上 下
400 / 504

ボス(魔王視点)

しおりを挟む
 魔法により壊された壁は修復し、俺も中に入れてもらうことができた。

「それで、そこにいるフォーマとやらは明らかに人間だが……一体どういうことだ?なぜここに人間が」

「あれー?私も人間ですけど?」

「マレスティーナ、お前は俺の中で人ではない」

「何それ、ひっどーい!」

 マレスティーナを無視してずっと目を閉じているフォーマの方を見る。気配で俺が見ているのが伝わるのかフォーマは目を瞑ったまま答えた。

「ん、それは……ってその声、どこかで聞いたことあると思うのだけど」

「む?」

「……ごめん、なんでもない。私は転移でここまできた」

「転移とな?」

 転移陣でもあったのだろうか?そうでなければ、この人間もまた転移使いということになる。それだけで、相当な実力者であることははっきりとわかる。

(ふっ、まだ人類も捨てたものではないのかもな)

 次の戦争は骨のある戦いになりそうだ。

「古代の転移呪文で緊急で転移陣を作った人がいて、私もその中に入り逃げようとしたけど……」

「転移陣に入れきれずにランダムに飛んでしまったと?」

「ん」

「だが、お前ほどの実力者だ。すぐに人間領に帰還できるのではないか?」

「まだその時じゃない」

 そう言って、また読書を始めた。

「ああ、この子の主人が今色々とやっていてね」

「主人?」

「とにかく、この子を見てどう思う?」

 どうと言われても、反応に困る。俺は解析鑑定ができるわけではないから、見た感じで実力を測るしかない。

「ふむ……固有の能力まではわからないが素の実力は災害級レベル。魔法とスキル、戦闘経験を踏まえると災害級の中でも中位以上だろう」

「だってさ、フォーマ」

 そう言われたフォーマは読書を続けながら、問いかけてくる。

「あなたはどの程度?」

「俺か?』

 ちらりとマレスティーナの方を見る。

「最上位……とまではいかんな。だが、分類上ならそこにいるマレスティーナと同じだ」

「それは……」

「一人で、世界を滅ぼせるレベルだ」

 そう言い切るとマレスティーナは笑い出す。

「あの時私に負けた小僧が面白いこと言うようになったじゃないか!」

「無論俺はお前に一度負けた。だが、次戦った時、負けるつもりはない」

「奥の手でもあるのかねぇ?」

 全てを見通すかのようなその眼力、そして体全身を抜け目なく見られているという違和感が襲ってくる。

 おそらくこの女には全て見えているのだろう。

「……こりゃあ、歴代最強の魔王の座、変わるかもな」

 歴代最強の魔王は聖戦時から生き残っているただ一人の方だった。何百年間も魔王の座に君臨し続け、何度も勇者を退けてきた先代魔王が、何十年前の勇者との戦いで簡単に負けるはずがない。

「マレスティーナ、お前がやったのか?」

「先代魔王のこと?そりゃあ私じゃないね、あの悪魔さ」

「悪魔……ちっ、あいつか」

「安心しなよ、先代魔王は生きてるからさ」

「なっ!?」

 死んではいなかったと?そうなれば、先代とも戦うチャンスがあるかもしれない。

 己を強くするためには、常に強者と戦わなければいけないのだ。常に強い人物を相手にすることこそ、強くなる常套手段。

「それにしても、人間でここまでの強者がいるとはな。どうだ、俺を一戦交わさないか?」

 そう問いかけるが、フォーマはじっと俺の顔を見つめてくるだけだった。

「やっぱり、私あなたのこと知ってる」

「そう、なのか?俺に人間の知り合いは……少ししかいないぞ?」

「あなたが知らなくても、私は知っているはず……でもどこで?」

 フォーマはまた考え込んだ。

 フォーマの頭の中は混乱していた。

(魔王を名乗るこの男の声、どこかで聞いたことがある。そして、この男は悪魔について知っていた。さらに言うと、先代魔王……ユーリを倒した悪魔というのは、私たちを襲った悪魔の少女しかいない。そして、その悪魔の少女を気軽に「あいつ」と呼べるような人物は、私の知っている中で一人しかいない)

 フォーマの考えはまとまった。

「魔王、改めて自己紹介していい?」

「む?」

 いきなりなんだ?

 突然本を閉じたフォーマがその場に跪いた。マレスティーナは知っていたのか、平然とフォーマを見つめている。

 俺だけが何をしているのかとあたふたしていたら、

「魔王、改め……のリーダー」

「っ!」

「お初にお目にかかる。元黒薔薇情報部門幹部のフォーマ、以後お見知り置きを」

「黒薔薇の幹部……」

 黒薔薇という組織は、最初は俺が立ち上げた工作部隊だった。多種族で構成したその舞台は『傀儡』に丸投げし、「好きにしろ」と言って最近は放置していたことを思い出す。

「待て、待ってくれ!黒薔薇は……一体どれほどの規模になっているんだ?」

 最初は数名からなる工作部隊だったはずが、いつの間にか『幹部』という概念が生まれるほど巨大になっていたというのか?

