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見ていられない

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 会議らしい会議もしないままその場はお開きとなった。私としてはめちゃくちゃありがたい展開ではあるものの、確実に疑われているのは確かなため部屋に行動しない方がいいかもしれない。

 部屋を歪ませて作られた会議室を出る際、将軍には何の声もかけられなかった。そして、城の外へと出される。

 会議に使った時間はおおよそ四時間弱と言ったところだった。本来の目的である犯人のあぶり出しというものが、私のせいでただの言い訳する場となってしまったが、ミアさんにはとても感謝された。

「ほんとありがとう、あなたがいなければ私は今この場にいないはずだわ」

 いや、疑われてたの私のせいなのでこっちこそ本当にすみませんって感じだけど……。

「お兄様、私ちょっと気分が優れないので、外を歩いてから帰ります」

「そうか?まあ、確かに将軍様に真っ向から意見を具申したら、具合の一つも悪くなるよな」

「はい……」

「冗談だ、行ってきなさい」

 お兄様、その冗談めちゃくちゃ笑えないっす……。お兄様は将軍が絶対の存在だと思っているが、まさかステータスの差が三十倍近くあるとは思ってもいないのだろう。

 だが、実際将軍からは威圧感をあまり感じないから分かりづらい。

 《油断を誘っているのでしょうか》

 さあ、それは分からないけど……。

「自由時間ももらったし、どこか寄ってみようかな」

 まだ都の市場というものを見ていない。今日は頑張った自分へのご褒美だ。

 本城のある都の中心部から南門側に歩いたところに市場がある。そこは商人がたくさんおり、馬車に使われているであろう馬が何匹も休んでいる場所がある。

 ご飯の美味しそうな匂いに、きらりと光るアクセサリーに誘われて私は市場の中を走るかのごとく駆け巡った。

「すごい!こんなの見たことないよ」

 中にはまるで宝石ではないかと思うほどきれいな食べ物もある。刺し身っていうらしい……え、これ生の魚?

「生の魚を食べるなんて……おいしそうではある」

 不覚にもよだれがたれそうになったが、目線を逸らしてどうにか耐えた。

 そうして、市場を満喫すること一時間ほど……

 私の手にはたくさんの食べ物が握られていた。

「だってしょうがないじゃん!おいしそうなんだよ!」

 ちょうどお昼ご飯を食べていなかったせいでお腹もすいていたというのもある。これは私は悪くない。

 そうして、次はどこに行こうかと顔を上げた時だった。

「随分と楽しそうですね」

「ぎゃっ!?」

 後ろから聞き覚えのある聞きたくない声がした。

「うげっ……しょうぐ――」

 その瞬間、将軍の手が私の口に触れる。

「っ!?」

「ここでは将軍ということは内密にしてください」

 よく見てみると将軍はいつもの軽甲冑はハズレされており、着物を着た妖艶な女性に大変身していた。ただし、無表情すぎる顔と声で私にはすぐにバレたが。

「どうしてこんなところにいるの?」

「何か問題でも?」

 いや、さっきまでバチバチな雰囲気だった人と市場で出会うほど気まずいことはないよ?

「何が目的よ!」

「市場巡りですが」

「……へっ?」

「さっきから何なのですか?……ああ、さっきまでの会議の一件があるから警戒しているのですね」

 逆に何で気づかないんだよ!

「私はオンオフははっきりと分けるタイプの天使ですので。お休み中に仕事をするつもりはありません」

「それって……」

「今はオフなので、一緒に市場巡りしましょう」

「はあ!?」

 鳥肌がブワッと出てきたのを感じる。嘘でしょ?さっきまで人っ子一人処刑しようとしていた人と今から一緒に出掛けるなんて無理なんだけど?

 ましてや、世界Vs女神でばちぼこにやりあってる中だよね?こんなことってある?

「はっきりさせるタイプとは言ってもはっきりさせすぎでしょう!?」

「オンの時は女神様から与えられた仕事を全うしますが、オフの時は自分の意志で行動することにしているんです。私は、あなたに嫌悪感を感じないから提案をしたまでです」

「まじで……あんた凄いよ……ほんと尊敬するわ」

 その無神経なところ。

「そうですか?ありがとうございます」

「褒めてない!」

「それで、どうなのですか?付き合っていただけますか?」

「うーむ……」

 正直私はもうお腹いっぱいだけど……って、そうじゃなくて!ほんとにただ市場に降りてきただけ?

 絶対それだけなわけがない。私のことを炙り出すためにでっち上げの証拠を書類にまとめるくらい用意周到な将軍が、ただプライベートで市場に降りてくるなんて絶対にありえない!

(怪しい……)

 絶対何か企んでるでしょ。

 私と将軍の実力差はさほどないはずだが、私の少しのミスでお兄様にまで影響が及ぶ。あとで「あの時、一緒にいて監視していれば」と思って後悔するくらいなら嫌々でも一緒に行くべきなのでは?

 でも、普通に気まずいし何なら敵だし……。

 そう私の中での葛藤が行われている途中に将軍の方をちらりと見ようとしたが、もうすでにその場からいなくなっていた。

 と思ったら、すぐそこにいた。

「ねえ、そこの別嬪さん一発ヤッてかない?」

「のおおおおおおい!?」

 お店の勧誘を受けてました。どうして、あんな……あんな店が大通りにあるんだよ!

 しかもその勧誘を無表情で聞いているところがまたシュールすぎて怖い。勧誘を真顔で受けてキョトンとしている将軍を引っ張って元の位置に戻す。

「良いでしょう、付き合ってあげましょう」

 敵とはわかっていながら、流石に見ていられないので、私はこの依頼を受けることにしたのだった。
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