戦場跡地作成の様子を見に来たが、その時点で既に私たちの感覚が非常にずれていたことを思い知らされた。

「レオ君?これは戦場跡じゃないよ……隕石が落下した後だよ……」

「そうかな?」

 どでかいクレーターが平原に作られていて、流石の私も驚きを隠せない。

「もしかしてレオ君ステータス伸びた?」

「そうらしいね。僕は解析鑑定が出来ないから分からないけど……」

 ステータスを確認してみたら、いつの間にかステータスが約80,000にまで上がっていた。

 どうして急に……?

 《吸血鬼は特性として血を吸って庇護下に入れた者が力をつけると、それにつられて自らを強化する能力があるのです》

 つまり、レオ君から吸血鬼の加護を貰った私が強くなったから、レオ君もステータスが急激に上がったと……。

 《ギブアンドテイクというやつですね》

「って、これは流石にやりすぎだから、もう少し規模を小さくできる?例えば……何かを引きずった後程度に留めたり、少ほんの幅数メートルの小さな穴をところどころ作るくらいにしてほしいの」

「わかったよ、ベア」

「っ!」

「どうしたの?」

「きゅ、急にベアって呼ばれたからちょっと……ね」

 今までフルで呼ばれていたから完全に忘れていた。そう言えばベアって呼んでといったんだった。

 あーもう長年一緒に暮らしているのも合わさって今更恥ずかしいったりゃありゃしない。

「ふふ、恥ずかしがらなくていいよ。僕とベアの中でしょう?」

「ちょ、言い方!」

 いつも一緒に行動している私たち3人の中で一番背が高いのはレオ君だ。ちなみに2番目は私。

 レオ君と並ぶと、私が上を向く形になってしまう。

 くっ!イケメンがこっちを見てる……!

 イケメンの人はどうして声までかっこいいのだろうか?顔がかっこよくて声がかっこ悪い人なんて私見たことない!

「……なんか変なこと考えてる?」

「い、いいや別に!?」

「ならいいけど」

 全く、私と同い年のくせにどうして身長で負けてるんだ!?レオ君だって2年間仮死状態だっただろう!?

 《男女の肉体的成長の差でしょう》

 わかっとるわ!

