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ミハエルの正体(ミハエル視点)
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「おい!おい!ミサリー!目を覚ませ。撤退していったぞ、反乱軍の奴らが」
「……そう、ですか」
あの男が最後に言った言葉が心の中に引っかかる。お嬢様がそんな簡単に死ぬわけない。
それは分かっているのだけど、あの男から感じた並々ならぬ気配はそれを実現させるに十分足るように感じてしまった。
「冒険者組合に戻りましょう、ユーリちゃんについても皆さんに話さなければなりませんし」
「そうだな。戻ろう……おい、お前ら!周囲を警戒しておけ!夜になってもかわるがわるで警備だ!」
♦
眠気を感じていた。というよりも脱力感に苛まれていた。
「ユーリちゃん大丈夫かな……お嬢様は……」
冒険者組合が目の前に見えてきて、そのいつもと変わらない扉を開ける。その中にいたのは組合のただ一人の受付さんに、ライ様に坊ちゃま、そしてミハエルさん。
そして、もう一人仙人の人がいた。
「えっ?」
思わず声を上げた。みんなが私のほうを見る。その顔は、とても暗いように見えた。
「その……持たれているそれは、誰なんですか?」
仙人の腕の中に抱かれている「誰か」の足がはみ出して見える。その足はとても細くて、まるで「子供」のもののようだった。
「嘘でしょう?そんなわけないよね?」
「ミサリー……」
誰が私の名前を呼んだのかわからなくなるくらい、私はもうその腕の中にしか集中できなかった。小走りで近づき、肩を掴んでこちらを振り向かせる。
そこに見えたのは、
「あっ……あぁ……お嬢様、目を、目を覚ましてください……」
ぐっすりと眠るベアトリスお嬢様の姿だった。
「お嬢様……どうして?いつも、いつも危険な中に飛び込んでも笑って帰ってきてくれたのに!目を覚ましてください!目を……」
身体全身から、力が抜け膝から崩れ落ちる。わなわなと震える手の上に大粒の涙が落ちてくる。それは紛れもない私の涙だった。
「ミサリー……」
「ライ様……」
何も言わずにライ様は私を抱きしめた。それは……抱きしめられるのは、お嬢様にしてほしかった。
「……っああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ――!」
私の大きな声だけが組合の中に響いていく。人前で泣くことに恥じなんて感じなかった。お嬢様のことで、頭がいっぱいだったのだから。
♦
「落ち着いた、ミサリー?」
「……ずっと、落ち着いてます」
ライ様になだめられて、私は少しだけ泣き止んだ。
「お嬢様を、生き返らせる方法はないんですか……?」
泣き止んで最初にそう聞く。あるわけもない、とみんなが諦めていたことを再度思い出したかのように顔を伏せていた。
私もその様子を見て、どこか心の中では察しがついていた。
私もみんなと同じように顔を伏せた。だが、
「あります」
ただ一人だけ顔を上げた。
「ミハエル、さん?」
「あります。生き返らせる方法」
「それは……本当なんですか?」
ミハエルさんのその言葉を疑ってしまった自分に嫌な感情を覚えつつも、私はその返答を待っていた。
「本当です。そして、それは私にしかできないことなんです」
「どうすれば……どうすればお嬢様を蘇らせることが出来るんですか?」
すがるように、声を絞り出す。だが、ミハエルさんは優しげのある声で答えた。
「私が……神になればいい」
「はっ?」
「何をおかしなことを……と思われても、仕方ないとはわかっています。私は今まで本当の自分を隠していたから。でも、ベアトリスさんに死んでほしくないんです!半信半疑でもいいです、話をもう少し聞いてほしいんです……」
その声は優しげがありつつも、深い悲しみの含まれた、震えそうな声を我慢しているように感じられた。
「大丈夫ですよ、ミハエル。ミサリーだってあなたのことを疑っているわけじゃないはずよ」
ライ様がこちらを向いて笑顔を向ける。ひきつった笑顔だったが、私はそれでも十分すぎるほど救われた。
「もちろんです。少しでも可能性があるのなら……話を聞かせてください」
「ミサリーさん……みなさん、ありがとうございます」
深いお辞儀と共に、あげられた顔はどこか決心のついた顔に思えた。
「神になる……なんて突拍子もないことのように思われるかもしれませんけど、私が神になれば……正確には『神格』を宿すことが出来たら死んだ人間を蘇らせることが出来るようになります。そうすれば、ベアトリスさんも例外なく蘇らせることが出来るはずです!」
「どういうことかまだよくわからないんですけど……ミハエルさん、あなたは一体何者なんですか?」
これには仙人さんの眉も動いた。みんながそれに興味を持っていたようで、ミハエルのほうを向く。
「……身の上話で使ってきた『服屋』というのは、『教会』に命じられたからやっていただけなんですよね」
「教会?」
「私は、異端審問官第一隊隊長。名前は……ありません」
そこから少しばかり、ミハエルによる身の上話は続く……。
