上 下
381 / 504

亜神(ミハエル視点)

しおりを挟む
 異端審問官に、いい印象を持っている人はなかなかいないだろう。平たく言えば、教会の汚れ仕事を担うシスターたちのことだ。

 異端審問官は担当する区域に湧いた魔物や、反逆の意志がある人物を排除することを担っている。

 そして、異端審問官はそうしたものを排除した件数と発生から解決にかかる時間で、序列が決まっていた。隊長にまで上り詰めていたミハエルは他の異端審問官から尊敬されるほどの実力と判断力を持っていたのだ。

「では、なぜ服屋を?」

「それは……いわゆる左遷です」

 ミハエルには異端審問官にはなくてはならないものが欠けていた。それは残虐性である。相手を絶対に排除するという固い気持ちを持って女子供関係なく始末することのできる心が必要だった。

 だが、生憎とミハエルはそんなもの持ち合わせておらず、そして

「私には浄化すること以外なにもできません。悪しき心を浄化して任務をこなしていました」

 ミハエルには直接戦闘で役に立つ力をなに一つ持ち合わせていなかった。故に、教会はそんな彼女を別の任務につかせたのである。

 それが、『第二の勇者』の保護だ。

「それが……お嬢様のことなのですね」

「はい。神にお告げはなかなか意訳が難しいそうで、かなり不思議な形で出会ってしまいましたが……」

「名前がないというのは?」

 異端審問官には名前がない。なぜなら名前を必要としないから。

 識別番号のようなものさえあれば、管理可能と教会は判断したのだ。

「それでは、フォーマを知っているのですか?」

「フォーマ?」

「フードを常に被った白い……とにかく真っ白な女性です」

 ミハエルはしばらく考えて、

「いましたね。十数年前に教会を裏切ったとして、指名手配されてた『少女』が」

 話を戻し、ミサリーが本題について聞く。

「神格というのは?」

「神格というのは、簡単にいうと神になるために必要は紋章のことです」

 神格という、神々が持つとされる紋章。それは、神になるために絶対必要な資格であり、その神格があれば通常ではあり得ない奇跡を起こすことができる。

「さっきも言った通り、その力があれば人を生き返らせるなど容易です」

「それは分かりました。でも、なんでミハエルさんにしかできないんですか?」

「それは……私の中に神に近い存在が眠っているからです。私の名前の由来……ミハエルという天使様が私の中にいるんです」

 天使という存在について本当に存在しているのかすらも知らない一部の人たちは少し困惑した色を見せたが、

「なるほど。我を治療したのはその力か」

「はい」

 何千年と生きる仙人がそういうのだからそうなのだろう……そう全員が納得する。

「要はその天使様……もしくはミハエルさんが神格を手に入れれば、神の力を使えるようになると?」

「その通りです」

「どうやって……?」

「それは分かりません」

「即答ですか!?」

「こればっかりは神に聞かないと分かりません。ですが、神と言っても色々な種類がいますよね」

 神という存在は地上に降りてくることはなく、常にどこにも存在していない。いるとすればそれは天界だ。

 そんな人の元にいく時間があれば、あの……ベアトリスを殺した憎き男を殺害する方法を探した方がよっぽど早い。

 ではどうするのか?

「地上にいる神……『亜神』を探せばいいんです!」

「亜神とは?」

 自力で神格を手に入れたもしくは、神から神格を与えられた者たち。姿形はさまざまだが、それら全てが強大な力を手にしており、彼らならば神格の入手の仕方もわかるだろう。

「となれば、日ノ本はうってつけですね。昔から祭られている神が多いとよく聞きます」

「神社のことですね。ライ様、この町に神社はありますか?」

「あるわよ、でも壊れてしまっていて……」

 神社が壊れた場合、神はどうなるのだろうか?そんな考えが一同の頭によぎるが、

「行ってみなきゃ始まりません。早くいきましょう」

「そうですね」

 ミハエルの一言でみんなが立ち上がる。ライ様の案内のもと、みんなが組合の外へと出ていく。私も出ようとした時、

「おい」

「なんですか?」

 仙人さん……八呪の仙人が私に声をかけてきた。

「神になる、それがどういう意味なのかわかっているのだろうな?」

「……っ!はい」

 神になる……それは一体どういう意味なのか、それはおそらく長く生きてきた八呪の仙人が一番わかっているのだろう。

「亜神とはいえ、人前に姿を簡単に晒すことはできない……んだぞ?」

「構いません。私は……ベアトリスさんを助けたいと思ったんです。それだけで十分なんです」

「……そうか」

 そういうと、八呪の仙人も組合を出ていく。私もその後に続いた。


 ♦️


 神社があるとは言っていたが、思った以上に近所にあった。拍子抜けするような、緊張するような気分。

 それよりも怖気の方が大きい。

(亜神がここにいなかったら……時間がさらにかかってしまう。一刻も早くベアトリスさんを蘇らせなくちゃいけないのに……)

