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隠れ里

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 忍

 それはその土地を治める領主に仕える諜報・破壊・暗殺活動を主な任務とする者たちのことである。その存在は時に戦争を大勝利へと導くほどの影響があった。

 敵国へ侵入し、情報を盗み出す。敵国へ侵入し、蔵を破壊する。敵国へ侵入し、高官を殺す。すべてが忍の得意分野であった。

 その重要性から、忍の素顔は秘匿情報扱いとされ、その住処さえ表にも裏にも公開されることはない。

 忍は集落を作って暮らしている。集落の場所は仕える領主によって変わるものの、忍がその土地で忍術などを学ぶのはどこも一緒である。

「てやぁ!」

 クナイが風を切りながら目の前の的目掛けて飛んでいく。それはまっすぐ吸い寄せられるように的の中心に向かっていく……なんて、都合のいい話はないが、それはしっかりと的に命中した。

「よし!」

 少年は的に命中したクナイを見て思わず喜んだ。初めてクナイを親からもらい、訓練が始まったころと比べると、見違えるほどにマシな腕前になった。

 だが、忍を家業としているこの集落の『服部家』の当主……つまるところ、少年の父はこの程度の腕前ではなかった。

「どうやったら、もっとうまく投げられるかな?」

 自分も忍として家を継ぐために、どうすれば腕前が上がるか日々試行錯誤を繰り返す。

 その間に、

「お兄ちゃん!ご飯できたー!」

「わかった、すぐ行くよ」

 妹からの声が庭にまで響き、それは兄である自分を呼んでいるものだった。家の中に戻ると、土で汚れた草履を脱ぎ、ふすまを開ける。

「あら、今日も的に当てられたのね」

「はい、でも端っこの方ですが……」

 長い髪を後ろで結んだ母が鍋をかき回しながら笑いかける。

「お父さんは今日も仕事だから、私たちで食べましょうね」

「はい、いただきます」

「いただきまーす!」

 鍋を囲んでみんなでそれをよそって食べる。今日の鍋は肉と野菜を中心にしたヘルシーなものだった。

 味付けも薄く、少し物足りないような気もするが、それはいつものこと。

「父上は今度はいつ帰ってくるんですか?」

「しばらく帰ってこれないでしょうね……何せ、内乱の真っ最中ですもの」

 怖いわ~、と言いつつ鍋をよそう母。

 この忍の隠れ里が見つかるわけがない。なぜなら、危険な魔獣が少なからず歩き回っている山の中なのだから。

 いくら気が狂った軍隊でも、ここは通らない。

「ご馳走様」

「え?もういらないの?もう少し食べてよ」

「今日はもう少し訓練したいんだ。この後、座学もあるし」

「そう、わかったわ。ケガしないでね」

 再び外へ出る。そして、それと同時に飛び上がりながらクナイを一本投げる。そして、右手で印を結ぶ。

 すると、一本だったクナイが三本に分身し、それぞれが庭に生えている木のどこかしらに命中した。

「ふぅ……」

 流石に朝からの訓練は体が耐えられずに、疲れてきた。その疲労を跳ねのけるように腰に手を伸ばす。

 自分の体のサイズに合った小さな刀を引き抜き、目の前に敵がいると思って振り抜く。

「はっ!」

 数回剣を振り、最後の一撃で葉っぱを斬りつける。それは見事に真っ二つになり、同年代に比べても優れている剣術だ。

「だけど、まだ……」

 まだ何かが足りない気がする。父上に追いつくにはまだ足りない。

 そんなことを考えている時、

「キュン」

「っ!?」

 庭の草むらから現れたのは一体の小さなキツネだった。そのキツネはこちらを見つめてくる。

 小動物は普通、人間である我々を怖がってなかなか出てこない。なのにも姿を現したこのキツネはとても異常だ。

「いた!ユーリ!」

 そんな声が聞こえてきた。明らかにこの集落で暮らす忍の声ではない。思わず、声のした方向を向く。

 本来人がいるはずがない上空に目をやると、そこには……いや、そこから急降下してきて、スタッときれいに着地をする三名ほどの人物がいた。

「先走りすぎだよ、戦場は先」

「えー?でも、休憩できそうなところは見つけたよ?」

「それはお手柄だけど」

 そんな会話が耳に飛び込んでくる。

「キツネが喋った!?」

 喋るにキツネに驚いていると、キツネをユーリと呼んでいた女の子がこちらを向く。黒い髪が少し長く、きりっとした目鼻立ちはとてもかっこいい。だが、それでいて、少女らしい柔らかそうで白い肌がとても印象的だ。

 そんな姿に見惚れていると、

「この集落の子?」

「は、はい」

 話しかけてきた少女は、笑顔でこちらに会話を仕掛けてくる。戦場と言っていたが、空中から落ちてきたことと言い、見事な着地と言い、この人たちは忍なのだろうか?

 やっぱりかっこいい!

「この集落で休息をさせてもらってもいいかしら?」

「も、もちろんです」

「そう、ありがとう。あっ、先に自己紹介しておくわね。私はベアトリス、少しの間よろしくね――」
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