「なんだかレオ君大人びたね」

「そうでもないよ、昔の方が背は……じゃなくて、獣人の中じゃまだ小柄な方だし」

「まあそうだね」

 他の獣人はみんな2メートル近くある。レオ君はまだ160センチ半ばと言ったところか。

「じゃあ、私は他の人のところに行ってくるね」

 そう言って私が去ろうとすると、待ってくれと止められる。

「あ、あの……もう少ししたら、また貰えるかな?」

「なにを……」

 と思ったけど、レオ君が顔を赤らめているところを見るに、たぶん『お食事』のことを言っているのだろう。

「なんなら今でもいいのよ?」

「か、からかわないでよ!」

 良かった、中身はまだ可愛い子供だった。

 無駄にイケメンになられると、私が惚れそうなのでぜひともやめてほしい。まあ、どうしようもないけどね。

「じゃあ今夜おいで?」

「……」

「冗談冗談」

 そう言いながら私は去っていった。


 ♦↓レオ君視点↓


「もう、からかいすぎなんだよ」

 ベアが去ったあと、僕は一人そう呟いていた。

 ベアとはここ何年も一緒に暮らしている。ユーリほどではないにしろ、共に一緒に暮らしてきて、とても充実した日々を送っている。

 ベアにお願いされたことなら、どんな雑用だろうと些事だろうととてもやりがいのある仕事に感じてくる。

「はぁ……」

 ベアは成長していくにつれてどんどん大人びてきていた。なのに、あんな冗談は酷いよ……いつも我慢しているのに、我慢できなくなるじゃないか……。

 本当だったら吸血鬼……ハーフとはいえ……は、毎日何かしらの血を摂取しないといけない。栄養が足りないからだ。

「ホントだったら毎日……いいや!違う違う!」

 自分の中のやましい感情に気づいてさっさと追い払う。

 血を吸っている時の僕は自分が自分で亡くなったような感覚だった。不思議な感覚……快楽なのかはわからないが、気分がとても高揚する。

 そのせいで、血を吸った勢いでそのまま……とか、そんな考えがいつも脳裏に浮かんでいた。

 だが、僕がそれを実行に移すことは絶対にない。

 そんなことして嫌われたら、僕はもう生きていけない……。

「はぁ……もう少し僕の頑張りを知ってよね?」

 いつもいつも欲求に耐えているんだから、本当につらい。だから、ユーリが生き返ったベアにキスをしたときは正直嫉妬した。

「今夜……ねえ」

 …………………………よし、早く仕事を終わらそう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

異世界転生は、0歳からがいいよね

八時
ファンタジー
転生小説好きの少年が神様のおっちょこちょいで異世界転生してしまった。 神様からのギフト(チート能力)で無双します。 初めてなので誤字があったらすいません。 自由気ままに投稿していきます。

星の記憶

鳳聖院 雀羅
ファンタジー
宇宙の精神とは、そして星の意思とは… 日本神話 、北欧神話、ギリシャ神話、 エジプト神話、 旧新聖書創世記 など世界中の神話や伝承等を、融合させ、独特な世界観で、謎が謎を呼ぶSFファンタジーです 人類が抱える大きな課題と試練 【神】=【『人』】=【魔】 の複雑に絡み合う壮大なるギャラクシーファンタジーです

暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~

暇人太一
ファンタジー
 仲良し3人組の高校生とともに勇者召喚に巻き込まれた、30歳の病人。  ラノベの召喚もののテンプレのごとく、おっさんで病人はお呼びでない。  結局雑魚スキルを渡され、3人組のパシリとして扱われ、最後は儀式の生贄として3人組に殺されることに……。  そんなおっさんの前に厳ついおっさんが登場。果たして病人のおっさんはどうなる!?  この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。

死んだのに異世界に転生しました!

drop
ファンタジー
友人が車に引かれそうになったところを助けて引かれ死んでしまった夜乃 凪(よるの なぎ)。死ぬはずの夜乃は神様により別の世界に転生することになった。 この物語は異世界テンプレ要素が多いです。 主人公最強&チートですね 主人公のキャラ崩壊具合はそうゆうものだと思ってください! 初めて書くので 読みづらい部分や誤字が沢山あると思います。 それでもいいという方はどうぞ! (本編は完結しました)

異世界転生したら何でも出来る天才だった。

桂木 鏡夜
ファンタジー
高校入学早々に大型トラックに跳ねられ死ぬが気がつけば自分は3歳の可愛いらしい幼児に転生していた。 だが等本人は前世で特に興味がある事もなく、それは異世界に来ても同じだった。 そんな主人公アルスが何故俺が異世界?と自分の存在意義を見いだせずにいるが、10歳になり必ず受けなければならない学校の入学テストで思わぬ自分の才能に気づくのであった。 =========================== 始めから強い設定ですが、徐々に強くなっていく感じになっております。

「自重知らずの異世界転生者-膨大な魔力を引っさげて異世界デビューしたら、規格外過ぎて自重を求められています-」

mitsuzoエンターテインメンツ
ファンタジー
 ネットでみつけた『異世界に行ったかもしれないスレ』に書いてあった『異世界に転生する方法』をやってみたら本当に異世界に転生された。  チート能力で豊富な魔力を持っていた俺だったが、目立つのが嫌だったので周囲となんら変わらないよう生活していたが「目立ち過ぎだ!」とか「加減という言葉の意味をもっと勉強して!」と周囲からはなぜか自重を求められた。  なんだよ? それじゃあまるで、俺が自重をどっかに捨ててきたみたいじゃないか!  こうして俺の理不尽で前途多難?な異世界生活が始まりました。  ※注:すべてわかった上で自重してません。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

処理中です...