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天使と悪魔

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「なんか聞いちゃいけなさそうな会話だった……」

 あ~悪魔の次は天使ですかそうですか。

 天使

 全能の存在として『神』と崇められている者の使者。神の眷属にして、神と人間の中間にいる霊的存在。私は、そう教わった。

 人間に友好的な天使がほとんどを占めていて、神の言葉を人間に伝えたり……手助けをしてくれる印象。

 その力はもちろんすさまじく昔の聖戦にもその名が出てきた気がする。悪魔と対をなす存在で、その力は互角。

 天使の序列というものが存在し、上位三隊の『熾天使』『智天使』『座天使』ほどになってくれば、白い翼をはためかせるだけでも、風圧が地形を変えるとかなんかと……。

「天使かぁ……懐かしいなぁ」

「まあ、ユーリは知ってるんですよね……わかってた」

 はあ……なんでこんなに愛らしいキツネがそんな長生きしてるのか……というか、ユーリって魔族の寿命とっくに超えてるだろうに、どうしてこんなに若々しいのだろうか……主に行動が。

「昔、聖戦をやってた頃に座天使に殺されかけたのを覚えてるよ」

「え?ユーリが!?」

「うん、普通にすべてにおいて負けてた!」

 元気に返事をするところじゃないからね!?

 ステータスが半減してるいまでさえステータス値が250000もあり、一人だけ桁がおかしい状態になっているというのに、そんなユーリをボコボコにできるのか座天使……。

 天使の序列は合計九つで、上から三番目に当たる座天使でさえ、ユーリを手玉にとれるんだったら、その上は一体……。

「あっでもね!今なら勝てるからね!ちょっと……力が戻ったらだけど……」

「もう一回魔力通してみる?」

「ご主人様の魔力だけじゃ、もう呪いの解除はできないよ……残念だけど」

 なんだって!?

「新事実なんだけど?」

「あれ?言ってなかったっけ?」

「言ってない!」

 私は今まで呪いは解除できるものだと思っていた。まさかできないとは……。

「でも、力が戻ったら座天使には勝てると……」

「智天使にも勝てると思う」

「それがすごいのかはよくわからないけど……」

 ひとまず、ミハエルの後ろを追いかける形で歩いていたユーリ……あっ、ミハエルに「そのキツネは?」と聞かれる前に元に戻ってもらっといた……が、立ち止まって顔をうつむかせる。

「熾天使には勝てそうにないかな。少なくともあと数十年は力を蓄えないと」

「そんなに?」

「まず、熾天使はそもそも下界には……こっちの世界にはなかなか降りてこないけどね」

 どうやら天使の中にも役割分担というものがあるらしく、最高位天使である熾天使は最高位の名にふさわしく神の付き人をやっているのだと。

「その実力は神にも匹敵すると言われてるよ」

「へー……ん?まって、それって悪魔たちにも当てはまるよね?」

 悪魔たちにもまた序列というものが存在し、全部で九つだ。

『王』『公爵』『君主』『侯爵』『君主』『伯爵』『騎士爵』それに加えて、印章を持たない中級と下級の悪魔……それらで九つ。

 君主が二つあり、名前だけじゃ判別することが出来ないが、悪魔には印章シジルと呼ばれる自分の地位を現すものを持っている。序列が上の『君主』が持っているのは、錫である。ちなみに下は水銀だ。

「そうだね、座天使は君主と同レベルの存在だよ」

「力が戻っていないユーリを任せるのはそこから上の王か公爵か君主……ってことは、私たちを探し回ってる悪魔の少女は少なくとも君主以上ってこと?」

「そういうことだね……」

 ここにきて、あの悪魔の強さを実感した。いや、元々実感はしていたが……現実味が増した気がする。

 あの化け物じみた強さは余裕で私たち全員を相手取れるほどに差があり、それらも含めて考えると公爵以上な可能性もある。

「でも、なんで天使の話なんかしていたの?」

「さあ?」

 天使と悪魔……もし天使がこの下界に降りてきてくれるのであれば、降りてきて悪魔を退治していただきたい。そもそも聖戦は何で起きたのか……なんで天使が今はいなくなって悪魔がたくさん湧いているのか……そこからよくわからないのだけれど……。

「そりゃあ色々な原因があるけど、一番でかいのは神の意向だろうね」

「どういうこと?」

「なんで聖戦が起きたかはまた今度話すとして、天使がこの世界からいなくなったのは、神が手を引いたからだよ」

 私にはスケールのでかすぎる話であるため、よくわからないのだが……。

 要約して話すと、この世界を作った神がこれ以上人間たちにかかわるのはよそうという結論に至ったらしく、神の意向で下界に降りていた天使たちも撤収したとのこと。

 もちろん、悪魔は退治した。悪魔はどこか遠い異界に飛ばしたので、もう下界には戻ってはこないだろうと……。

「いや、バリバリに戻ってきてるじゃん!」

「でもねぇ、天使はもういないから次はボクたちだけで何とかしなくちゃいけないんだよね……」

 悪魔が今各地に湧いているというのに、まだ誰も気づいていない。そして、魔族も人間の敵として攻めてこようとしている。

「人類大丈夫か?」

「だからボクらが何とかしなきゃね」

「ええ?」

「だってほら、人類守れるのってボクらだけじゃん?」

 いや、きっと強い人もっといるから!

 でも数が少ないのは明らかだな……。

『世界を救えるかどうか』って、森であったあの変態魔術師にも言われたけど、私たちにそれができるのか?

 というか!私はただ平穏な生活がしたいだけなのに、どうしてこんなことになってしまってるの!?

 いや、違う……前世でもきっと状況は同じだったはずだ。だが、私が悪魔や、魔族が攻めてこようとしているという情報を知る前に死んでしまったから……。

 とにかく、今は東の島国に向かうことだけに集中しよう。

「みなさん、着きましたよ?どうしたんです、そんなに暗い顔をして」

「なんでもないです。もう舟の用意が出来たんですか?」

 顔を上げると、そこにはきれいな半透明な水色の水面の上にプカプカ浮かぶ大型の船があった。

 その船には百人以上が乗れてしまうのではという大きさのデッキがついており、その下にはおまけ程度の砲台がつけられていた。

「みなさん、早く乗りましょう」

「はい」

 その大きな船にはすでに数人乗船している人物が見え、それを案内している船員さんが、こちらをみて頭を下げている。Sランク冒険者ってすげぇ……。

「みなさん、船酔いには気を付けてくださいね~」

「あっ……」

「どうしたの?」

 船酔いのことを完全に忘れていた!ただでさえ馬車で酔ってしまうほどなのに、船なんてのって大丈夫か!?

 そんな心配をするベアトリスだが、その予感は的中することになる……。
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