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動くの人形(ネルネ視点)

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 数回にわたって攻撃を繰り返すラグ。だが、それら全てが衝撃波となって跳ね返ってきた。

「これは……風の魔法……いや、魔術か」

「正解」

 少女は表情ひとつ動かさずに告げる。そして、手を空中にかざした瞬間、部屋に灯りが灯り今まで隠れていた積層型魔法陣が姿を現した。

「この部屋の中での攻撃は全て反射する。空気抵抗?なんていうかは知らないけど」

「ほお?それは面白い。ネルネ、いくぞ」

「え?」

 ラグがいきなり私を掴み、部屋の中へ投げ込んだ。

「ひぃ!?」

 少女に向かって体が飛んでいく。少女は馬鹿なものを見たかのような目で私を見た後、少し横に移動した。

「止まってえええ!」

 そのまま後ろにある本棚に突っ込んだ私を笑う少女の後ろからラグがついてくる。

「ちょっと!?なんで投げ飛ばしたの!?」

「気にすんな」

 それ、ラグがいうセリフじゃないよ!

「それよりも、この魔術……無属性魔術だな。ネルネは攻略法見つけたか?」

「知らないよ。そもそも魔術自体初めて見たんだから」

 魔法と魔術は決定的に違うものがある。

 魔術は陣を描くことでその効力を発揮し、魔法は術式によって発現する。

 魔術は予め描いておけば、いつでも好きなタイミングで発動できる。一方魔術は魔力を多量に消費して初めて使える。

「よって、あいつ自体に魔力はほとんどない。警戒すべきなのは攻撃の反射……と体術か?」

 少女は面白いものを見たという表情をして……変わっていないけど……本を閉じた。

「その観察眼は気に入った。けど、それに気づいたところであなたたちにはここを突破することはできない」

「突破だと?」

「あっ」

 ……今この少女は絶対に口を滑らせたのだろう。

「なんでもない。とにかく、あなたたちじゃ無理だよ」

「それはやってみなきゃわからないってもんだろ?」

 ラグが目線で合図してくる。私はすぐに権能でラグの能力を強化した。

「これでどうこうできるほど変わらない気もするけど……?」

「いいんだよ、それに……攻撃するのは私じゃないからな」

「えっ?私?」

「頼んだぞ?」

 そう言ってまた腹のあたりを掴まれて、思いっきり投げ飛ばされた。

「どうしてえええええ!?」

 理解できずにいる私を少女はヒョイっと避けた。

「なんなの?いじめなの?いきなり何するの?」

「いやぁ、別にネルネじゃなくてもいいんだけどな?」

「一体どういうことなのか説明してください!」

 説明もなしにいきなり投げ飛ばされて怒っている私にラグはごめんと謝りつつ言った。この少女の攻略法を。

「無属性魔術による攻撃反射……確かに強力だが、よく考えてみろ?反射できるのは『攻撃』だけだ。悪意のない突進なんかは反射できない」

「突進いうな!投げたんだろ!?」

「まあまあ……今度は本でやるから」

 その場に落ちて散乱している本を手に取ってラグは投げる体勢に入った。それを見て、さすがと思ってしまう。

 本でも十分な武器として活用できるのはラグの実力ありきだろう。そして、発想力もある……私じゃ到底思いつかない。

(ベアちゃんのためにもここは勝つ!)

 そう思って私も意気込んでいたら……

「負けました」

「「え」」

 そう言って、少女は両手を後ろに回した。

「ええ?」

「どういうことだ?」

 二人して困惑している、どうやらラグもこれは予想外だったらしい。

「だって、壊されたくないから」

「壊す?」

「私、実は人間じゃないの」

「「え!?」」

 少女の顔を改めて見てみる。どこからどう見ても人間だ、どこにも亜人の要素や魔物の要素はなさそう……。

「いや、確かに……あいつの動きを見てみろ。あいつさっきから瞬き一切してないぞ?」

「た、確かに……」

「それに……なんか目が変だな。作り物みたいな……」

 目の中を私も覗き込んでみる。とは言っても近づくわけにもいかないから遠くからだが、はっきりと私とラグがその目の中に反射して映っていない。本来なら映っているはずなのに。

「私、自立型機械人形……オートマタだよ」

「人形か。しかも自立型?そんなの初めて聞いたぞ?」

「それはそうだよ。『私たち』オートマタは将軍様に作られて以降、一回も表に出たことないもの」

「私たちだと?待て……もしかしてさっき言ってた『突破する』って……まさかお前と似たような奴がこの先にいるのか?」

「私、一番弱いから一番最初に置かれてる。けど、後の二体は私とは比べ物にならない」

 突破と言っているが一体どこに続いているのか、その答えはなんとなくわかった。

「その先に、大事な資料があるんですね」

「うん、大事なものは厳重に保管しないといけないからね」

「それで、ここは通してくれるの?」

「通してあげる……でも、私あとで誉められるかも。将軍様に」

「え、どうして?」

 少女は人形には似合わないいい笑顔を作った。

「だって、足止めできたんだものんだもの」

「っ!」

 その瞬間、背後から轟音が鳴り響いた。
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