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亜神(ミハエル視点)
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異端審問官に、いい印象を持っている人はなかなかいないだろう。平たく言えば、教会の汚れ仕事を担うシスターたちのことだ。
異端審問官は担当する区域に湧いた魔物や、反逆の意志がある人物を排除することを担っている。
そして、異端審問官はそうしたものを排除した件数と発生から解決にかかる時間で、序列が決まっていた。隊長にまで上り詰めていたミハエルは他の異端審問官から尊敬されるほどの実力と判断力を持っていたのだ。
「では、なぜ服屋を?」
「それは……いわゆる左遷です」
ミハエルには異端審問官にはなくてはならないものが欠けていた。それは残虐性である。相手を絶対に排除するという固い気持ちを持って女子供関係なく始末することのできる心が必要だった。
だが、生憎とミハエルはそんなもの持ち合わせておらず、そして
「私には浄化すること以外なにもできません。悪しき心を浄化して任務をこなしていました」
ミハエルには直接戦闘で役に立つ力をなに一つ持ち合わせていなかった。故に、教会はそんな彼女を別の任務につかせたのである。
それが、『第二の勇者』の保護だ。
「それが……お嬢様のことなのですね」
「はい。神にお告げはなかなか意訳が難しいそうで、かなり不思議な形で出会ってしまいましたが……」
「名前がないというのは?」
異端審問官には名前がない。なぜなら名前を必要としないから。
識別番号のようなものさえあれば、管理可能と教会は判断したのだ。
「それでは、フォーマを知っているのですか?」
「フォーマ?」
「フードを常に被った白い……とにかく真っ白な女性です」
ミハエルはしばらく考えて、
「いましたね。十数年前に教会を裏切ったとして、指名手配されてた『少女』が」
話を戻し、ミサリーが本題について聞く。
「神格というのは?」
「神格というのは、簡単にいうと神になるために必要は紋章のことです」
神格という、神々が持つとされる紋章。それは、神になるために絶対必要な資格であり、その神格があれば通常ではあり得ない奇跡を起こすことができる。
「さっきも言った通り、その力があれば人を生き返らせるなど容易です」
「それは分かりました。でも、なんでミハエルさんにしかできないんですか?」
「それは……私の中に神に近い存在が眠っているからです。私の名前の由来……ミハエルという天使様が私の中にいるんです」
天使という存在について本当に存在しているのかすらも知らない一部の人たちは少し困惑した色を見せたが、
「なるほど。我を治療したのはその力か」
「はい」
何千年と生きる仙人がそういうのだからそうなのだろう……そう全員が納得する。
「要はその天使様……もしくはミハエルさんが神格を手に入れれば、神の力を使えるようになると?」
「その通りです」
「どうやって……?」
「それは分かりません」
「即答ですか!?」
「こればっかりは神に聞かないと分かりません。ですが、神と言っても色々な種類がいますよね」
神という存在は地上に降りてくることはなく、常にどこにも存在していない。いるとすればそれは天界だ。
そんな人の元にいく時間があれば、あの……ベアトリスを殺した憎き男を殺害する方法を探した方がよっぽど早い。
ではどうするのか?
「地上にいる神……『亜神』を探せばいいんです!」
「亜神とは?」
自力で神格を手に入れたもしくは、神から神格を与えられた者たち。姿形はさまざまだが、それら全てが強大な力を手にしており、彼らならば神格の入手の仕方もわかるだろう。
「となれば、日ノ本はうってつけですね。昔から祭られている神が多いとよく聞きます」
「神社のことですね。ライ様、この町に神社はありますか?」
「あるわよ、でも壊れてしまっていて……」
神社が壊れた場合、神はどうなるのだろうか?そんな考えが一同の頭によぎるが、
「行ってみなきゃ始まりません。早くいきましょう」
「そうですね」
ミハエルの一言でみんなが立ち上がる。ライ様の案内のもと、みんなが組合の外へと出ていく。私も出ようとした時、
「おい」
「なんですか?」
仙人さん……八呪の仙人が私に声をかけてきた。
「神になる、それがどういう意味なのかわかっているのだろうな?」
「……っ!はい」
神になる……それは一体どういう意味なのか、それはおそらく長く生きてきた八呪の仙人が一番わかっているのだろう。
「亜神とはいえ、人前に姿を簡単に晒すことはできない……ベアトリスたちに会えなくなるんだぞ?」
「構いません。私は……ベアトリスさんを助けたいと思ったんです。それだけで十分なんです」
「……そうか」
そういうと、八呪の仙人も組合を出ていく。私もその後に続いた。
♦️
神社があるとは言っていたが、思った以上に近所にあった。拍子抜けするような、緊張するような気分。
それよりも怖気の方が大きい。
(亜神がここにいなかったら……時間がさらにかかってしまう。一刻も早くベアトリスさんを蘇らせなくちゃいけないのに……)
でも、ここで止まっててもなにも始まらない、そう言ったのは自分だから……勇気を出して鳥居の前に立つ。そして、私が初めに一歩を踏み出し鳥居の中を潜った時、
「なにっ?」
ブワッと向かい風が吹き、金色の粒子のようなものが私の体の周りに飛ぶ。視界に映る景色が一変し、そこには私しかいない……真っ白な世界が広がっていた。
