上 下
428 / 504

可愛い武士

しおりを挟む
 将軍と別れて宿へと戻ったら、一階の酒場でお兄様と蘭丸さんが二人でお酒を飲んでいた。

「お兄様方、お昼からお酒はダメですよ」

 貸切だからってテーブルをまとめて大きくしている。お兄様は顔が少し赤くなっているがまだ平常心は保っているようだ。

 だけど、蘭丸さんはかなり酔ってそう。

「あれぇ……?おかえりですか?」

「あの……お兄様?何杯飲ませたんですか?」

「ち、違うぞ?蘭丸は酒に酔いやすいんだ」

「というか、二人とも大人なんですから夜まで待てばいいものを……」

 そう思って、私が二階に上ろうとした時、

「待って欲しいでござる……」

「はい?」

 お酒を飲んで潰れかけていた蘭丸さんの声に私は思わず振り返る。顔はお兄様よりも赤くなっていて、今にもフラッと倒れてしまいそうだ。

「ちょっとお話を伺ってもいいでござるか?」

「え、なんのお話?」

 特に心当たりがなく頭を捻っていると、蘭丸さんは手に持っていたお酒をガブっと飲んでテーブルにドンッと置いた。

「今日会議に出られたじゃないですかぁ……」

「え、ええそうだけど……それがどうかしたの?」

「その……」

 もじもじとしている蘭丸さんを珍しく思いながらどうしたのかとお兄様に視線を向ける。お兄様はため息をついているだけでなんのことかは教えてくれなかった。

「将軍様に会ったでござるよな?」

「ふぇ?」

 実はさっきまで一緒でした。

「そう、ですね。それがどうしたんですか?」

「正直どう思いました?」

「どうって……どういう意味合い?」

 性格の話?それなら結局よくわからなかったけど……。

「その……」

「なんですか?聞きたいことがあるんならはっきりと言って来れないとわかりませんよ?」

 そう言ってテーブルにぐってりしている蘭丸さんに聞くと、蘭丸さんは恥ずかしげに聞いた。

「将軍様……かわいかったですか?」

「……………?」

 頭にタイムラグがあるようだ、よく聞こえなかった。

「もう一度いい?」

「将軍様は!かわいかったですか?」

「……あれ?私の聞き間違いかな?」

 そう思ってお兄様の方を向くと、残念そうに首を横に振っている。

「ええ?」

 困惑しか出てこなかった。将軍の正体を知っている私からすれば、かわいかった……と聞かれても、うんとは頷けないんだけど……?

「いきなりどうしてそんなことを……」

「ち、違うでござる!誤解しないでほしいでござるよ……拙者はただ、将軍様はとても美しい女性だと話に聞いたので聞きたかっただけでござる!」

「それだけじゃないように見えるのは私だけ?」

 そう思ってお兄様の方を……(以下同文)

「当主様!?違うでござる!拙者はそんなやましいことは思っていないでござる!」

「まだ何も言ってないが?」

「うぐっ……」

 蘭丸さんに精神的ダメージ大!

「もしかして、蘭丸さんって将軍……様のこと気になってるの?見たことないのに?」

「そ、そんなの関係ないでござるよ。将軍様は武人であるとも聞いたでござる。美しい女性でしかも武人と聞いて拙者気になって気になって……」

「夜も眠れないと……」

「うむ……って、ちがぁう!」

 可愛い。

「うふふ、お堅いイメージあったけど、蘭丸さんって結構純情なのね」

「ななな、何を言ってるでござるか!?」

「その反応がもううぶなんですよー。蘭丸さん女性と付き合ったことないんじゃないですか?」

 と冗談めかしに言ってみたが、蘭丸さんは押し黙って何も言わなくなった。

「あ、あれぇ……もしかしてほんとになかった?」

「拙者……今まで刀としか向き合ってこなかったが故、女性と出会う機会なんてなかったでござる……」

 そう言って拗ねたように頬を膨らませている。

 か、可愛い!?

