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もう一つの反乱(マレスティーナ視点)

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前書き 予約投稿を忘れていました。待っていた方すみません、投稿頻度は変わらず八本です。何時になっていようと必ず八本は投稿するので、気長にお待ちください。 










 その時、言葉を紡ぐ者が声を上げた。

 《確認しました。個体名、ベアトリスが条件を満たしたため、称号『小さな勇者』が『真なる勇者』へ覚醒しました。これにより、ステータスの増大及びスキル『世界の言葉』を獲得しました。なお、この声はスキル『世界の言葉』を持つ者全員に共有されます》

「ついに二人目か……」

「どうしたの」

「ん?ああ、いや何でもないさ」

 フォーマの問いかけをはぐらかしつつ、内心で歓喜の声をあげる。

(ようやくだ、ようやく二人目の選ばれた者が出た)

 今まで何百年生きてきて、この『世界』に選ばれた人物は何人もいた。だが、そのほとんどは既にこの世にはいない。

 長年一人で新たな選抜者を探していた。

「ちょっと外に出てくるよ」

 ベアトリス・フォン・アナトレス

 我が友人メアリの娘。

 選抜者になることを期待していた勇者たちはことごとく死んでいったが、メアリは違った。世界に選ばれた仲間だった。

 なのにも関わらず、ちょっとした油断で死んでしまった。どうやら全世界の人間の記憶を操作し、存在を忘れさせていたらしい。

 だから私も殺される前に気づけなかった。

「選抜者の娘もまた選抜者か……」

 唯一、私が勝てないと思った相手、それがメアリだった。

 大賢者様のお得意の結界魔法は膨大な魔力の前に捩じ伏せられ、時空間魔法は発動する暇さえ与えてもらえなかった。

 おかしくない?大賢者として何百年生きている私が、魔力量で負けたんだよ?それに、私の強化された動体視力じゃ追いきれないほどの速度で斬りかかってきたことを思い出すと、今でもチートだと思う。

 もし、メアリが私と同じように何百年もの経験を積めば、いくら女神だろうと敗北していたことだろう。

「だけど、メアリはもういない」

 メアリにすら勝てなかった私が女神に勝てるわけがない。仲間が必要だ。

 久しぶりに現れた仲間はとんだおチビちゃんだけどね。

「成人したての子供が、よもや私に迫る勢いとは面白い」

 年の差は900歳以上なのにね。

「どこまで行っても私はただの凡人だったわけだ」

 小さな勇者を獲得した時でさえ、一部のステータスは私を上回っていた。であれば、真なる勇者へと生まれ変わった彼女はどれほどのステータスなのか。

 外に出て、一度深呼吸を挟んでからベアトリスを探す。

 アースアイはこういう時に便利だ。世界で起きているあらゆる情報を言葉を紡ぐ者の補助によって得られるのだから。

「見つけた。さあて、ステータスを覗かせてもらうよ」

 ちらりとベアトリスのステータスを覗こうとする。

 その時、彼女の視線が見えていないはずの私に向いた。

「おわ!もうそこまで行ったか」

 ばれかけたのはいつぶりか。でもまあ、ステータスは見れたしいっか。

「もう既にレベルが違う。筋力値、俊敏値……いや、魔力値以外は全て負けたのかな?成長が早いねぇ……」

 魔力値で負けない限り、私の結界は破れない。どんなにステータスが高くても私には勝てないだろう、まだ。

「メアリは30代だったかな?死んだのは……それまでに彼女を超えてもらわないと……また、殺されてほしくはないからね」

 彼女を失ったら、私は生きる気力を失うことだろう。

「日ノ本なんて、危険な島に行っちゃって……君が死んだら、私がその時全てを終わらせてあげよう」

 心の中でそう誓う。

「さあ、そろそろ休憩でもするか」

 長年動き回り続けてきた。戦場でも、過酷な環境でも、平和な環境でもどこへ行っても選抜者を探し続けていたが、もう休んでもいいだろう。

「休暇だ。そろそろ聖女様に捕まってやるかな」

 私を探して彷徨っている先代聖女。以前、ベアトリスに接触していたからちょっとびっくりした。

「ミネルのやつに会うのもそうだが、王国もかなり不安定な状況らしいから、国王にも顔を出しておくか」

 時空を歪めて、空間をつなげる。ただの転移よりもこちらの方が慣れ親しんでいるぶん、発動が楽だ。

「ちわー、元気してるー?」

「は?」

 どうやらここは玉座の間ではないらしい。目の前にいる驚きで固まった国王を放っておいて、あたりを見渡すと知らない人物が何人もいた。

「んー?会議中だった?何について話してたのかな?」

「え、衛兵!誰か、衛兵を連れて来い!」

 知らない議員の一人がそう騒ぎ立てる。が、それを国王が止める。

「やめんか、消し炭にされたいのか?」

「陛下?どうなさったのですか?」

「はぁ……少しはもっとまともな登場の仕方はないのか、大賢者マレスティーナ」

 その名を聞いた瞬間、場の空気は驚愕と疑心に満ちた。

「三十年ぶりくらいか?よく覚えてないが」

「大体そんぐらいだね、そんなに老けたんだねーあの坊やが」

「黙らんか、私にタメ語で話してくるのは家族アグナムを除いて二人だけだぞ?」

「もう一人はベアトリス君かい?」

 もはや会議をする雰囲気ではなく、国王と大賢者の雑談の場と化していた。

「その通りだ。だが、ベアトリスはもっと可愛げがある。お前のような失礼ではないぞ?」

「まあまあ、私と君の中じゃないか♪」

「全く……」

「それで?会議では何を話していたの?」

 そう聞いて見たところ、議員はみんな暗い顔をしていた。

「実は、隣国の獣王国で反乱が起こったんだ」

「えぇ~それは大変だね~」

「真面目に聞けばか。それで、こちらから応援を寄越したいのだが、どうにも敵側の将軍が強すぎてな。太刀打ちできないらしいんだ。こちらとしても兵を無駄死にさせる気はないから、どうするべきか話し合っていた……私の娘はいっそのこと物資補給だけをすることを前提に、他国に協力するように要請するという意見が出た。それについて話していた」

 何だか面倒なことをしているな。

 それにしても、あの獣王国で反乱とは……。

 少しばかり目で覗いてみる。そこに映っているのは、黒薔薇という組織の女だ。幹部だったか?戦うのが好きないかれた女だと記憶している。

「じゃあ私が出てあげようか?」

「何だと?」

「ぶっちゃけ、王国にいる人で将軍……『真獣』に勝てるの、私とベアトリスだけだしね~。ベアトリス君には、極秘任務任せてるんでしょぉ~」

 そういうと、議員は再び驚き顔を見合わせている。

「極秘任務をバラすな!」

「あれあれ?この人たちにも隠していたのかな?それは悪いことをしたね」

「まあいい、とにかくお前が出てくれるのであればこちらとしても助かる……行ってくれるか?」

 笑みを作り、私はその場で跪く。

「かしこまりました、陛下♪」
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