「……そう、ですか」
あの男が最後に言った言葉が心の中に引っかかる。お嬢様がそんな簡単に死ぬわけない。
それは分かっているのだけど、あの男から感じた並々ならぬ気配はそれを実現させるに十分足るように感じてしまった。
「冒険者組合に戻りましょう、ユーリちゃんについても皆さんに話さなければなりませんし」
「そうだな。戻ろう……おい、お前ら!周囲を警戒しておけ!夜になってもかわるがわるで警備だ!」
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眠気を感じていた。というよりも脱力感に苛まれていた。
「ユーリちゃん大丈夫かな……お嬢様は……」
冒険者組合が目の前に見えてきて、そのいつもと変わらない扉を開ける。その中にいたのは組合のただ一人の受付さんに、ライ様に坊ちゃま、そしてミハエルさん。
そして、もう一人仙人の人がいた。
「えっ?」
思わず声を上げた。みんなが私のほうを見る。その顔は、とても暗いように見えた。
「その……持たれているそれは、誰なんですか?」
仙人の腕の中に抱かれている「誰か」の足がはみ出して見える。その足はとても細くて、まるで「子供」のもののようだった。
「嘘でしょう?そんなわけないよね?」
「ミサリー……」
誰が私の名前を呼んだのかわからなくなるくらい、私はもうその腕の中にしか集中できなかった。小走りで近づき、肩を掴んでこちらを振り向かせる。
そこに見えたのは、
「あっ……あぁ……お嬢様、目を、目を覚ましてください……」
ぐっすりと眠るベアトリスお嬢様の姿だった。
「お嬢様……どうして?いつも、いつも危険な中に飛び込んでも笑って帰ってきてくれたのに!目を覚ましてください!目を……」
身体全身から、力が抜け膝から崩れ落ちる。わなわなと震える手の上に大粒の涙が落ちてくる。それは紛れもない私の涙だった。
「ミサリー……」
「ライ様……」
何も言わずにライ様は私を抱きしめた。それは……抱きしめられるのは、お嬢様にしてほしかった。
「……っああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ――!」
私の大きな声だけが組合の中に響いていく。人前で泣くことに恥じなんて感じなかった。お嬢様のことで、頭がいっぱいだったのだから。
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「落ち着いた、ミサリー?」
「……ずっと、落ち着いてます」
ライ様になだめられて、私は少しだけ泣き止んだ。
「お嬢様を、生き返らせる方法はないんですか……?」
泣き止んで最初にそう聞く。あるわけもない、とみんなが諦めていたことを再度思い出したかのように顔を伏せていた。
私もその様子を見て、どこか心の中では察しがついていた。
私もみんなと同じように顔を伏せた。だが、
「あります」
ただ一人だけ顔を上げた。
「ミハエル、さん?」
「あります。生き返らせる方法」
「それは……本当なんですか?」
ミハエルさんのその言葉を疑ってしまった自分に嫌な感情を覚えつつも、私はその返答を待っていた。
「本当です。そして、それは私にしかできないことなんです」
「どうすれば……どうすればお嬢様を蘇らせることが出来るんですか?」
すがるように、声を絞り出す。だが、ミハエルさんは優しげのある声で答えた。
「私が……神になればいい」
「はっ?」
「何をおかしなことを……と思われても、仕方ないとはわかっています。私は今まで本当の自分を隠していたから。でも、ベアトリスさんに死んでほしくないんです!半信半疑でもいいです、話をもう少し聞いてほしいんです……」
その声は優しげがありつつも、深い悲しみの含まれた、震えそうな声を我慢しているように感じられた。
「大丈夫ですよ、ミハエル。ミサリーだってあなたのことを疑っているわけじゃないはずよ」
ライ様がこちらを向いて笑顔を向ける。ひきつった笑顔だったが、私はそれでも十分すぎるほど救われた。
「もちろんです。少しでも可能性があるのなら……話を聞かせてください」
「ミサリーさん……みなさん、ありがとうございます」
深いお辞儀と共に、あげられた顔はどこか決心のついた顔に思えた。
「神になる……なんて突拍子もないことのように思われるかもしれませんけど、私が神になれば……正確には『神格』を宿すことが出来たら死んだ人間を蘇らせることが出来るようになります。そうすれば、ベアトリスさんも例外なく蘇らせることが出来るはずです!」
「どういうことかまだよくわからないんですけど……ミハエルさん、あなたは一体何者なんですか?」
これには仙人さんの眉も動いた。みんながそれに興味を持っていたようで、ミハエルのほうを向く。
「……身の上話で使ってきた『服屋』というのは、『教会』に命じられたからやっていただけなんですよね」
「教会?」
「私は、異端審問官第一隊隊長。名前は……ありません」
そこから少しばかり、ミハエルによる身の上話は続く……。
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