 不覚にもビビッと来てしまった……。

「んで、蘭丸さんにとっては武人の将軍が理想のタイプと……」

「当主様と一緒で意地悪な方でござるね……」

「いいじゃない。私そういう話ものすごく好きなの!」

「ほんと、いい性格してるでござる……」

 恋に悩める青年に助け舟を出してやろう……うむ、それが乙女の本解よ!(曲解)

「そっかぁ、蘭丸さん将軍みたいな人がいいのね……でも、あの人あんまり表情動かないよ?感情読みにくいし、ちょっと抜けてるところあるし仕事のオンオフにすごく差がある人だったよ」

「なぜそこまで知ってるでござるか?」

「え!?それは……ちょっと、二人話した時に、聞いたというか?」

 さっきまで一緒に出掛けてましたとは言えない。

「それでもいいの?」

「何を言うかと思えば。むしろ、そっちの方が拙者は可愛いと思うでござるよ?普段無表情だけど、たまに笑った姿とか、ちょっと抜けていておっちょこちょいな方が助けがいあるし、切り替えが早いと拙者もやりやすいでござる!」

「こりゃ本格的に狙ってるわね……」

「そう言うわけではないでござるよ。拙者は当主様に仕えている身でござるから、最後まで当主様についていくでござる」

 ふむふむ……蘭丸さんは童顔で一見すると子供っぽく見えるが、真面目な表情はやはり武士団のリーダーって感じが垣間見える。

「まあ、将軍と会う機会がもしまたあったら紹介しておくよ」

「はは、話のネタにでもなったらいいでござるなぁ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生王子の異世界無双

海凪
ファンタジー
 幼い頃から病弱だった俺、柊 悠馬は、ある日神様のミスで死んでしまう。  特別に転生させてもらえることになったんだけど、神様に全部お任せしたら……  魔族とエルフのハーフっていう超ハイスペック王子、エミルとして生まれていた!  それに神様の祝福が凄すぎて俺、強すぎじゃない?どうやら世界に危機が訪れるらしいけど、チートを駆使して俺が救ってみせる!

拝啓、お父様お母様 勇者パーティをクビになりました。

ちくわ feat. 亜鳳
ファンタジー
弱い、使えないと勇者パーティをクビになった 16歳の少年【カン】 しかし彼は転生者であり、勇者パーティに配属される前は【無冠の帝王】とまで謳われた最強の武・剣道者だ これで魔導まで極めているのだが 王国より勇者の尊厳とレベルが上がるまではその実力を隠せと言われ 渋々それに付き合っていた… だが、勘違いした勇者にパーティを追い出されてしまう この物語はそんな最強の少年【カン】が「もう知るか!王命何かくそ食らえ!!」と実力解放して好き勝手に過ごすだけのストーリーである ※タイトルは思い付かなかったので適当です ※5話【ギルド長との対談】を持って前書きを廃止致しました 以降はあとがきに変更になります ※現在執筆に集中させて頂くべく 必要最低限の感想しか返信できません、ご理解のほどよろしくお願いいたします ※現在書き溜め中、もうしばらくお待ちください

異世界に転生!堪能させて頂きます

葵沙良
ファンタジー
遠宮 鈴霞(とおみやりんか)28歳。 大手企業の庶務課に勤める普通のOL。 今日は何時もの残業が無く、定時で帰宅途中の交差点そばのバス停で事件は起きた━━━━。 ハンドルを切り損なった車が、高校生3人と鈴霞のいるバス停に突っ込んできたのだ! 死んだと思ったのに、目を覚ました場所は白い空間。 女神様から、地球の輪廻に戻るか異世界アークスライドへ転生するか聞かれたのだった。 「せっかくの異世界、チャンスが有るなら行きますとも!堪能させて頂きます♪」 笑いあり涙あり?シリアスあり。トラブルに巻き込まれたり⁉ 鈴霞にとって楽しい異世界ライフになるのか⁉ 趣味の域で書いておりますので、雑な部分があるかも知れませんが、楽しく読んで頂けたら嬉しいです。戦闘シーンも出来るだけ頑張って書いていきたいと思います。 こちらは《改訂版》です。現在、加筆・修正を大幅に行っています。なので、不定期投稿です。 何の予告もなく修正等行う場合が有りますので、ご容赦下さいm(__)m