「わかんないけど、私が所属していた頃は配下が数百名いた」

「それは、お前の直属だけの?」

「ん」

 どれだけ巨大になっているんだ!

「ははは!もしかして知らなかったのかい?それは最高に面白いな!」

「くっ……俺は魔王業務が忙しいんだ。いちいち黒薔薇の管理などしていられるか。だから『傀儡』に押し付けていたのに……」

 ……今度、傀儡の元に会いに行く必要ができたな。全く、俺の預かり知らぬところで一体何が起きているというのやら……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界転生は、0歳からがいいよね

八時
ファンタジー
転生小説好きの少年が神様のおっちょこちょいで異世界転生してしまった。 神様からのギフト(チート能力)で無双します。 初めてなので誤字があったらすいません。 自由気ままに投稿していきます。

異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。 そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。 【カクヨムにも投稿してます】

7個のチート能力は貰いますが、6個は別に必要ありません

ひむよ
ファンタジー
「お詫びとしてどんな力でも与えてやろう」 目が覚めると目の前のおっさんにいきなりそんな言葉をかけられた藤城 皐月。 この言葉の意味を説明され、結果皐月は7個の能力を手に入れた。 だが、皐月にとってはこの内6個はおまけに過ぎない。皐月にとって最も必要なのは自分で考えたスキルだけだ。 だが、皐月は貰えるものはもらうという精神一応7個貰った。 そんな皐月が異世界を安全に楽しむ物語。 人気ランキング2位に載っていました。 hotランキング1位に載っていました。 ありがとうございます。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~

暇人太一
ファンタジー
 仲良し3人組の高校生とともに勇者召喚に巻き込まれた、30歳の病人。  ラノベの召喚もののテンプレのごとく、おっさんで病人はお呼びでない。  結局雑魚スキルを渡され、3人組のパシリとして扱われ、最後は儀式の生贄として3人組に殺されることに……。  そんなおっさんの前に厳ついおっさんが登場。果たして病人のおっさんはどうなる!?  この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。

「自重知らずの異世界転生者-膨大な魔力を引っさげて異世界デビューしたら、規格外過ぎて自重を求められています-」

mitsuzoエンターテインメンツ
ファンタジー
 ネットでみつけた『異世界に行ったかもしれないスレ』に書いてあった『異世界に転生する方法』をやってみたら本当に異世界に転生された。  チート能力で豊富な魔力を持っていた俺だったが、目立つのが嫌だったので周囲となんら変わらないよう生活していたが「目立ち過ぎだ!」とか「加減という言葉の意味をもっと勉強して!」と周囲からはなぜか自重を求められた。  なんだよ? それじゃあまるで、俺が自重をどっかに捨ててきたみたいじゃないか!  こうして俺の理不尽で前途多難?な異世界生活が始まりました。  ※注:すべてわかった上で自重してません。

チート転生~チートって本当にあるものですね~

水魔沙希
ファンタジー
死んでしまった片瀬彼方は、突然異世界に転生してしまう。しかも、赤ちゃん時代からやり直せと!?何げにステータスを見ていたら、何やら面白そうなユニークスキルがあった!! そのスキルが、随分チートな事に気付くのは神の加護を得てからだった。 亀更新で気が向いたら、随時更新しようと思います。ご了承お願いいたします。

はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪
ファンタジー
嫌いな両親と同級生から逃げて、アメリカ留学をした帰り道。帰国中の飛行機が事故を起こし、日本の女子高生だった私は墜落死した。特に未練もなかったが、強いて言えば、大好きなもふもふと一緒に暮らしたかった。しかし何故か、剣と魔法の異世界で、貴族の子として転生していた。しかも男の子で。今世の両親はとてもやさしくいい人たちで、さらには前世にはいなかった兄弟がいた。せっかくだから思いっきり、もふもふと戯れたい!惰眠を貪りたい!のんびり自由に生きたい!そう思っていたが、5歳の時に行われる判定の儀という、魔法属性を調べた日を境に、幸せな日常が崩れ去っていった・・・。その後、名を変え別の人物として、相棒のもふもふと共に旅に出る。相棒のもふもふであるズィーリオスの為の旅が、次第に自分自身の未来に深く関わっていき、仲間と共に逃れられない運命の荒波に飲み込まれていく。 ※第二章は全体的に説明回が多いです。 <<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>

処理中です...