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八光

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『八光御顕邪払真人』というのが、あの男の呼び名だそうだ。

 八光の仙人はその名前の通り、八つの光……もとい祝福のようなものをその身に受けて生まれた文字通りの神に愛された子だ。そして、その性格はとても温厚で争いを好むような性格ではなかったそうだ。

 今とだいぶ違うじゃん、と思ったがそれもそのはず今の八光の仙人は心が歪んでしまっている。

 八呪の仙人とは対をなす形で生まれた八光の仙人は、自分よりもか弱い人間たちや小動物たちのことを好いていて、己の持つ力で守っていた。だが、その方法は傷つけるでも殺すでもなく、対話という手段で。

「どういうこと?」

「話は最後まで聞け」

 例えば、魔物と会話が通じるわけがない。知能が全くないとは言わないが、会話できるほどの頭脳を持っていない魔物に対話を求めたところで意味がないわけだが、そこは八光の仙人。

 神に愛されているだけあって、なんでもできてしまう。神様からもらった光の祝福をもってして会話は成立するのである。

 魔物に襲われそうになっている人々がいれば対話で解決し、人間同士のいざこざも殴り合いではなく対話で解決するように促すほどに争い事が好きではなかったらしい。

 だが、ある時八光の仙人が唐突に言ったそうだ。

「神が我らを捨てたとな」

「それって……」

『世界の言葉』のスキルの説明を受ける時にツムちゃんから聞いた話だ。世界を作った神様はこの世から離れていってしまった。

 そして、代わりとばかりに女神が現れたのだ。

「っていうことは神様がいなくなる前からスキルがあったの?」

 《否定します。八光の仙人は個人的に神と親睦を深めていたのでしょう》

 愛されすぎじゃん。

「話を戻すぞ」

 神に捨てられたと八光の仙人は嘆き悲しんだが、友人である八呪の仙人はそんな彼を見捨てずに寄り添った。

 話を聞いてみれば、彼はこう言ったそうだ。

『争いの絶えない世界だから神はこの世界を捨てたんだ。だったら、俺がこの世界から争いをなくして見せる』と。

 私の予想ではおそらくこの時にスキルを獲得したんじゃないかと思う。

 そして、争いをなくすためには一体どうすればいいのか八光の仙人はずっと悩んだ。話し合いで解決しなかったからこそ、神に見捨てられたのだ。では、どうすれば?

「そう悩んでいるときに、聖戦が起きた」

 ユーリがまだ魔王じゃない頃の話まできたわけだ。

 その聖戦において、東の島国が巻き添えを食らわないわけがなく、

「我はその戦争で深傷を負った」

「あんなに強いのに?」

「我より強い奴はゴロゴロといた。それが聖戦だ」

 聖戦で友人が深傷を負い、死にかけたことで八光の仙人は決心したのだそうだ。

 争い無くして争いは無くならないと。

 そして、聖戦で悪虐非道のかぎりを尽くしていた者たちを次々に殺していった。

 彼は光の祝福を受けていて、なおかつ仙人だ。仙人は元々不老不死と言われていて、なおかつそこに祝福の加護が追加されると、それはもう本物の不死に近いレベルだ。

 聖戦が終わるまでその戦いは続き、聖戦が終わったと同時に、

「奴は狂った」

 元々争いが嫌いだったのに、無理して人を殺す。世界のために。

「なんで?言い方悪いけど……仙人なんでしょ?そう簡単に狂ったりする?」

 《おそらく権限レベルのせいでしょう》

 どういうこと?

 《権限レベルが上がり、徐々に真実へ辿り着いた結果でしょう。覚悟が足りなければ、狂ってしまうに足ると思われます》

 えちょっと待って、それだと私も結構危うい立ち位置にいるってことになっちゃうけど?

 《覚悟してください》

 嫌ああああああ!?

「狂ってしまったあいつは、穏やかな性格はどこかへいってしまった。人を駒のように扱うまでに成り下がったのだ」

 そこまでに人を狂わすのか、真実とやらは。

「だが、それでも我は奴を見捨てることはできない。あやつが我を見捨てなかったように」

「そう……なら、もちろん助けなくっちゃね!」

「ああ、もとよりそのつもりだ」

 とりあえず狂ってしまった原因はなんとなくわかった。まあ、私でもそれはわからないけど。

 けど、助けられないわけじゃなさそう。

「記憶を消してみるとかどう?」

「記憶?」

「八光の仙人はね、この世界の真実的なのを知っちゃって狂ったんだよ」

「そう、なのか……」

「だから、記憶を消してしまえばきっと全てが元通りになるはず!」

 全てが……と、都合よく行くかはわからないけど、試してみないことには始まらない。

「だが、記憶を消す物なんて持っているのか?」

「ない!」

 私は堂々と言い切る。

「だから、伝手を頼って探す!」

「伝手?」

「そうだよ」

 ひとまず方針は決まったかな。

「でも、できる限り急がないと……反乱軍がまた攻めてきたらそれどころじゃなくなっちゃう」

「なら、反乱軍はしばらくの間我が牽制しよう」

「え?」

「問題ない。所詮は人間、少し脅かせば引っ込むだろう」

 そうなってくると、少しの間時間をかけることができる。

「じゃあ、また明日くるわ」

「ああ」

 そう言って、私は『屋敷』へ転移するのだった。
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