その中にポツンと何かが落ちたかのように地面がゆらめいた。
「あなたは……」
波紋が起きた中心にいるその大きな白い狐を見て、私は亜神だと確信した。
異端審問官は担当する区域に湧いた魔物や、反逆の意志がある人物を排除することを担っている。
そして、異端審問官はそうしたものを排除した件数と発生から解決にかかる時間で、序列が決まっていた。隊長にまで上り詰めていたミハエルは他の異端審問官から尊敬されるほどの実力と判断力を持っていたのだ。
「では、なぜ服屋を?」
「それは……いわゆる左遷です」
ミハエルには異端審問官にはなくてはならないものが欠けていた。それは残虐性である。相手を絶対に排除するという固い気持ちを持って女子供関係なく始末することのできる心が必要だった。
だが、生憎とミハエルはそんなもの持ち合わせておらず、そして
「私には浄化すること以外なにもできません。悪しき心を浄化して任務をこなしていました」
ミハエルには直接戦闘で役に立つ力をなに一つ持ち合わせていなかった。故に、教会はそんな彼女を別の任務につかせたのである。
それが、『第二の勇者』の保護だ。
「それが……お嬢様のことなのですね」
「はい。神にお告げはなかなか意訳が難しいそうで、かなり不思議な形で出会ってしまいましたが……」
「名前がないというのは?」
異端審問官には名前がない。なぜなら名前を必要としないから。
識別番号のようなものさえあれば、管理可能と教会は判断したのだ。
「それでは、フォーマを知っているのですか?」
「フォーマ?」
「フードを常に被った白い……とにかく真っ白な女性です」
ミハエルはしばらく考えて、
「いましたね。十数年前に教会を裏切ったとして、指名手配されてた『少女』が」
話を戻し、ミサリーが本題について聞く。
「神格というのは?」
「神格というのは、簡単にいうと神になるために必要は紋章のことです」
神格という、神々が持つとされる紋章。それは、神になるために絶対必要な資格であり、その神格があれば通常ではあり得ない奇跡を起こすことができる。
「さっきも言った通り、その力があれば人を生き返らせるなど容易です」
「それは分かりました。でも、なんでミハエルさんにしかできないんですか?」
「それは……私の中に神に近い存在が眠っているからです。私の名前の由来……ミハエルという天使様が私の中にいるんです」
天使という存在について本当に存在しているのかすらも知らない一部の人たちは少し困惑した色を見せたが、
「なるほど。我を治療したのはその力か」
「はい」
何千年と生きる仙人がそういうのだからそうなのだろう……そう全員が納得する。
「要はその天使様……もしくはミハエルさんが神格を手に入れれば、神の力を使えるようになると?」
「その通りです」
「どうやって……?」
「それは分かりません」
「即答ですか!?」
「こればっかりは神に聞かないと分かりません。ですが、神と言っても色々な種類がいますよね」
神という存在は地上に降りてくることはなく、常にどこにも存在していない。いるとすればそれは天界だ。
そんな人の元にいく時間があれば、あの……ベアトリスを殺した憎き男を殺害する方法を探した方がよっぽど早い。
ではどうするのか?
「地上にいる神……『亜神』を探せばいいんです!」
「亜神とは?」
自力で神格を手に入れたもしくは、神から神格を与えられた者たち。姿形はさまざまだが、それら全てが強大な力を手にしており、彼らならば神格の入手の仕方もわかるだろう。
「となれば、日ノ本はうってつけですね。昔から祭られている神が多いとよく聞きます」
「神社のことですね。ライ様、この町に神社はありますか?」
「あるわよ、でも壊れてしまっていて……」
神社が壊れた場合、神はどうなるのだろうか?そんな考えが一同の頭によぎるが、
「行ってみなきゃ始まりません。早くいきましょう」
「そうですね」
ミハエルの一言でみんなが立ち上がる。ライ様の案内のもと、みんなが組合の外へと出ていく。私も出ようとした時、
「おい」
「なんですか?」
仙人さん……八呪の仙人が私に声をかけてきた。
「神になる、それがどういう意味なのかわかっているのだろうな?」
「……っ!はい」
神になる……それは一体どういう意味なのか、それはおそらく長く生きてきた八呪の仙人が一番わかっているのだろう。
「亜神とはいえ、人前に姿を簡単に晒すことはできない……ベアトリスたちに会えなくなるんだぞ?」
「構いません。私は……ベアトリスさんを助けたいと思ったんです。それだけで十分なんです」
「……そうか」
そういうと、八呪の仙人も組合を出ていく。私もその後に続いた。
♦️
神社があるとは言っていたが、思った以上に近所にあった。拍子抜けするような、緊張するような気分。
それよりも怖気の方が大きい。
(亜神がここにいなかったら……時間がさらにかかってしまう。一刻も早くベアトリスさんを蘇らせなくちゃいけないのに……)
でも、ここで止まっててもなにも始まらない、そう言ったのは自分だから……勇気を出して鳥居の前に立つ。そして、私が初めに一歩を踏み出し鳥居の中を潜った時、
「なにっ?」
ブワッと向かい風が吹き、金色の粒子のようなものが私の体の周りに飛ぶ。視界に映る景色が一変し、そこには私しかいない……真っ白な世界が広がっていた。
その中にポツンと何かが落ちたかのように地面がゆらめいた。
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