世界最強で始める異世界生活〜最強とは頼んだけど、災害レベルまでとは言ってない!〜

ワキヤク
ファンタジー
 その日、春埼暁人は死んだ。トラックに轢かれかけた子供を庇ったのが原因だった。  そんな彼の自己犠牲精神は世界を創造し、見守る『創造神』の心を動かす。  創造神の力で剣と魔法の世界へと転生を果たした暁人。本人の『願い』と創造神の『粋な計らい』の影響で凄まじい力を手にしたが、彼の力は世界を救うどころか世界を滅ぼしかねないものだった。  普通に歩いても地割れが起き、彼が戦おうものなら瞬く間にその場所は更地と化す。  魔法もスキルも無効化吸収し、自分のものにもできる。  まさしく『最強』としての力を得た暁人だが、等の本人からすれば手に余る力だった。  制御の難しいその力のせいで、文字通り『歩く災害』となった暁人。彼は平穏な異世界生活を送ることができるのか……。  これは、やがてその世界で最強の英雄と呼ばれる男の物語。

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

チートを極めた空間魔術師 ~空間魔法でチートライフ~

てばくん
ファンタジー
ひょんなことから神様の部屋へと呼び出された新海 勇人(しんかい はやと)。 そこで空間魔法のロマンに惹かれて雑魚職の空間魔術師となる。 転生間際に盗んだ神の本と、神からの経験値チートで魔力オバケになる。 そんな冴えない主人公のお話。 -お気に入り登録、感想お願いします!!全てモチベーションになります-

放逐された転生貴族は、自由にやらせてもらいます

長尾 隆生
ファンタジー
旧題:放逐された転生貴族は冒険者として生きることにしました ★第2回次世代ファンタジーカップ『痛快大逆転賞』受賞★ ★現在三巻まで絶賛発売中!★ 「穀潰しをこのまま養う気は無い。お前には家名も名乗らせるつもりはない。とっとと出て行け!」 苦労の末、突然死の果てに異世界の貴族家に転生した山崎翔亜は、そこでも危険な辺境へ幼くして送られてしまう。それから十年。久しぶりに会った兄に貴族家を放逐されたトーアだったが、十年間の命をかけた修行によって誰にも負けない最強の力を手に入れていた。 トーアは貴族家に自分から三行半を突きつけると憧れの冒険者になるためギルドへ向かう。しかしそこで待ち受けていたのはギルドに潜む暗殺者たちだった。かるく暗殺者を一蹴したトーアは、その裏事情を知り更に貴族社会への失望を覚えることになる。そんな彼の前に冒険者ギルド会員試験の前に出会った少女ニッカが現れ、成り行きで彼女の親友を助けに新しく発見されたというダンジョンに向かうことになったのだが―― 俺に暗殺者なんて送っても意味ないよ? ※22/02/21 ファンタジーランキング1位 HOTランキング1位 ありがとうございます!

暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~

暇人太一
ファンタジー
 仲良し3人組の高校生とともに勇者召喚に巻き込まれた、30歳の病人。  ラノベの召喚もののテンプレのごとく、おっさんで病人はお呼びでない。  結局雑魚スキルを渡され、3人組のパシリとして扱われ、最後は儀式の生贄として3人組に殺されることに……。  そんなおっさんの前に厳ついおっさんが登場。果たして病人のおっさんはどうなる!?  この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。

処理中です...