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お兄様

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 いきなりのことでその場に呆然と立ち尽くしていた。

「なんだったのあいつ……」

 仙人と言ったか?仙人とはまずそもそもなんなんだ?知識がないせいで、どういう人物なのか全くわからなかった。

 だが確かなことは、俗世で暮らしている民を呪うのが目的であるということくらいであろうか?呪いの仙人ということはきっとそういうことなのだろう。

 そういえば、黒薔薇の幹部に『邪仙』というやつがいた気がする。もしかして、さっきのあいつがそうなのかもしれない。

「とりあえず、進まなきゃ!」

 この先には一番でかい屋敷が見える。そこは依然として騒がしく、きっとまだ中には取り残されている人もいるだろう。

 既に屋敷の中は火の勢いが落ち着いてきたらしく、大したほど燃えてはいない。ゆっくりと慎重に進んでいくと、外から中の様子が見える位置までやってきた。

 外から燃えた屋敷の中を覗いてみると、三人の若者がいた。

「拙者の部屋がぁ……」

「別にいいじゃない、どうせ卑猥な本でも隠してたんじゃないの?」

「しないでござるよ!?変な捏造はやめてほしいでござる!」

 なんだあの会話……気が抜けすぎなんじゃないか?自分達が暮らす屋敷が燃えている……というか、燃え切ったあとだというのに、なんてどうでもいい話をしているんだ。ある意味尊敬してしまう。

「蘭丸、部下たちに後片付けを命じてきてくれないか?」

「了解したでござるよ当主」

 当主と呼ばれたその男性は、この国では珍しい金色の髪をしていた。男性にしては長めの髪と高い身長がかなり目立つ。

 そして、どことなく父様に似ている気がする……。

(もしかして?)

 警戒する気持ちもあったが、私は屋敷へと足を踏み入れた。

「誰だ!」

 武士というのだろうか?刀を腰に携えた少年が振り返り、刀を構える。

「曲者でござるか?」

 私の今の格好といえば、フードを目深に被ってここでは珍しい服を着ている。確かに怪しさ満点だが、別に怪しいものではないため、さっさとフードは取り去った。

「黒髪黒目……日ノ本の国の方か?」

「いいえ、違うわ。初めまして、私は冒険者をやっているベアトリスという者よ」

 冒険者という肩書きはかなり便利なものだ。冒険者というだけで、ある程度の身分証明にはなるし、冒険者という立場上それなりの実力があるとみなされるのだ。

 そして、私の視界にはしっかりと相手方の反応が見えていた。特に、金髪の男性には……。

「そして、もう一度……初めまして」

 私は今度は金髪の男性に向かって挨拶をする。金髪の男性は困惑する様子も見せなかったが、残り二名の男女は若干戸惑っていたように見える。

「ああ、初めまして」

「あなたのことはなんと呼べば?」

「どういうことでござるかお嬢?」

「私にもわからないわ蘭丸」

 金髪の男性は少し考え込んでいる。

「ライトお兄様とでも呼べば?」

「「お兄様!?」」

「いいや、今の私はそんな名前じゃないよ、ベアトリス」

「そうですか」

 一番上の兄。私が生まれる前に婿入りしてしまい、顔すら一回も見たことがない。だが、会った瞬間なんとなく察した。

 この人が私の兄だと。

「今の私は氷室家当主、氷室孝明だよ」

「コウメイ?」

「ああ、横の二人は私の本当の名前を知っているが、他のみんなは知らないから注意してね」

「わかりましたコウメイ様」

 ……まあ、そうだよね。今初めて会ったばっかりだもんね、そりゃあお兄様と呼ぶことを許してくれないわけだ。

 わかってはいたが、かなり悲しい。だが、お兄様は前世の頃から冷徹な一面が強いと父から聞いていたので、なんとなくは察していたが。

「では、私は少々用事があるので失礼する」

「はい、いってらっしゃいませ」

 なんて他人行儀な返答なのだろうか……昔から一緒に暮らしていれば、もっと違う反応ができたのかもしれない。今の私にはこの返答を返すのが精一杯だ。

 コウメイ様が屋敷の反対側へと移動して言ったのを確認したあと、私もその場から立ち去ろうとすると、後ろから肩を掴まれた。

「ちょっとちょっとちょっと!どこへ行く気!」

「え?あの……」

「氷室磊よ、ライ!一体どういうことなの?お兄様っていうのは」

「そのまんまの意味ですよ。私たちは兄弟です」

「ほんとでござるか!?」

 なんかこの二人はすごいフレンドリーだな……。

「武士さんの方は……」

「拙者蘭丸と申すでござる、以後お見知り置きを」

 懇切丁寧な自己紹介を受けたところで、再び二人からの質問攻めが始まった。

「冒険者をやっているの?そもそも妹がいるなんて知らなかった!」

「拙者もでござる!あの当主様にこんなに可憐な妹殿がいたとは!」

「えっと……何から答えたら?」

 私があたふたしていると、突然後ろから殺気のようなものを感じる。だが、それはよく知っている気配から溢れていた。

「お嬢様に何をしている!」

「ミサリー、私は大丈夫だよ」

「いいえ、護衛として見過ごせません!お嬢様を困らせるなど、言語道断!」

 いつも通り過激派なミサリー。

「護衛でござるか?やはり、当主様もいいところの出身なのでござるか」

「出身はしらなかったの?」

「とある王国からやってきた弱小貴族とか言ってたでござるな」

「弱小貴族なんかではありません!」

 と、ミサリーが気合たっぷりに答える。

「この方はアナトレス公爵家長女にして、実質的な当主代理のベアトリス様ですよ!」

「「ええ!?」」
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