 でも、ここで止まっててもなにも始まらない、そう言ったのは自分だから……勇気を出して鳥居の前に立つ。そして、私が初めに一歩を踏み出し鳥居の中を潜った時、

「なにっ?」

 ブワッと向かい風が吹き、金色の粒子のようなものが私の体の周りに飛ぶ。視界に映る景色が一変し、そこには私しかいない……真っ白な世界が広がっていた。

 その中にポツンと何かが落ちたかのように地面がゆらめいた。

「あなたは……」

 波紋が起きた中心にいるその大きな白い狐を見て、私は亜神だと確信した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界転生は、0歳からがいいよね

八時
ファンタジー
転生小説好きの少年が神様のおっちょこちょいで異世界転生してしまった。 神様からのギフト(チート能力)で無双します。 初めてなので誤字があったらすいません。 自由気ままに投稿していきます。

星の記憶

鳳聖院 雀羅
ファンタジー
宇宙の精神とは、そして星の意思とは… 日本神話 、北欧神話、ギリシャ神話、 エジプト神話、 旧新聖書創世記 など世界中の神話や伝承等を、融合させ、独特な世界観で、謎が謎を呼ぶSFファンタジーです 人類が抱える大きな課題と試練 【神】=【『人』】=【魔】 の複雑に絡み合う壮大なるギャラクシーファンタジーです

暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~

暇人太一
ファンタジー
 仲良し3人組の高校生とともに勇者召喚に巻き込まれた、30歳の病人。  ラノベの召喚もののテンプレのごとく、おっさんで病人はお呼びでない。  結局雑魚スキルを渡され、3人組のパシリとして扱われ、最後は儀式の生贄として3人組に殺されることに……。  そんなおっさんの前に厳ついおっさんが登場。果たして病人のおっさんはどうなる!?  この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。

「自重知らずの異世界転生者-膨大な魔力を引っさげて異世界デビューしたら、規格外過ぎて自重を求められています-」

mitsuzoエンターテインメンツ
ファンタジー
 ネットでみつけた『異世界に行ったかもしれないスレ』に書いてあった『異世界に転生する方法』をやってみたら本当に異世界に転生された。  チート能力で豊富な魔力を持っていた俺だったが、目立つのが嫌だったので周囲となんら変わらないよう生活していたが「目立ち過ぎだ!」とか「加減という言葉の意味をもっと勉強して!」と周囲からはなぜか自重を求められた。  なんだよ? それじゃあまるで、俺が自重をどっかに捨ててきたみたいじゃないか!  こうして俺の理不尽で前途多難?な異世界生活が始まりました。  ※注:すべてわかった上で自重してません。

だって私、悪役令嬢なんですもの(笑)

みなせ
ファンタジー
転生先は、ゲーム由来の異世界。 ヒロインの意地悪な姉役だったわ。 でも、私、お約束のチートを手に入れましたの。 ヒロインの邪魔をせず、 とっとと舞台から退場……の筈だったのに…… なかなか家から離れられないし、 せっかくのチートを使いたいのに、 使う暇も無い。 これどうしたらいいのかしら?

異世界転生したら何でも出来る天才だった。

桂木 鏡夜
ファンタジー
高校入学早々に大型トラックに跳ねられ死ぬが気がつけば自分は3歳の可愛いらしい幼児に転生していた。 だが等本人は前世で特に興味がある事もなく、それは異世界に来ても同じだった。 そんな主人公アルスが何故俺が異世界?と自分の存在意義を見いだせずにいるが、10歳になり必ず受けなければならない学校の入学テストで思わぬ自分の才能に気づくのであった。 =========================== 始めから強い設定ですが、徐々に強くなっていく感じになっております。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

処理中です...